ミュージカル「ナビレラ─それでも蝶は舞う─」観劇感想
こんにちは、雪乃です。今日はミュージカル「ナビレラ ─それでも蝶は舞う─」を観てきました。久しぶりにバレエをしっかり観られて大満足です。
なんと言っても素晴らしいのは、才能はありながら燻っている若手バレエダンサー・チェロクを演じた三浦宏規さん。歌・ダンス・演技の3拍子揃った方であり、ナビレラで拝見できるのをずっと楽しみにしていたのですが本当に素晴らしかった……!漫画から抜け出してきたかのようなビジュアルも含めて完璧でした。稽古着や普段着で踊るシーンが多いものの、2幕の劇中公演で「これぞバレエ」という衣装を着たチェロクの姿はまさしく王子様でした。
痛みや苦悩、孤独を抱えて生きる等身大の若者であるチェロク。そんな彼が70歳のドクチュルにバレエを教えることになり、自信もまたバレエと向き合い、「バレエが好き」という気持ちを取り戻し、そして高く舞い上がる。芸術家の人間らしさと崇高さを同居させながらチェロクを生ききる姿に拍手が止まりませんでした。
泣いたのは1幕ラスト。認知症を抱え、症状が少しずつ進行していくドクチュル。記憶を少しずつなくしていくドクチュルのために雨の中チェロクが踊るシーンがあったのですが、ここがもう本当に圧巻!生きることの喜びと苦しみが詰まった芝居であり、同時に繊細で美しいバレエとしても成立している。本格的なバレエが取り込まれたミュージカルは他にもありますが、芝居とバレエと歌の共鳴は、少なくとも今まで観た作品の中ではこの「ナビレラ」が圧倒的であり、私のファン人生の中でバレエ×ミュージカルの到達点を見ました。
2幕ではチェロクが所属するバレエ団の公演が上演されるのですが、そこでチェロクが共に舞台に立つドクチュルの目の前で高く跳んだ瞬間、すべての照明が消える演出がありました。跳んだ「その先」を観客に見せないことで、チェロクが蝶のように舞った一瞬が記憶に焼き付いて離れなくなる。このシーンの演出には痺れました。
23歳のチェロクと70歳のドクチュルの奇妙な師弟関係は、家族の結びつきとも友情とも違う、互いに学び合い与え合い分け合う、唯一無二の絆となっていきます。
ドクチュルには2人の子どもがおり、1人は会社員となり、父がバレエに取り組むことに反対するソンサン。もう1人はテレビ番組のプロデューサーとなり、父に密着したドキュメンタリーを制作するソングァン。父を思うがゆえに、2人とも父のために行動する、でもその方向性が真逆。2人の人としての、誰かの子どもとしての在り方が真逆であるからこそ、2人なりの父への愛が痛いほどに伝わってきて。溌剌とした孫娘のヘジンは時に辛い場面も多いこの作品を照らす存在であり、ドクチュルの妻のブンイは、ドクチュルと過ごした時間の長さと重みが伝わってきました。
チェロクが所属するバレエ団の団長・ギョングクは厳しさの中にも随所にバレエへの愛や団員への愛、そしてチェロクへの愛が感じられました。
かつてチェロクの友人だったソンチョルは、高校時代の経験がきっかけで好きだったサッカーをやめ、悪い仲間とつるむように。しかしそんな彼がドクチュルや、踊ることへの情熱を取り戻していくチェロクの姿を見て少しずつ変わっていき、サッカーを再開し、ついにはジュニアサッカーのコーチをするまでになります。過去に傷を抱え、心の痛みを荒っぽい言動で覆い隠すように生きるソンチョルが彼なりにまた夢に向かうまでの軌跡を、鮮烈かつ時にしなやかに、説得力を持って演じた瀧澤翼さんも素晴らしかったです。
またこの作品で印象的だったのが、舞台という時間に制約がある媒体でありながら、長編漫画や連続ドラマのように、きっちりと積み重ねの力を発揮していたこと。ドクチュルのバレエが上達していく過程はミュージカルナンバーに乗せてテンポ良く、着実に描いていました。
認知症を抱えるドクチュルは劇中で自分や妻の名前をノートに記録し、それは時折舞台上で台詞として発せられます。櫛の歯が欠けていくように記憶を失っていくドクチュルが自分の名前や年齢、妻の名前を口に出すシーンは、2幕終盤まで来ると確実に重みを増していました。ミュージカルという、長くても休憩含めて3時間ほどしかない作品ででここまできっちりと「積んでくる」作品もそうそうないと思います。
そういえば、本作のタイトルになっている「ナビレラ」。韓国語で「蝶のように」という意味みたいですね。響きが綺麗ですし意味も素敵です。聞き慣れない単語だな~と思ったら、詩が由来のよう。
あと個人的に刺さったのが、本作のテーマのひとつが「趣味と夢の違い」であったこと。「ナビレラ」が描く趣味と夢の違い。それは、楽しいのが趣味、苦しいのが夢。シンプルながらも心理だと思います。
私は以前「もしかしたら、創作は趣味じゃないのかもしれない」という記事を書いたことがあります。
創作は私にとって苦しい、でも嫌いになれない、むしろ大好きでやめられない。こんなに苦しみを伴う営みを「趣味」と呼んで良いのか?ずっとそう考えていました。ですが今回「ナビレラ」を観劇し、「ああ、私にとって創作は趣味じゃなくて夢だったんだ」と腑に落ちました。本格的にプロを目指すことを「夢」と呼ぶのだと勝手に思って、そうではない自分にとって創作は単なる「趣味」だと、そう思い込もうとして。そうやって自分に呪いをかけていたのは自分だったのだと「ナビレラ」で気がついたんです。
今の私の創作の在り方だって、「夢」にしていい。苦しくてもいい。この作品に自分を肯定してもらえたような気がしました。
途中で変な自分語りが混ざりましたが、要するに言いたいのは「ナビレラ」がとにかく最高だった!ということです。 舞台版が本当~~~~~に良かったので、とりあえず原作買います!!
ちょうどつい最近「CROSS ROAD」を「ナビレラ」を同じシアタークリエで観たのですが、「CROSS ROAD」が「命で奏でる」作品ならば、「ナビレラ」は「命で舞う」作品だな、と思いました。
しばらく作品の余韻に浸っていると思います。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。