"愛されカフェ"が終わるとき
2019年10月16日、地元で20年愛されたカフェが閉店するそうです。
そのカフェがあるのは、京都の五条大橋の近く。高瀬川と鴨川に挟まれたその店には、川沿いに面した大きな窓がある。そして、やわらかくて心地よい風が、店内を吹き抜けるのです。
私がこのカフェを知ったのは、ほんの数ヶ月前。高瀬川沿いを散歩しているときに、雰囲気良さそうだなぁと思って、ふらっと入ったのがきっかけでした。
配管剥き出しの天井。
どの位置からも鴨川が見えるように配置されたテーブル。
美味しいご飯とコーヒー。
なぜかほっと落ち着く空間のとりこになった私は、それから何度かそのカフェに通いました。
ある時は、大切な友人と。
またある時は、飲み足りない…と不満を募らせた帰り道に。
またある時は、一人でゆったりとくつろぐ時間に。
最終日を明日に控えたその店の前には、ずらりと長い行列がありました。今までも常に店内はいっぱいだったように思うけれど、並ぶまではしたことがありません。
みんなお店にお別れを言いに来たのでしょうか。それだけ長い年月の間、たくさんの人の心に残るカフェだったのでしょう。
カウンター席に通された私は、目の前で料理をする女性たちの動きを横目に、鴨川を眺めたり読書をしたり。
「忙しい、忙しい」と呟く彼女たちの声も、心地よいものだと思ってしまうから不思議です。目立ち過ぎず、でもその活気がお店を華やかにする。そんな接客でした。
お昼に選んだのは、お店に来て初めて食べたときと同じ。ツナとアボカドのサンドイッチと、いちじくとリンゴのジュース(季節限定)。
ボリューム満点のサンドイッチを、ゆっくりゆっくり頬張りました。
誰からも愛されたそのカフェが、あさってにはなくなるなんて。
帰りぎわに、「この建物はどうなるんですか?カフェが移転するとかは?」とお店の方に尋ねてみました。
「この建物のことは、大家さん次第なのでわからないですね。移転もしないです。」と。
せっかく見つけた大好きな場所だっただけに、ほんとうに悲しくて。信じられないという思いでつい確認してしまいましたが、閉店することに間違いはないようです。
いつまでも不変的にそこにあり続けることは、誰にも保証できないんだと改めて思います。どんなに愛された存在で、みんながそこにあり続けることを望んだとしても。
全てのものが流動的であるし、変わらないものなんてひとつもない。変わらないように見えていて、それは自分が一緒に変化しているか、または変わらないものだと思い込んでしまっているかだと思います。
あさってから、もうそこには無いのだけれど受け入れるしか、ないんだなぁ。
この店が心地よかったのは、訪れる人たちの、穏やかな心が作り出したものだったのかもしれません。そんなことを思いつつ、お店を後にしました。
数ヶ月の間、穏やかな時間をありがとうございました。またいつか、何かの形でこの空間に出会えたらいいな。
▽「愛されカフェが終わる時」続編