ミュージカル「東京ローズ」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日は今年の観劇納め!新国立劇場小劇場でミュージカル「東京ローズ」を観てきました。

 「東京ローズ」という作品を知ったのはYouTube。何気なくミュージカルの動画を見ていた時に目に入った、ロンドン初演の動画がきっかけでした。

 ダイジェスト動画を見たところ曲がすごく良くて、日本でも上演してほしい!と思っていたとき、「東京ローズ」日本が初演されるという記事を発見。記事を見たその日のうちにチケットを取り、なんとか千秋楽に滑り込みで観劇してきました。

 タイトルになっている「東京ローズ」とは、第二次世界大戦中、日本による連合国向けのプロパガンダ放送をしていた女性アナウンサーのこと。本作はその「東京ローズ」の1人である日系アメリカ人アイバ・トグリの人生を史実を元に描いています。

 アメリカで生まれ育ったアイバは叔母の見舞いのために日本へ渡るものの、戦争の影響でアメリカに帰ることができなくなります。その後、母語である英語を生かしてタイピストの仕事を得たアイバは連合国向けのラジオ放送「ゼロ・アワー」のアナウンサーとなるが、戦後「日本のプロパガンダに加担した」としてアメリカで国家反逆罪に問われ……というストーリーを、全28曲のミュージカルナンバーとともに描いています。

 「東京ローズ」の演劇としての特色は、観客が観ている舞台そのものが「アイバ・トグリの裁判」になっていること。検事と弁護士がそれぞれ陪審員に問いかける台詞があるのですが、その台詞が向けられるのは観客席。観客は「アイバ・トグリの裁判の陪審員」としてこの物語に参加する……という構造は面白くあると同時に、物語の当事者であるということを突きつけられる感覚でした。

 「東京ローズ」で最高だったのが音楽!劇場全体を震わせるソロ、そしてキャストが6人しかいないことが信じられないほど厚みのあるコーラス。しかも録音ではなく生バンドによる演奏。特に一幕ラストの「みなしごアン」は圧巻!原田真絢さん演じるアイバの力強い歌声と疾走感のあるドラムによるセッションは圧巻でした。

 「東京ローズ」日本版は、ロンドン版にはない大きな特徴があります。それは6人のキャストがアイバを「演じ繋ぐ」ということ。観客の目の前で、あるいは幕間でキャストが入れ替わり、1人のアイバを演じる。キャスト全員がアイバの人生を背負うことで生まれる一体感はこの作品ならではだと思いました。

 「東京ローズ」を貫くのは、国家という大きな横軸。国家が個人の生を意味づけるのか。何を以て「何人」とするのか。2つの祖国を持つアイバの人生から浮かび上がるのは、「自分」を貫くことの難しさと貴さ。アイバの人生を歴史から取り戻していく過程は見ていて辛く、しかしこの時代だからこそ上演する意味がある作品でした。

 現行の朝ドラ「ブギウギ」は、今ちょうど太平洋戦争を描いています。
 「ブギウギ」では政府や警察、軍隊といった「公」だけではなく、興行会社に抗議の投書をするような不特定多数の国民──「私たち」が「私」を塗りつぶしていくものとして戦争が描かれています。一方の「東京ローズ」もまた、アイバを追い詰めたのは、プログラムの言葉を借りれば「戦争の生贄」を身内に求めるアメリカ市民たち。そして観客もまたアイバの裁判の陪審員として物語に参加することで、彼女を裁く「私たち」となってしまう。
 非常時において、「ブギウギ」ではスズ子の自由な表現を奪い、「東京ローズ」ではアイバを反逆者として追い詰めた「私たち」にならないと言える自信は、私にはない。そんなことを考えながら鑑賞しました。
 
 今年の観劇はこれで終了。最後まで素晴らしい作品と出会うことができて幸せでした。

 年明けは「ウィキッド」と「イザボー」を観劇予定。どんな作品と出会える1年になるか楽しみです。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。