詩人、田村隆一の魅力
「ウィスキーを水で割るように言葉を意味でわるわけにはいかない」との一行でいっぺんにファンになった現代詩人田村隆一、お酒が手放せなかった乱酔の詩人だったというが、しかし私が手に取るのはひとつの作品となった詩そのもの、それ以外のこと、たとえば詩人が苦悩して言語と格闘したこと、たったひとりで自然に向かっていったこと、そのほか生活や出自など、それは知る由もない。知ったところで、作品はよくもわるくもなりはしない。
田村の大きな魅力は、いずれの作品のなかにも戦慄というかハッとさせるものが顔を覗かすことだ(と、私は思う)。それは展開や構成の妙でもなければ、語彙の変調でもなく、なんというかある種の切実さというか真面目さというか、そうしたものだと(私は思う)。そこには、裏返しのユーモアがふとあいさつする。そこから詩人は決して逸脱しようとはせず、むしろ抱きしめるようだと、私は思う。笑うに笑えない手が震えるような真面目な洒脱がグラス片手に。
田村は戦争と終戦を経験している。
詩人、田村隆一の魅力。
酔っ払いが突然シラフになる瞬間は、やはり怖いものである。