「平家公達草紙」より、蹴鞠とサッカーと
冷泉隆房が著した「安元御賀記」と建礼門院右京大夫が残した日記をもとに、鎌倉中期に書かれたとされる「平家公達草紙」。そのなかのひとつに「花陰の鞠」という章段がある。
隆房が内大臣重盛の邸宅、小松殿を訪ねると、維盛や資盛ら一家の貴公子たちが蹴鞠に興じている。様々な色合いの直衣(衣装)を纏い、弥生三月の夕暮れ、桜の花の下の鞠の興は、時を忘れるほど美しかったと綴る。
蹴鞠は平安末期以降、流行したスポーツ的遊興で、平家が栄華をきわめた末代、ひとりのスーパースターが生まれた。「鞠聖」と称えられた藤原成通である。病に伏しても寝ながら鞠を足で操作し、6年間2,000日ものあいだ、毎日欠かさず鞠を蹴り続けたといわれる。また、清水寺参詣の際、清水の舞台の高欄の上を、沓(靴)を履き、鞠をリフティングしながら往復してみせたと伝わる。「舞台から飛び降りる」ならぬ「一人舞台の超絶技巧」、これはネイマールも顔負けであろう。
1,000日目には、顔は人で体は猿の姿をした3, 4歳ほどの「鞠精」が3人現れ、「これからもますます鞠に打ち込めば守護神となることを約束しましょう」と告げ、成通はさらに精進したといわれる。
かの崇徳院を祀っている、京都市は上京区にある白峯神宮は鞠の守護神でもある。蹴鞠の宗家である飛鳥井家の邸宅の跡地であることがその縁らしい。日本代表のサッカー選手たちも大切な試合の前などに訪れて祈願すると聞く。
さて、いよいよ来月20日に開催されるカタールワールドカップ。ドイツ、スペイン、コスタリカと世界屈指の強豪国と対戦する日本、下馬評では敗戦確実と噂されている。しかし、わたしたち日本には守護神白峯と、平安期のレジェンド、"鞠聖"成通がついている。いや、他ならぬわたしたちがついている。
蹴鞠どころかサッカーなどまるでできないわたしは、それでも日本は必ず勝てると信じている。