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「速読英単語」シリーズを語る


はじめに

 この記事では、言わずと知れた有名な単語帳である、「速読英単語」シリーズを紹介していきます。

 紹介と言っても、どんな参考書なのかを説明するというよりは、どういった点が魅力なのか使い時はいつなのか同じような参考書としてはどのようなものがあるか、などについて存分に語っていく、というかたちです。

 まず、ここで具体的に見ていくのは次の5冊です(この記事では、Amazonアソシエイトリンクを使用しています):

風早寛(2020)『速読英単語 中学版 改訂版』(Z会)

風早寛(2021)『速読英単語 入門編 改訂第3版』(Z会)

風早寛(2022)『速読英単語 必修編 改訂第7版増補版』(Z会)

 なお、『速読英単語 必修編』については、『速読英単語 必修編 改訂第8版』が2025年3月1日に発売されます。

風早寛(2023)『速読英単語 上級編 改訂第5版』(Z会)

温井史朗・岡田賢三(2024)『速読英熟語 改訂版』(Z会)

 英語の勉強自体については、『大学受験英語の標準的な勉強法』という詳しい記事を書いているので、もしよければ読んでみてください。


特徴

 本シリーズの何よりの特徴は、単語帳でありながら各見出し語を含んだ長文が掲載されていることです。長文の中で出てきた単語を覚えていくことをコンセプトとした参考書になっています。

 基本的な構成としては、まず「英文+和訳ページ」があり、その次に英文内で出てきた単語をまとめた「単語ページ」が用意されているというものです。

 なお、『速読英単語 中学版 改訂版』には長文に代わり会話文のページが、『速読英熟語』には4コママンガが取り入れられているなど、いくつか例外もあります。

 収録語数は、『速読英単語 中学版 改訂版』が2300語、『速読英単語 入門編』が約1400語、『速読英単語 必修編』が約1900語、『速読英単語 上級編』が約1200語、『速読英熟語』が約1000語です。

 また、シリーズによりやや異なりますが、読解に当たり注意して読み取るべきポイントや、速読の目標タイム長文の文法的解説英単語の意味の推測のためのコラムなどが載っています。

 さらに、長文の音声ダウンロードができるほか、英単語学習アプリ「mikan」を無料で利用することもできます


魅力

 この魅力は、次の2つの方向性から語ることができるでしょう。まず、「ただの単語帳ではない」という方向性から、そして、「ただの英文集でもない」という方向性からです。

ただの単語帳ではないということ

 「速読英単語」シリーズの第一の魅力は、何と言っても、見出し語をすべて含んだ長文が掲載されていることにあります。

 英単語を一語、訳を覚えて学んだところで、実際にどういう使い方がされるのかが分かっていないと、上手く読めなかったり使えなかったりします。ある英単語を学んだときには、その使われ方にも目を向ける必要があるのです


 ある英単語の使われ方、というのは、どういう文脈の中で使われているのかどういう気持ちの中で使われているのか、といったことを実際に見るとわかることが多くあります。

 そういうときには、やっぱり長文を読むのが一番です。でも、「速読英単語」シリーズのような単語帳がなければ、ある単語があったとしてそれが使われている長文を探すということをしなくてはいけません(そんなことはよほど出現頻度の高いものでなければ不可能ですね)。

 そうすると、英単語を覚えることと、その英単語がどういうものなのかを理解することを、別のタイミングでしなければいけないことになります。「速読英単語」シリーズを使えば、それを同じタイミングで行えるということになります

 もちろん、その単語が使われている長文を一つ見ただけで、その単語の使い方を理解できた、とまではならないはずです。それでも、「そういった文脈で使われたりするのか」といったことが少しはわかります

 もちろん、ふつうの単語帳にもある「用法」とか「例文」で十分ではなのかと思う方もいると思います。たしかにそういう側面はありますし、英単語を理解するという意味ではもっと良い参考書もあるでしょう。

 しかし、長文が付属しているからこその大きな利点もあるのです


 もっとメタ的に、英単語に限らず英語の勉強全体を視野に入れたときに、「速読英単語」シリーズはさらに輝きます

 一般に、英単語の勉強を積んだだけでは英語ができるようになりません。英単語をたくさん覚えていれば(そして同時に英文法の十分な知識があっても)英文が読めるようになる、というわけではないのです。

 英単語の意味をその文脈に合わせて汲み取ること、文法的知識をしっかりと引き出すこと、そのステップを意識せずとも自然に踏むこと、読解力、などは、多くの英文に触れることで身についていくものです

