【韻の忘備録】バレンタインから派生した韻
2022/2/15、WREPで放送された「ROCK THE HOUSE」。
※WREPはヒップホップ専門のインターネットラジオ。「ROCK THE HOUSE」は、KEN THE 390さんがMCで、毎週火曜日22:00-23:00放送の番組。(2022年9月より、初回放送が火曜日19:00へと移動し、再放送が火曜日22:00と土曜日22:00へと変更。)
「バレンタイン」で踏める韻
リスナーからのメールをきっかけに「バレンタイン」で踏める韻の話になった。
みなさんなら「バレンタイン」と何で韻を踏みますか?
頭に思い浮かべてみてくださいね。
KEN THE 390さんが思いついた韻は
はけんしゃいん!!
「バレンタイン」も「派遣社員」も、"アエンアイン"の音なので、完全にガチ踏み!!
ここで、韻を踏める他の単語をただ単に挙げるだけで終わらないのが、KENさん。話は韻を踏むテクニックへと派生。
「バレンタイン」で韻を踏む場合、「あいうえお」の母音にあてはまらない「ん」をどう処理するかがポイント。
完全に踏むなら「ん」は固定
一音ずつはっきりと発音するような場合、「バレンタイン」と「派遣社員」、音としては"アエンアイン"のように「ん」の音を固定すると完全に韻を踏める。
「ん」を省略
「バレンタイン」は、"アエンアイン"の音ですが、「ん」を省略しても(聞き心地の良い)韻を踏める。
具体的には、KENさんがラジオで言っていた「しゃべんない」や「多面体」は、どちらも"アエンアイ"の音なので、「バレンタイン」(アエンアイン)の最後の「ん」を省略した音で韻を踏んでいる。
発音を工夫
一音ずつはっきりと「バ・レ・ン・タ・イ・ン」と発音するのではなく、「Valentine<バレンタィ>」(アエンアィ)や、「Silent Night<サィレンナィ>」(アィエンアィ)のように発音を工夫することで、"アエンアィ"の音で韻を踏める。
また、「関係ない」を「カ・ン・ケ・イ・ナ・イ」と一音ずつはっきりと発音するのではなく、「カ」と「ケ」と「ナ」を強調するように「カン・ケィ・ナィ」(アンエィアィ)のように発音し、「バレンタイン」を「バ・レン・タィ」(アエンアィ)と発音することで韻を踏める。
(文字でうまく伝えられてるかな…KENさんのラジオは超わかりやすかった…)
その他にも、「ん」を別の音に置き換えても(聞き心地の良い)韻を踏めるのですが、それは後ほど、ZORNさんと、KENさんの曲の中で、具体例を挙げます。
Zeebraさんが言ってた
「ん」を省略して韻を踏む一例。
【補足】
キングギドラ『見まわそう』
実際に発音してみると分かりやすいのですが、「禁じ手」(インイエ)は「韻辞典」(インイエン)の最後の「ん」を省略した"インイエ"の音で韻を踏んでいるので、聞き心地の良い韻になっている。(この歌詞の前後の「信じてたら」や「先んじて」でも"インイエ"の音で韻を踏んでいる。)
もし、「ん」以外を別の音に置き換えると聞き心地の良さが減る。
たとえば、「韻辞典」("イ"ンイエン)と「短期戦」("ア"ンイエン)の場合、1文字目以外は、"ンイエン"の音で韻を踏んでいるが、聞き心地はあまり良くない。(特に、単語内の高低アクセントが違うと、韻としての聞き心地は良くない。)
もしくは、「韻辞典」(インイ"エ"ン)と「シンジくん」(インイ"ウ"ン)では、"インイ○ン"(○は不規則)の音で韻を踏んでいるが、聞き心地はあまり良くない。
(「韻辞典」と、それぞれの単語〈「禁じ手」、「短期戦」、「シンジくん」〉を発音して聞き比べると、聞き心地の良し悪しが分かると思う。)
ちなみに、WREPで毎月第三金曜日21:00-22:00放送の「第三研究室」は、ZeebraさんとMummy-Dさんによる、リリック(歌詞)やフロウ(歌いまわし)などの、ラップテクニックを分析するニッチな番組で面白い。(日本語ラップの先駆者による神々の戯れ感。)
RとかZORNとかも踏んでるんじゃないかな
KENさんがラジオでチラッと言ってたので、R-指定さんとZORNさんが客演している曲の中から今回の話に当てはまる曲を探してみた。
R-指定
KEN THE 390『Overall feat. R-指定, 般若』
「ん」を省略して韻を踏む一例。
「平凡な街」(エオンアアイ)と「072」(エオアアイ)は、"エオアアイ"の音で韻を踏んでいる。R-指定さんは、このあとも、"エオアアイ"の音で、韻を踏み続ける。聞くたび、けっこう高い頻度で、平凡じゃないと、手を叩き、一礼を捧げる。
