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高齢者向けの一律の臨時給付が圧倒的多数で採決、その背景に見えるもの

 先日こんな記事を書きました。中央区が9月の補正予算として独自に高齢者に所得制限・資産制限なしで一律に臨時給付を行うという案が公表され、それに対しての批判記事です。

 この問題点として書いたのは大きく2点。

1) 対象世代が限定されていること
 まず、対象の世代を年齢によって限定していること。この給付は「原油価格・物価高騰」といった昨今の状況を踏まえたものですが、その影響を受けるのは高齢者に限らずすべての世代です。
 直近で行われた「年金額の引き下げ」に関しても、これ自体は事実であるがこの引き下げは何によるものかというと「年金と現役世代の賃金を平準化させる」というメカニズムのためであり、年金額だけが引き下げられたというものではありません。
 さらに、年金生活者は年金以外の所得を持ちにくい点も背景にあると推察されますが、この観点からすると子どもも同様に所得を持つことのできない立場であって、同様に扱われないことには合点が行きません。

2) 所得・資産要件がないこと
 もう1点は、所得や資産による制限がないこと。この政策の目的は「公的年金の引き下げにより厳しい生活環境に置かれている高齢者の生活を支援する」とあります。「厳しい生活環境」にある方々を支援するということであればその対象は所得や資産の条件によって対象を厳選して行われるべきです。
 しかしながら、この施策は特に今の収入があるかどうかという条件は設定されていません。65歳以上であってもまだ働いていて勤労所得がある方もいれば、資産をお持ちの方もおられるでしょうが、それらは一切考慮することなく「平等」に1.2万円が支給されることになっているのです。


 このような問題があることから、わたしとしては発表された時点から反対しておりました。とはいえ、与党系議員が多数派を占める中で最終的に採決されるというのはある程度見えていた話ではあります。ただ、思っていた以上に残念な事実が明らかになったのでぜひ多くの区民の方に覚えておいていただきたく、これを書き残しておきます。

思ったよりも多数の議員が賛成

 1つは、思った以上に多くの議員がこの案に賛成したということ。予算案の採決は議会での起立によって行われます(起立が賛成、そのまま着席は反対)。

 ただ、この誰が賛成して誰が反対したのかというのは意外に分からない仕組みになっています。議事録などでは「起立多数」みたいな感じでまとめられ、区議会の広報紙でも会派(政党みたいな議員のグループ)ごとの賛否しか明らかにならず、結局のところ誰が賛成か反対かは後からの情報では分かりません。

 ただ、今回は明らかにこの件はおかしなことだと考えていまして、かつこのような案に賛成するのは誰なのかを明らかにしておきたかったことから、はじめて議会の傍聴に行ってみました。その場にいれば、誰が起立したのかしてなかったのか、つまり個人ごとの賛成/反対が分かる、というわけです。

 その結果を図解してまとめたのが以下のツイート画像。

 議員29名(30名だったけど1人辞職)のうち、議決に参加したのは27名(議長1名、欠席1名)。このうちで実に賛成は24名。反対はたったの3名。たったの3名。青木かの氏、高橋まきこ氏、高橋元気氏のみ。

 なお、ツイートの文面にもありますが、補正予算案自体への反対という意味では共産党も「反対」の立場でした。ただ、反対している場合には採決の事前に反対意見の読み上げがありまして、それを聞くと別の案(首都高地下化に関する拠出金)に対する反対で、むしろこの臨時給付には賛成という趣旨の内容が含まれてました。したがって、上記の整理では「賛成」との扱いにしております。

「子育て大事」はどこへ消えた? 