 英単語の勉強をかなり重ねているのに、英語の長文にあまり触れていなくて、英文を読む中でその英単語の知識をうまく引き出せないということは多くあります

 英語の長文にあまり触れられない理由の一つとして、やっぱり、読めない長文を読むのは苦痛だからというのがあるでしょう。

 でも、最初から長文を読めるというのはめったにないことです。読めないながらも、少しずつ英文を読んでいくことで、段々読めるようになっていきます

 そのようにして勉強を進めていくときに、自分が既に学んだ英単語を中心に書かれている英語長文があるというのはとても助かります。

 「速読英単語」シリーズはその役割を果たしてくれるのです。「速読英単語」シリーズを用いて単語の勉強をするとなれば、必ず一定量の長文に触れることになりますから


ただの英文集ではないということ

 それなら、「速読英単語」シリーズをやらずとも英語長文をただただ読み進めればいいじゃないかと思われる方もいるでしょう。

 それもそうかもしれません。しかし、「速読英単語」シリーズを使えばこそできることもあります。

 「速読英単語」シリーズというのは、やはり単語帳であって、それはすなわち、必要な英単語を網羅しているということでもあるのです。

 実際、『速読英単語 必修編』には「入試出現語の95%をカバーする必須1900語」というキャッチコピーがあるくらいです。

 これまで話してきたように、「速読英単語」シリーズを使えば、英単語を覚えて、その使われ方を英文を見て確認するということができます。

 しかし、それだけではなくて、英文だけを読み、自分の英単語の知識を点検するということもできるのです。

 「速読英単語」シリーズはそれ自体が必要な英単語を兼ね備えた立派な単語帳ですから、掲載されている英文を読み、その英文の中にわからない単語がないかを確認していくと、英文を読む練習を重ねながら英単語の知識を網羅的に復習することもできるのです。

 実際、僕が「速読英単語」シリーズに触れたのはかなり遅めだったので、そういう使い方をしました。

 『速読英単語 必修編』と『速読英熟語』について、そこに掲載されている英単語をほぼ網羅している自信を持ったうえで、掲載されている英文を全部読み、分からないものをチェックして、基礎的な英単語の習熟度を確かめていました


 「速読英単語」シリーズが、ただの英文集ではなくて単語帳であるということは、つまり、単語の説明が、よく長文問題集で付録として付いているような単なる単語リストよりはるかに詳しいということでもあります。

 「速読英単語」シリーズは、単語帳らしく、「単語ページ」における単語の意味・説明はかなり丁寧に作られています。長文内で出てきた単語を見出し語とした上で、単語の訳としては長文内で使われていないものも取り上げ、さらに関連語や対義語、イディオム、例文も付いています。


多彩なコンテンツ

 他にも、「速読英単語」シリーズの魅力は多くあります。

 まず、長文の音声のダウンロードができるため、リスニング対策として、英語に耳を慣れさせる練習も並行して積むことができます

 他にも、英文解説の別冊がついていることも魅力です。英単語が読めれば英語長文が読めるというわけではないので、長文の訳が作れないということもあるはずです。そのときに、この解説を見て理解を深めるということもできるのです

 『速読英単語 必修編』については、より詳しい解説がついてしっかりと長文演習を積むことのできる、Z会編集部編(2022)『速単の英文で学ぶ長文問題70 速読英単語 必修編[改訂第7版増補版]対応』(Z会)という参考書もあります。

 前述のように、2025年3月1日に『速読英単語 必修編 改訂第8版』が発売されるため、同日に、それに対応した、Z会編集部編(2025)『速単の英文で学ぶ英語精読問題71 速読英単語 必修編[改訂第8版] 対応』(Z会)も発売されます。

 『速読英単語 上級編』については、未知の英単語の意味を予測していくための解説が書かれていることも魅力です。実際に英文を読んでいくうえで、すべての単語を知っているということは基本的にはありません。

 前後の文脈や単語の形から予測していくことも往々にしてあります。その考え方を学びながら、練習を積むこともできます。

 他にも、全シリーズについて、英単語学習アプリ「mikan」を無料で使うことができるのも魅力です。人によっては、英単語をアプリで覚える方がやりやすいという人もいるでしょう。そういう人にとっては、アプリを使って学習もでき、多様な学習の仕方ができるのも魅力です。


立ち位置と使い方

 『速読英単語 必修編』を、高校1冊目の英単語帳として使っている人は多くいると思います。単語の説明も十分にあり、英単語を学びながら長文にも触れられますから、適していると言えるでしょう

 『速読英単語 中学版 改訂版』であれば、中学1冊目の英単語帳にもなるはずです。あるいは、『速読英熟語』英熟語帳として、『速読英単語 上級編』は高難易度の単語帳ですから高校2冊目の英単語帳として使えます。

