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英語の勉強って、辛いですよね!?「英子の森」を読んで感じたこと…

私が「英子の森」を知ったのは、割と最近のこと。英語学習者や、英語を使った仕事をしている人の間では、有名な作品みたいですね。ファンタジックな表紙と裏腹に…ゾッとするようなお話でした!

といっても、ホラー小説ではありません。

主人公の英子(えいこ)は、森の中にある素敵な一軒家に母親と一緒に住んでいる。「英語ができると良いことがある」と英語学習をがんばってきたけれど、専門的な仕事をする実力はない。似たような境遇の人たちと、退屈な、ほんの少しだけ英語を使うような仕事で妥協している…。「英語ができれば世界が広がる」はずだったのに、どうしてこんなことに…

というストーリー。

もう、これ、読んでいて背筋がゾッとしました。私もずっと英語が好きで、学生時代から英語を使った仕事をしたいと思っていました。でも、短大の英文科を出たぐらいでは、当然、通訳や翻訳なんてできるはずありません。英語を使う仕事といえば貿易事務ぐらい…?実際、短大の授業で、貿易事務で使う英語を学ぶ授業もありました。でも、「船積み」がどうとか、「FOB(Free on Board=本船渡し)」がどうとか、全く興味が持てなくて。

しかも、当時は就職氷河期。真面目に就職活動をしているクラスメイトも、なかなか内定がもらえず、卒業時にも就職が決まらない子もたくさんいました。私は全く就職活動をせず、短大在学中からやっていたバイトを続けるつもりでした。大好きな映画に関わる仕事で、アメリカ人のお客さんも多く、英語を使うことも多かったので、就職してツマラナイ仕事をするより、楽しく、やりがいがあることをしたかったのですよね。

とはいっても、いつまでもフリーターをしているわけにもいかないので、数年後、英語を使った仕事を本格的に探し始めました。でも、正社員経験もない私の転職活動は当然厳しかった。

ある時、地元で英文事務の求人を見つけ、小さな事務所に面接に行ったのですが、私と同じような年代の女性が15人くらい面接に来ていて驚きました。社長さんも、「こんなに応募して下さる方がいるとは…英語をそんなに使うわけでもないのですけど…」と申し訳なさそうにしていたのを覚えています。まさに「英子の森」に出てくる人たちのようです…。

その後、派遣で英語の仕事を探したのですけど、ある時、コーヒー豆を輸入する小さな会社を紹介されました。制服を着た、優しそうな年配の事務員さんに「お昼は女子社員みんなでここで食べているんですよ」と応接室に案内された時、女子社員3~4人が低すぎるソファに腰かけ、「笑っていいとも」を見ながらお弁当を食べている様子が目に浮かび、涙が出そうになりました…。私が働きたいのは、こういう所じゃない…。

面談終了後、駅まで歩きながら、派遣会社の営業担当の男性に「この仕事、本当に英語を使えるんでしょうか…」とおずおずたずねると、「まぁ、輸入するコーヒー豆の名前とかは、英語なんじゃないっすかねー」と言われ、もうこの仕事は絶対にお断りしよう、と決意しました。

紆余曲折あって、20代前半で、大手メーカーの翻訳の仕事を紹介されました。こちらのnote記事↓に書いていますが、業務時間中に翻訳の勉強をさせてもらったり、未経験なのに高時給で雇っていただき、私の翻訳スキルや英語力が培われた職場でもありました。

…ただ、この仕事を得るまで、また得た後も、英語を使った単発の仕事はたくさんしてきたので、「英子の森」で描かれていることが痛いほどわかるんですよね。

英語を活かせる、ってそもそもなんなんだろう。
はじめて英語を使う仕事をしてからずっと、英語を使っているのではなくて、英語を使わせてもらっているような気がしていた。英語を使うことのできる仕事を、見えない誰かに用意してもらっているような気がするのだ。使わなくてもいいものを使いたい使いたいと思う、その気持ちを見えない誰かに見透かされていて、ねえそんなに使いたいんだったら、50円差でもいいですよね、だって使いたいんでしょうあなた、英語を。

この英子の心の声、すごーくわかる!「やりがい搾取」っていうのかなぁ。

英語を使いたい」という人の気持ちを踏みつけるような、職務内容や環境だったり。幸い私は、長期の仕事では英語力やスキルを買っていただいて、(私にとっての)好条件で働いてきましたが、この本に出てくるような国際会議の受付などの仕事もしたことがあります。