R-指定さんに関して、他にどうしても取り上げたいのは、Creepy Nutsの「紙様」の最後の方。
「目が無い」(エアアイ)と「縁が無い」(エンアアイ)は、「ん」を省略して韻を踏むという話の一種ではあるのですが…
音源を聞いていただくと、「目が無い」の部分を「め(ん)がない」のように発音をしていることが分かる。
これは、「が」は鼻濁音のため「んが」と発音しても違和感なく聞こえることを活用して、韻の聞き心地の良さを高めていると考えられる。
ZORN
KEN THE 390『Make Some Noise feat. ZORN,NORIKIY』
「ん」を別の音に置き換えて韻を踏む一例。
「多数決」(アウウエウ)と「野球拳」(アウウエン)と「ラプンツェル」(アウンエウ)は、"アウ○エ○"(○は不規則)の音で韻を踏んでいる。
上記の「"アウ○エ○"(○は不規則)」と記載した"○"の部分で登場するのは"ン"と"ウ"で、「ん」も「う」も似た音なので、違和感のない聞き心地の良い韻になっている。
ためしに「ん」を「う」以外を別の音に置き換える韻について考えてみる。
たとえば、「ラプンツェル」(アウ"ン"エウ)と「歩いてる」(アウ"イ"エウ)の場合、"アウ○エウ"(○は不規則)で韻を踏んでいる。
「ラプンツェル」を「ラ・プン・ツェ・ル」(アウンエウ)のように発音し、「歩いてる」を「ア・ルィ・テ・ル」(アウィエウ)のように発音すると韻としての違和感が少ない。
しかし「ラ・プ・ン・ツェ・ル」(アウンエウ)と「ア・ル・イ・テ・ル」(アウイエウ)のように一音ずつはっきり発音すると3文字目の"ン"と"イ"で違和感が出る。(「多数決」と「野球拳」と「ラプンツェル」と「歩いてる」を一音ずつはっきり発音して聞き比べると「歩いてる」の違和感が分かりやすいと思う。)
まとめ
以上より、「ん」を別の音に置き換えて韻を踏めることが、おわかりいただけたでしょうか。(特に、置き換える音が、「う」の場合は違和感が少なく、「う」以外の場合は発音を工夫することで、違和感を減らせる。)
なんてね
終わるとみせかけて
KEN THE 390
今回の話をしていたKENさんの曲から1曲。
KEN THE 390『Break All』
(テークエムさんとKennyDoesさんが、客演してるRemixバージョンも、とても良いですが、今回取り上げるのは、アルバム『en route』に収録されている、ソロの方。)
この冒頭の8小節だけでも、「ん」を省略したり、「ん」を別の音に置き換えたり、発音を工夫することで韻を踏めるということを体現しまくってる。
「突っ立ってる」(ウッアッエウ)と「通過点」(ウウアエン)と「空間で」(ウウアンエ)と「クランケ」(ウアンエ)と「不安定」(ウアンエイ)は、"ウ○ア○エ"(○は不規則)の音で韻を踏んでいる。(※各単語ごとにさらに細かい韻の解釈も可能)
「一点張り」(イッエンアイ)と「危険サイン」(イエンアイン)と「鎮静剤」(インエイアイ)と「実験台」(イッエンアイ)は、"イ○エ○アイ"(○は不規則)の音で韻を踏んでいる。
ちなみに、途中の「クランケ」(ウアンエ)の直後の「不安定」(ウアンエイ)の部分は、俗に言うところの「返り韻」。小節の末で踏んでいた韻を、次の小節の頭で踏むやつですね。
そして、この曲を聞きながら、ヒプマイ好きは考える。
えーやだー、「クランケ」って単語、KENさんが作詞した、シブヤとシンジュクのバトル曲『BATTLE BATTLE BATTLE』の歌詞にもあったよね?!そのバトル曲の中でも「不安定」と「クランケ」で韻を踏んでたよね!!
これを皮切りにヒプマイ好きはさらに考える。
「一点張り」といえば帝統で、「プロトタイプ」のヒプノシスマイクを使っているといえば理鶯で、「実験台」は乱数だろうか?
しかも、『Break All』の歌詞の途中には、「転がすダイス」もあるから、もしかして、とてもヒプマイ?!
「処方箋」は、『BATTLE BATTLE BATTLE』の中で「不安定」と「クランケ」で韻を踏んでいた、寂雷先生と関連していて、「いばら」とか「薔薇」は、一二三で、もしかして、「厚生年金」は独歩と関連している?
そもそも『Break All』という曲のタイトルが、一郎のソロ曲『Break the wall』とかかってる?
…というのは考えすぎか。
歌詞の中で、登場しない(見つけられない)キャラクターもいるから、きっと聞き手の脳内補正。
でも、もしKENさんが、そのような狙いを考えていなくて、無意識でヒプマイ関連の単語を、これだけたくさん使っていたら、怖いよね…