 これは思ったよりも衝撃でした。与党系、特にその中でも年齢層高め議員が賛成することは当初の想定どおりではありました。

 他方で、問題はそれ以外の方々です。選挙のときには「子育てが大事」などといったことを声高に訴えて当選されている人たちがしれっと賛成しているというのが事実。

 たとえばこの方。

かじがや優香氏

 「現役ママの目線で」というコピーもあるように当事者世代として「子育て世代の助成拡大」など子育て支援をこれでもか全面に押し出しておりますが、賛成されております。

 この方も同様です。

かみや俊宏氏

 同様にご本人も子育て真っ最中で当事者感を打ち出しており「子どもたちの未来のために!」「子育て世代全力応援!」という大文字が踊っておりますが賛成(ただし、同列に「高齢者福祉の充実!」も掲げているだけにまだ良心的かと)。

 この政策は特定の世代への不公平な配分であって、効率性の観点から言っても大きな課題を抱えていると思われますが、「税金をムダなく使おう!」について、今回の施策がどのようなメカニズムで有効に使われ「税金の無駄遣い」ではないとお考えなのかという点はぜひお伺いしたいところ。

 税金の適切な使い方という観点から言うと、こちらの方についても。

山本りえ氏

 「将来世代を含めた区民全体にとって、最も有効な税の使い道を提案」されるようです。何の制限もなしに特定の世代にのみ一律に給付を行うことは「最も有効な税の使い道」ではないように思われますが、どのような考えに基づいて「最も有効」とお考えなのでしょうか。

 他の方々も貼っておきます。それぞれの方は選挙というプロセスによって選ばれた人たちであってどのような発信をされるのかは各自次第であります。しかし、その選挙前と選挙後で言っていること、やっていることが異なってくるようでは有権者は裏切られたという気持ちになるでしょう。しっかり記憶しておいていただきたいです。

会派内で一致のルール?

 この採決については、現職の議員の方からコメントをいただきました。曰く、議決の際には会派の中では賛否を一致させなければならないという議会内ルールがあるのこと。

 この言わんとすることは、議会での賛否が必ずしも個人としての考え方と同じではないということのようです。

 こちらについてのわたしの考え方は、あくまで事実としての賛否を整理しただけということ。そのような事情があるというのはなんとなくわたしとしても理解はしているところです。自分の意見として必ずしも会派の意見と同じであるとは限りません。また、外側から反対だけではなくて保守的な政党、会派の中で内部から変えていくということも意義のあることだとは思っております。

 ただ、問題は本当にそのような動きを党内で行っているのか、単純に選挙のときの集票のためにやっているのかは外からは分かりにくい点

 あまりに意見が乖離しているのであれば党を出るということも選択肢にはあるはずです。その選択肢がある上で党内に残る、そして会派の意見に合わせるという選択をしているのであれば、せめてブログなどで自身の考えと党内での決定の乖離やその経緯、葛藤などについてぜひ発信してほしいと思います。それもなしにこういうルールがあるから仕方ないと言われても、「会派が決めたんだから、ぼく/わたし悪くないもん!」といった非常に無責任な発言のようにも聞こえてしまいます。

2022/10/05 12:16追記)

 記事公開後、以下のようなコメントをいただきました。

 この点について補足しておきますと、会派内で賛否を一致というのは議会内ルールとのことなので、上記の記述は佐藤さんに対してではなく他の会派の議員も含めた一般論として書いたつもりです。その上で佐藤さん自身が発信されているどうかについては各自でご判断いただけたらと思います。

2022/10/06 23:05追記)

 「会派が決めたんだから、わたし悪くないもん!」 という当初の記載について、主体を女性に限定しているかの誤解を与えるとの指摘がありました(その指摘についてはこちらをご覧ください)。

 この記載は、その無責任な姿勢が子どもじみているという意味を込めてのやや茶化した表現です。わたし自身、一人称が「わたし」であって女性に限定する意図はありませんが、そのような捉え方をされることも配慮し、「会派が決めたんだから、ぼく/わたし悪くないもん!」という表現に改めました。

コロナ交付金の大半を支出!?