「英語力、活かせます♪」の言葉に釣られていざ行ってみたら、英語なんてほとんど使わない。たまに外国人のお客様が来ると、みんな我先にかけ寄ったり。私がオリンピックのボランティアに対しても懐疑的だったのも、「英語を活かしたい!」という人を利用して踏みにじるような「やりがい搾取」的な構図が見えたから。

私の場合、「英語のプロ」として派遣されたつもりで行ったのに、「25秒遅刻です!」なんて怒られ、ガックリすることもありました。

そして、英子が英会話学校に勤めた時のエピソードが出てくるのですが、こちらも「やりがい搾取」としか言いようのない酷い環境。20年くらい前に読んだ「女は英語でよみがえる」で、著者の安井京子さんが英会話学校に勤めた時の似たようなエピソードを書かれていたのを思い出しました。

「英子の森」では、英子が仕事をしながら専門学校に通っている描写もでてきます。

なんか、もう辞めちゃおうかな。先が見えないっていうか、見えすぎるっていうか。講師の人たちも、一線で活躍しているプロの方ばかりですって言われてるけど、ほんとは、みんな学校の卒業生なんだよね。高いお金出して、コースの一番上ま上りつめて、結局今度はそこで教える側にしかないってなんかむなしいよね。

これもうなずいてしまった…!昔、社内翻訳をしているとき、通訳学校に通っている40代の女性がいたのですね。1人暮らしの方だったので、派遣で翻訳の仕事しながら、生活をきりつめ、高い学費を払い、昼休みも必死に課題をこなしたり、厳しい授業のプレッシャーに耐えていたようですが、一向に通訳デビューする気配もない。

ある時、私がアメリカ人の友人からイベント通訳の仕事を頼まれたことがあったのですが、私、人前で話すのが手なので、彼女を紹介しようと思ったんですね。

通訳デビューのチャンスに飛びつくはず、喜んでもらえるはず!と思ったのですが…「えぇ…ムリムリ!私なんでまだまだ…」と断られてしまいました。

彼女は翻訳の仕事も上司と反りが合わずに契約解除になってしまい…。その後、少しメールでやりとりしましたが、学校には通い続けるも通訳にはなっていないようでした。今、どうしているんだろう。

そして、高いお金出して、コースの一番上まで上りつめて、結局今度はそこで教える側になるしかないっていうのも、通訳学校だけでなく、協会ビジネス一般にも当てはまる気がして…色々な闇を見た感じでした。

また、冒頭で、心に突き刺さった一節があります。それは、

英語ができると後でいいことがある。先生が言った。テレビが言った。広告が言った。母が言った。だからますます英語のことが好きになった。
英語はわたしを違う世界に連れて行ってくれる魔法。新しい世界につなげてくれる扉。そう信じていた。

というところ。

少し前にSNSで見た英語学習者の方のつぶやきを思い出したのです。

通訳ガイド試験に受かれば、副業になるかも。翻訳の勉強をすれば、在宅ワークができるかも。そう思って、英語の勉強を頑張っています^^

という内容でした。

へぇ~、そういう考え方もあるのね…!

思わずスクロールする手が止まりました。私の場合、通訳案内士資格を取ったのは、海外の方に日本をご案内してみたいと思ったから。以前は、無免許では通訳ガイドができなかったため、国家資格を取りました。

私がずっと英語に触れてきたのは、それが、自分にとって自然なことだったから。テンション高く、「英語、大好きなんですっ♪」という感じではなく、呼吸をするように自然なことだったのです。水泳が好きな人が泳ぐのが当たり前のように。走るのが好きな人が、しょっちゅうジョギングをするように。

そして「英語、語学自体が好き」というよりは、その向こう側にある、「人との交流や、文化を知ること」が好きだったのです。

なので、「英子の森」の英子や、SNSで見た方のように「英語を勉強すれば将来役に立つ。いいことがある。就職に有利。良い仕事に就ける。副業になるかも」という発想がありませんでした。

もちろん、結果的には、英語のおかげでさまざまな仕事ができたり、海外の友人もたくさんでき、英語のおかげで私の世界は豊かになりましたが。

「英子の森」のこの一節を読んで、驚いたと共に、

・英語ができれば将来役に立つ
・英語ができればいいことがある

というモチベーションで英語学習をしていると、たとえばTOEICで思った点数を取れなかったり、希望の仕事に就けなかったり、期待していたものが得られなかった場合は辛いかもしれませんね。

以前、SNSで「英語大好き・学習中!」をうたっている方が、「英語の学習って辛いですよね!」とつぶやいているのを見て、いまいちピンと来なかったのですが、「英子の森」を読んで、その理由がなんとなく分かった気がしたのでした。

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