 一般に、同レベル帯の英単語帳を2冊やる必要はあまりありません。網羅度にそこまでの違いはないからです。1冊目の英単語帳の完成度を高めることが大事です

 たとえば、竹岡広信(2024)『改訂版 必携英単語LEAP』(数検出版)を選択していたとすると、高難易度の関正生(2023)『大学入試英単語 SPARTA3 mastery level 1000語』(かんき出版)をやることはあるかもしれませんが、同難易度のターゲット編集部(2020)『英単語ターゲット1900 6訂版』(旺文社)をやることはほとんどありません。

 しかし、「速読英単語」シリーズは、前述したように、英文を中心に使っていくことで、基礎的な英単語の理解度の点検もできます。1冊目として他の英単語帳を使っていても、上手く使うとさらに英語力を高めていく余地があるのです。


 その一方、「速読英単語」シリーズはどうしてもリーディングに力点が置かれているため、人によっては他の単語帳の方が望ましいこともあるでしょう。

 英語表現を覚えていきたいということであれば、『必携英単語LEAP』霜康司・刀祢雅彦(2019)『システム英単語〈5訂版〉』(駿台文庫)の方が使いやすいかもしれません。


 私自身の考えとしては、英単語の理解を『必携英単語LEAP』を使って深めたうえで、英単語の復習と長文演習を兼ねて「速読英単語」シリーズを使っていくのが良いと思っています。

 英単語への理解を深める上では、『必携英単語LEAP』の方がより役立つと考えているためです(詳しくはまた『必携英単語LEAP』の記事を書く予定です)。

 それでも、基礎的な単語を網羅しながら英文を読む練習を積めるという「速読英単語」シリーズの強みはぜひとも利用したいので、どこかのタイミングで、ぜひ使ってみたいものです。

 そのタイミングは、時間的余裕にも左右されるはずです。早い時期で基礎的な英単語を押さえているなら、本格的な長文演習に入る前に準備として。あるいは、英語の勉強を進めてきてある程度はできるが、英単語帳から離れて久しく、その定着度が不安なときに点検として。


類似参考書の紹介

 実は、「速読英単語」シリーズと同じコンセプトを共有している英単語帳は多くあります。

 私の、『大学受験英語を本気で楽しむ』という記事でもそのコンセプトの参考書をより広い視点で多く紹介しています。


 ここでも、いくつか紹介をしていきます。

 まず、「速読英単語」シリーズの出版社であるZ会自体が、英単語を長文の中で覚えることを重視しているため、多くの単語帳を出版しています。

 まず、松本茂編(2017-2024)「速読速聴・英単語」シリーズ(Z会)があります。Basic 2400・Core 1900・Advanced 1100・Daily 1500・Opinion 1100・Business 1200・STANDARD 1800・GLOBAL 900と、多くのレベルに分かれており、使いやすいかもしれません。

 他に、英単語の網羅性以上に英文の質やテーマ性を意識した参考書も多くあります。たとえば、中澤幸夫(2006)『話題別英単語リンガメタリカ 改訂版』(Z会)は非常に優れた参考書です(いつか記事を書く予定です)。

 同じ著者の似た構成の参考書として、中澤幸夫(2009-2010)「テーマ別英単語 ACADEMIC」シリーズ(Z会)もあります(これについても記事を書く予定です)。初級・中級・上級に分かれていて、中級・上級については、それぞれに人文・社会科学編と自然科学編があります。

 他に、「速読速聴・英単語」シリーズと同じ著者のもので、松本茂編(2022)「英単語Issue」シリーズ(Z会)というものもあります。良質な英文がそろっていて、環境編と、キャリア・学び編の2冊があります。

 Z会以外なら、他に、おなじみの旺文社編(2022)「英検 文で覚える単熟語」シリーズ(旺文社)も、「速読英単語」シリーズと似た構成の単語帳ですね。

 あるいは、宇佐美光昭(2020)『英文で覚える 英単語ターゲットR 英単語ターゲット1900レベル 改訂版』(旺文社)というものもあり、『英単語ターゲット1900』を使っている人は、これを使えば、「速読英単語」シリーズのように『英単語ターゲット1900』を使うことができます。

 そのほかの参考書については、前掲の『大学受験英語を本気で楽しむ』を参照してみてください。


おわりに

 ここまで、「速読英単語」シリーズについて、存分に語ってきました。

 大事なのは、英単語をただ一語一義的に覚えていくだけではなくて、実際に多くの英文を読んでいく必要があるということです。そのために、「速読英単語」シリーズは非常に役立ちます。

 単語帳としての性格をメインに使うことも、英文集としての性格をメインに使うことも、どちらもできます。各自の学力や時期に合わせて柔軟に選んでいくことが大事です。

 この記事が参考になれば幸いです。受験生の方は勉強を頑張ってください!!!

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