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ひっつみでぬくだまる(温まる)

大阪に来て10年以上経ち、関西弁風に話し、キチガイじみた夏の暑さにもめげなくなったが、冬になるとひっつみが食べたくなる。

ひっつみは岩手の郷土料理で、小麦粉を練って作った生地が入る汁物だ。

具材は大根、人参、ごぼう、長ねぎ、きのこ、鶏肉、豆腐など。根菜類をたっぷり用意して、きのこは2〜3種類入れると美味しくなる。

いりこだしで具を煮て醤油で味を調えたら、生地を両手で薄く延ばし、引きちぎって沸いている汁の中に入れる。くっつかないように時々沈めながら1〜2分、生地が煮えたらできあがり。

引きちぎる様子の表す方言からひっつみという名前になったらしい。見た目はすいとんみたいだが、もちもちした歯応えはうどんに近い。

汁物の中に直接入れて煮るので自然ととろみがつく。その熱々をふーふー吹きながら食べれば、お腹から体全体が温まって鼻水が出てくる。更に食べ進めれば暖房なしでも汗ばんでくるほどだ。

冬の岩手はどこを向いても雪。木は葉を落とし、花は絶え、あたり一面灰色の世界。どんなに防寒着を着ていても、雪道を歩けば足先が痛いほど凍える。

冷え切った手足はストーブにかざしてもなかなか温まらない。でもひっつみを食べれば、すぐに芯までポカポカしてくる。寒さにすくめていた肩の力が抜け、食いしばっていた顎が緩む。

冬の岩手に行くことは久しくなくなり、厳しい寒さを忘れてしまった。けれど故郷の味は、冬を温かく過ごす知恵として我が家に息づいている。


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