「鼻下長紳士回顧録」(上・下)安野モヨコを読んだ
「X」でなぜか漫画が流れてくることがあって(しくみがよくわかってない),
「鼻下長紳士回顧録の下巻」を数ページ読むことができた。
あれ? 上巻は読んでたのに下巻は読んでなかったと気づいて慌てて読んだけれど、アマゾンの購入履歴で見ると、なんと、上巻を読んでから9年もたってた!
竜宮城からいきなり浜へ打ち上げられた気分でした。
どうしても書評を書いておきたいと思ったのはこの言葉に引き込まれたから。
「変態とは、目を閉じて花びんの形を両手で確かめるように、自分の欲望の輪郭をなぞり、その正確な形をつきとめた人達のことである……」
娼館で働くコレットは、レオンの情婦。レオンが必要とするお金を稼ぐには普通の仕事では足りず、公認の娼婦となる。
そこでくりひろげられる痴態を「ものがたりのように」コレットが描き綴る。
コレットに「描いてみるように」ノートをくれたのは日本人小説家のサカエ。
サカエは小説のネタにでもと思ってノートをくれたけれど、コレットはコレットの物語を描く。サカエはそれを否定する。
レオンのこと、同僚のこと、痴態の内容について。
「変態であること」の真摯さと貪欲さについて。
そのうちにレオンは、高級娼婦ナナに溺れ、身を持ち崩し、サカエもまたナナにより身を持ち崩し。
レオンに捨てられることについてもコレットは書き綴り、迷っては止まり。
そして、苦しんで描いた原稿は、娼館の客によって新聞小説として掲載される。
安野モヨコさんが病気をしていて、「オチビサン」以外の連載を休載していたことは知っていたけれど、いつのまにか描きはじめられていたのは知らなかった。
*「鼻下長紳士回顧録」を描き始めた頃は、一本描いたら3ヵ月くらい休まないと次が描けませんでした。毎回そうやって休んでは描いていて 次はいつになるかわからない。
連載、と言う形になるのかさえ怪しく まさか完結できると思っていませんでした
(第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞受賞の際のコメントより)
という状態だったらしいので、なるほど気づかなかったわけです。
でも、それがこの作品の凄みだとも思う。
「変態とは、目を閉じて花びんの形を両手で確かめるように、自分の欲望の輪郭をなぞり、その正確な形をつきとめた人達のことである……」
この「変態」を「表現」という言葉に置き変えると、彼女がどういうふうに作品に向き合っているかがよくわかる。
サカエは言う。
「才能とは…何か特別なことではなく
ただ…ひたすら継続して書いて
いくことだと
自分を
掘り下げ続けても
絶望しない能力
だと気付いたのだ
たとえそこに
何もなかったと
しても」
(鼻下長紳士回顧録 下巻より)
わたしはエロいものは大好きだし、安野モヨコさんの描くエロチック下着姿や、娼館での想像力豊かな変態行為もおおいに楽しみました。
ほんとに美しくて、きれいでエロい!
でも、それ以上に。
この作品に込められた、作者自身のメッセージ。
そのメッセージに、作者が作品の中で出会って、そこから作品が成立していくような醍醐味がすごすぎて。
ほんとにいい作品に出会えたと思っています。
「X」にも感謝です。