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織田 由紀夫
2024年6月6日 20:52
1気が付くと私は、ここに居た。ひどく頭が痛い。太陽も無いのに、燃える様に熱い。月も無いのに、凍える様に寒い。私は、今何処に居るのだろう。辺りを見渡しても、何も見つからない。ただ、うっすらと一面にモスグリーンが広がっているだけだ。例えるなら、留置場の様な色彩だった。私は、昔見た映画を思い出した。看守と囚人が仲良くなる映画だ。私の記憶が正しければ確か、あれはハッピ
2024年1月7日 07:53
1 「ありがとうございました」 閉店間際に来る、彼の名前を私は知らない。一杯のコーヒーを求めに彼はやって来る。彼が何処に住んでいて、何をしているのかさえ分からない。只、一つ分かっている事がある。それは、私が彼に恋をしているという事だった。 私の名前は、美香。淡々と高校を卒業して、近くの大学へと進学し、単位を取る為だけに通っている。友達はみな、彼氏が居る。勿論、私
2024年1月7日 10:07
「田中さん、肺癌だってよ。しかもステージ5」近くで同僚が呟いている。瑠璃には微かに聞き取れた。そして、パソコンを打つ瑠璃の手が止まった。田中さんは、瑠璃の直属の上司だった。新卒で入って来た瑠璃の教育係が田中さんだった。窓の外に目をやると、まだ寒い日は続きそうだ。働き盛りの田中さんが癌だと、瑠璃にとっては、まさに驚天動地の事だった。信じられない出来事はいつだって、突然訪れる。
2024年6月11日 02:50
1「まっ、私が居なくても世界は回るわな」ケイコはこの日、8本目のタバコにキスをしながら、独り言を呟いた。その日丁度、雇用契約が切れる日だった。キャメルの14milli gramはケイコの口腔を媒介し、肺の中に充填されていく。子供の時に飛ばした風船の様に、瞬く間に絶望で一杯になる。眠れない夜は決まって、東京の街を練り歩く。今日のケイコは池袋に来ていた。東武から程よい所の赤提灯で一
2024年1月11日 15:54
1 東京が残酷な街だとは知っていた。金持ちになるのも、乞食になるのも東京。よく、ばぁばが言っていた。それでも私には東京に対する憧れがあった。日本一の大都会「東京」 夢も恋も、仕事もプライベートも全て満たしてくれる不思議な街。そんな淡い想いを胸に、私は上京した。自分の夢を叶える為に。 イラストレーターになる夢があった私は、最初はアシスタントから始められる小さなデザイン会社に入社した。