 もう1つの驚きは、この政策の財源。この政策の財源は新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金。これは新型コロナウイルス感染症によって影響を受けている地域経済や住民生活を支援するため、自治体地域の実情に応じて必要な事業を実施できるように創設されたもの。国に対して事業計画を出して、それに対して交付金が支給されるような仕組みになっています。

 この計画の2022年度(令和4年度)の内訳とされるのがこちら。

山本りえ氏がTwitterに公開されたものを引用

 見てのとおりですが、全体の交付額が4.3億のうち、この政策で3.6億も費やそうとしているのです。これを円グラフにしたのがこちら。

https://twitter.com/ninofku/status/1575114121468465155

 青の部分が高齢者向けの臨時給付で、全体に占める割合は82.8%。別の施策として挙げられている「給食費引き上げ相当額の補助」はわずか3.7%。今回の計画のなかでこれだけが圧倒的なのがよく理解できるかと思います。

 改めて言いますが、この交付金は高齢者支援のためのものではありません。新型コロナウイルス感染症によって影響を受けている地域経済や住民生活を支援するため、自治体地域の実情に応じて必要な事業を実施できるように創設されたものです。

 このような交付金の大半をバラマキに使うというのは交付金の趣旨にも反するのではないかと思われます。この政策が、影響を受ける地域経済や住民を支援するための最善の策と言えるでしょうか。この政策が、絶対に中央区で行わなければならないような、地域の実情に応じて必要な事業と言えるでしょうか

 なお、本件についてはかなりズレた発言をされていた方もおられました。

 この財源は区の予算ではなく国の交付金ということが発信の趣旨と思われますが、問題はどの財源かではなく、手元にある財源の中でそれをどのように活かす使い方にするかという点。区としての懐の傷まない国の交付金だからといって好き勝手やって良いというわけでは当然ありません。

 このようなツッコミはわたしをはじめ多くの区民からされているところではありますが、「基本的にリプライやメッセージ等に応じません。」とのことで、わたしを含めた多くの方からのツッコミはそのまま放置されていまっす。

https://twitter.com/yamarie0324

最後に

今回の一件が示すもの

 今回は中央区が独自に打ち出す高齢者向けの臨時給付の成立に至る経緯とその賛否、それに対して思うところについて書いてきました。この件は何度もこのnoteでもTwitterでも取り上げてきましたが、その意図はこの一件が子育てハードモードである中央区の実情を表す、極めて象徴的な出来事と考えるためです。

 この政策はこれまで何度も繰り返し書いてきたように問題の多いものですが、このような政策がしれっと提案され、しれっと採択されてしまうというのが中央区の現状なのです。与党系議員に限らず、多くの野党系議員までこぞって賛成しているのですから、歯止めが聞くわけはありません。特に根が深い問題であるのは、今回取り上げたように選挙のときにはさも子育てが大事と言っている人の中にもこういった政策に賛成するような人が含まれているということ。

区民のみなさんにお願いしたいこと

 区民の皆さんにお願いしたいのは、どうかこの記憶をあと半年、つまり来年の選挙のときまで覚えておいてほしいということ。きっと、性懲りもなく多くの候補者が「子育てが大事」などといったことを繰り返すのは目に見えていますが、実際にそのようなテーマが目の前に出てきたときに賛成する人たちは決して多くないというのが現実です。そのような候補者を選んだところで、中央区は子育てしやすい場所にはなりえません。ポスターや選挙公報だけでなく、本当にそのような活動や発信をしているのかどうかを有権者の側で見極めていく必要があります。

 またこれは別の記事として書きますが、最近このようなサイトを作成しました。議会の議事録を議員ごとに分析してワードクラウドとしてざっくり見えるようにするサイトです。これは、この議員の本当の活動を見極めるというところに役立てていただけたらと思って作成したものです。良かったらご覧ください。

議員見える化プロジェクト@東京都中央区

 最後に改めて、今回の給付に対する賛否についての画像を貼っておきます。

高齢者への臨時給付の賛否

 なお、この臨時給付はあくまで特定の世代への給付であって、その他の世代に対して直接的に何かしらネガティブな影響があるというわけではなく、この臨時給付に賛成することがイコール他の世代、たとえば子育て世代を軽視しているわけではないという主張もあります。

 ただ、わたしはそのようには思いません。財源に限りがある中で「何かを選ぶ」ということは「他の何かを選ばない」ということとセットです。そこで費やされるお金は、他の何かに使えたはずのお金です。「高齢者向けの給付を行う」ことに賛同するということは、たとえば「子育て世代向けの給付を行わない」ということに賛同したことと同じではないかと考えています。

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