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出版でセルフブランディング:本のタイトルを商標登録?

近年、経営者や専門職の方々が書籍出版を通じてセルフブランディングを行う事例が増加しています。
 
そうした活動をより強固な「ブランド」として位置づけたい場合、書籍のタイトルを商標登録するという選択肢も考えられるかもしれません。
 
しかし、実際にはタイトルが単に書籍の内容を示しているだけの場合、商標登録が難しいうえ、たとえ商標登録できたとしても、第三者に対して権利行使が難しいケースがあります。
 
そこで今回は、どのようなときに書籍のタイトルを商標登録できるのか、また、どのようなメリットがあるのかについて解説していきます。


今回のポイント

  • 本のタイトルは商標登録できるの?

  • どんなときに商標登録できる?

  • 本のタイトルを商標登録すべきか?


本のタイトルの商標って?

ゆう:最近ビジネス本を出版する人が増えてるよね。SNSとかでも「自分の本を出しました!」って人、よく見かける。
 
りょう:うん、書籍を出すと信用度が上がるし、ブランディングにも効果的だね。
 
ゆう:そういえば、本のタイトルを商標登録するって話をたまに聞くけど、いまいちメリットがピンとこなくて・・・
 
りょう:結論からいうと、タイトルによっては登録できないこともない。でも、そもそも登録するメリットがある場合と、そうでもない場合とがあるんだ。


本のタイトルは商標登録できる?

ゆう:そっか、具体的にはどういうこと?
 
りょう:まず、商標登録をするときは「商標」と、それを使用する「商品」や「サービス(役務)」を指定して特許庁に出願する必要があるんだ。
 
ゆう:本の場合だと?
 
りょう:本に使用するタイトルを登録するのなら、「商標」は本のタイトルで、「商品」として「書籍」「雑誌」「印刷物」とかを指定することになるね。
 
ゆう:それで登録できるの?
 
りょう:そこにはハードルがあって、いろんな条件をパスしなきゃならない。例えば、本のタイトルが書籍の「品質」を普通に表示しているだけの場合は登録できないんだよ。
 
ゆう:ん、どういうこと?
 
りょう:出願された「商標」が、本のタイトルだって認識でき、それが単に本の内容を表している場合には、商品「書籍」等について登録は難しいってことだね。
 
ゆう:たとえばどんなタイトルが該当するの?
 
りょう:たとえば「商標法」や「実践!経営戦略」みたいな、内容そのものを直接示すタイトルは厳しいね。原則として、単発の本のタイトルは商品「書籍」等について登録は難しいと考えておいた方がいい。
 
ゆう:じゃあ、どんなタイトルなら登録できるの?
 
りょう:パッと見て本のタイトルだと分からなかったり、「ブランド」を表していると判断できたりする場合だね。
 
ゆう:「ブランド」を表しているときって?
 
りょう:定期的に異なる内容で出版される本のタイトルとかだね。たとえば「日経ビジネス」や「NON-NO」は登録商標だけど、内容というより雑誌そのものの「ブランド」を表しているよね。
 
ゆう:ああ、何となく分かる気がする。


本のタイトルの商標的使用って?

りょう:あと、本のタイトルが商標登録できても、その使い方次第では権利行使できないケースもあるんだ。

ゆう:権利行使できないってどういうこと?

りょう:せっかく商標登録しても、そのタイトルを「ブランド」として使っている相手にしか「やめてください」って言えないってこと。

ゆう:それだと意味がないような・・・

 りょう:つまり、「ブランド」として使用していない人には権利行使できないんだよ。単に本の内容を示すために使われているだけなら、商標権侵害とは見なされないんだ。

ゆう:ブランドとして使用って?

りょう:本のシリーズや雑誌、出版社の「目印」として使っている場合を指すんだ。「商標的使用」っていうんだけどね。過去の裁判例でも、単に本の内容を表す使い方だと「商標的使用」じゃないって判断になることが多いんだ。

POS事件(東京地裁昭和63年9月16日判決)
「POS」という登録商標を有する原告が、被告の出版する書籍の題号に含まれる「POS」が商標権を侵害すると主張しましたが、裁判所は「POS」は「問題志向システム(Problem Oriented System)」の略称として書籍の内容を示しているだけで、「商標的使用」ではないと判断し、原告の請求を退けました。

がん治療の最前線事件(東京地裁平成16年3月24日判決)
「がん治療最前線」という登録商標を有する原告が、「がん治療の最前線」というタイトルの書籍を出版していた被告に対し、差止めや損害賠償を求めました。しかし裁判所は、このタイトルは最新のがん治療法を掲載した雑誌であることを示し、商標としての使用行為ではないとして、原告の請求を退けました。

朝バナナ事件(東京地裁平成21年11月12日判決)
「朝バナナ」という登録商標を有する原告が、「朝バナナダイエット成功のコツ40」という書籍の出版差止め等を求めました。しかし裁判所は、このタイトルは「朝バナナダイエット」の方法論を示すにすぎず、商標的使用に当たらないとして原告の請求を退けました。


本のタイトルを商標登録するメリットって?

ゆう:じゃあ、本のタイトルを商標登録してもメリットないの?
 
りょう:それはやっぱり「使い方」によるよ。本のタイトルをシリーズ化したり、雑誌名みたいにブランドとして認知させたりすれば、商標権を活かせる可能性はあるからね。「ブランド」として育てる使い方なら商標登録のメリットは大きい。
 
ゆう:「NON-NO」みたいな感じね。
 
りょう:そうそう。単発の本のタイトルだけなら正直あまりメリットはないけど、シリーズ化したり、セミナーやサービスの名称として展開したりするなら、商標登録する意味は大きいよ。
 
ゆう:なるほど、「ブランド」として育てるつもりなら、商標登録を検討したほうがいいのね。


今回のまとめ

  • 本のタイトルを「書籍」「雑誌」「印刷物」に使用する場合は、原則として商標登録は難しい。

  • 本のタイトルと認識できない場合や、タイトルが「ブランド」を示していると認められれば、商標登録できる場合もある。

  • そもそも、単発の本のタイトルとして使用するだけであれば、商標登録するメリットは小さい。

  • 一方、本のタイトルをシリーズ名やサービス名として展開し、「ブランド」として育てていくのであれば、商標登録のメリットは大きい。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
弁理士 中村幸雄
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