ドイツの婚活サイトに潜入し、国際結婚した話⑨
■第9章■ 失策
年に一度の自分へのご褒美、海外旅行。
前回のヨーロッパ旅行での下調べ不足による失態を繰り返さないため、早めに行き先を決めることにした。しかし、今回は行き先はすでに決まっていた。
航空券とホテルがセットになっているチケットを取り、彼にもそのことを伝えた。ベルリンで1人暮らしをしている彼の部屋に泊まることも出来たに違いない。もし私がもっと若ければ、きっと航空券のみ購入し、ホテルの手配など考えもしなかったただろう。
これまでの経験から、様々なシナリオを想定し万が一、彼と会った時に何か違和感を感じたら、1人でベルリン観光を楽しむ予定だった。
そしてベルリン旅行が決まり高揚している中、彼から驚くべきメールが届いた。
なんと彼も日本へ来ると言うのだ!
彼も同じように、私の住んでいるエリアのホテルを予約した。
ベルリンで初対面を迎えるはずが、予定より少し早まり日本で会うことになった私達は、それなりの覚悟を持っている事を互いに自覚することで、より距離を縮めていった。
会う前にもっと相手の事を知りたかったし、日程など細かいスケジュールを決めていくのにメールだけでは不便だった為、必然的に連絡方法はビデオ通話になった。時差の関係で、週末の日本時間20時に通話することに決めた。
そしてそれは習慣化していき、彼はいつも時間ぴったりに掛けてきた。
私はそれが嬉しかった。真面目で繊細そうな彼が19:58分頃から携帯電話の前でそわそわしながら待機しているのが想像出来た。
恋人同士になる前の、あの甘酸っぱいシーズンが到来していた。
しかし、彼と会えることを純粋に喜ぶことは出来ない現実が待っていた。
約1ヵ月間、仕事を休むことになる。
派遣会社の担当者にも「これは認められない。もし休むなら次の更新は無い。」 と告げられた。とても働きやすい職場だったのでギリギリまで悩んだ。
もしこの旅行の間に彼と何も発展しなければ、 " 33歳彼氏無し無職 "になる可能性だってある。次の新しい派遣先を見つけ1人暮らしを続けることも出来たが、この旅行後に始まるであろう日本とドイツの遠距離恋愛、そして将来的なドイツ移住を見据えた時、最短で計画を実行できるよう、身動きの取りやすい環境作りを最優先させることにした。
まだ直接会ったこともない彼と、何も始まってもいない状態でこの先回りな選択は危険すぎると自分でも理解していたが、ここがきっと私の人生の分岐点に違いないと、あの欲望に満ち溢れた紙をもう1度確認し、そして賭けに出ると決めた。
楽しい旅行計画と上手く行き過ぎている婚活の裏で、友人たちにさえ話せないような大きな賭けに出てしまい、後戻りできない道を選んだことを考えると、毎日気が気ではなかった。
今が楽しければいいと身の丈に合わない生活を続け今日まで何も備えてこなかった。彼とマッチングアプリで知り合ってから、英語を勉強してこなかったことを深く後悔した。そして英語だけでなく日本のことも。会話の中で日本の歴史や政治、天皇制度について詳しく説明が出来なかった自分が情けなく思えた。
33歳にもなって、初めて自分の無知さに気づき、自分のこれまでの人生を反省した。
そんな時、少し前に学んだ哲学の言葉が頭に浮かんだ。
私は今まさに " 無知の知 " を知ったのだ。
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