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草間彌生の「死生観」にふれる~『私は死を乗り越えて生きてゆきたい』@草間彌生美術館♯165
大学時代の仲間に会いに東京へ。
そのついでに数年来、ずっと行きたいと思っていた草間彌生美術館のチケットがとれ、足を運ぶことができた。
今やっている展示会は
『私は死を乗り越えて生きてゆきたい』
昨年11月に乳がんがわかって以来、死や生について考えることが多かったので、この展示会は絶対、行きたいと予約。
草間の作品は、とにかく色使いがビビット。生命力溢れる印象が強い。
希死念慮のエピソードは聞くものの、作品にどのように表れているのかよくわからなかった。
が、今回は年代ごとの展示。確かに70、80年代の作品は「死」を彷彿させる暗い色調の作品が目立った。
解説によると、1957年に草間は渡米していたが、この時期に心身の不調で帰国。父や恋人の死を経て、死をテーマとする作品を多数制作していたのだそう。死への衝動、死後の世界や異界を表した神秘的な作品制作をつづけたと解説には書かれていた。
私は中でも『死への旅出のために』という作品に心がとらわれてしまった。
この写真の一番右奥の作品。
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この作品は棺桶をモチーフにしているのだろうか。「死」の実感なんて日ごろ感じることなんてないけれど、自分の祖父母が亡くなった時の冷たく、硬くなった身体に触れた時、また焼き場で御棺を見送った時に感じた、なんとも言えない「あの世とこの世の実感」が作品を見ながらわきあがってきた。
また、草間が墓地でインスタレーションを行ったときの作品も印象的だった。解説パネルには、「死」の側から「生」を見るというようなことが書いてあったと記憶する。自殺未遂等を経験していた草間にとって、「死」は常に隣り合わせだったのだろう。
草間は、こうした作品制作を続けるうちに、永劫回帰や輪廻転生をテーマにするように。次第に作品に色数が増えていく。
2000年代以降の絵画シリーズでは迫りくる死の影が起爆剤となり、生命の神秘、生きる喜びをひたすら描き続けているのだそう。
美術館内で数少ない写真撮影が許可された作品、『マンハッタン自殺未遂常習犯の歌』。
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草間のインフィニティルームなどでも使われている合わせ鏡の作品だ。
この空間に入ると、無限に流れゆく時の中に「今」があることを実感する。
草間彌生美術館には、とにかく外国人が多かった。
確かに私がロンドンに住んでいた頃、草間の展覧会はロンドンを代表する現代美術館Tate Modernはじめ、街中のギャラリーでも開催されることがあり、とにかく予約がとれないほどの人気だった。ロンドンの有名デパートハロッズがKusamaに染まったこともある。
世界を魅了する草間の作品。彼女の生き様に触れると、ただ、「映える」、「かわいい」「おしゃれ」表面的な感想にはとどまらない、奥深さを感じた。
アーティストの人生観に作品を通じて触れられることはとても面白い。
その後、合流した大学時代の同期会。
「治療で辛くなったら、バンジージャンプやったらいいよ!」と友達に言われた。適当なアドバイスのようにも感じるが(笑)、彼が体験したエピソードを聞いてみると、これは「鳥の目を持て」というアドバイスなんだろうな、と思った。「鳥の目を持て」と言葉で聞くより、「鳥の目」を身体を伴って体感した方が、ぐっとそのメッセージを理解できる。アドバイスが重たくならないように、彼なりの気遣いでそんな適当にも聞こえるアドバイス(笑)をしてくれたんだと思う。
その点で、このようなアーティストが向き合った苦悩、悲しみ、そこからの再生などをアートを通じて五感を通じて味わう体験はおすすめ。バンジージャンプは人によって向き不向きあると思うけど(笑)、アートはより身近。
美術手帖の記事、草間彌生美術館『私は死を乗り越えて生きてゆきたい』の開幕レポートがわかりやすかったので、参考に・・・