─中編小説─ 「kiss」織田由紀夫
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「まっ、私が居なくても世界は回るわな」
ケイコはこの日、8本目のタバコにキスをしながら、独り言を呟いた。
その日丁度、雇用契約が切れる日だった。
キャメルの14milli gramはケイコの口腔を媒介し、肺の中に充填されていく。子供の時に飛ばした風船の様に、瞬く間に絶望で一杯になる。
眠れない夜は決まって、東京の街を練り歩く。
今日のケイコは池袋に来ていた。東武から程よい所の赤提灯で一人、ヤケ酒をカッ食らう。
ケイコは今年の夏で28歳になる。実家の福岡には、もう