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【映画】あんのこと

(1566文字)

21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。
大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。
週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。

映画あんのこと公式サイト https://annokoto.jp

日曜の朝一番、家族3人で観るには少々重い映画だけど、3人で観られて良かったと思う。
映画を観た後に、ストーリーやその社会背景、役者さんの演技についてまで、いろんなことを話すのは、それぞれの考え方の理解につながる。
娘はもう二十歳だし、ボクは2人と離れて暮らしているので、こういう機会は積極的に作った方が良いと思った。

さて、映画だけど、ひとことで言えばリアルでした。
普通の映画なら、ここでこの人の苦悩が描かれているはず、とか、この人がこういうことをしてしまう背景とか、鑑賞者を納得させるようなシーンがあったりするよな、というところでそういうシーンはない。
だから「なんで?」という疑問が残ったりするけど、それがリアルだったりする。
実際の社会や人間は、様々な面をもっていて、一概に理解できるものではない。
少しずつ社会にできていく歪みが、弱者に集中してしまい、犯罪や悲劇につながることがある。
特に、社会が不安定になったときに、それは起こりやすい。
記憶に新しいのが新型コロナ。
自粛要請により、それまで築いてきたつながりが一気に絶たれて孤立した人は少なくない。
この映画の主人公、杏もそのひとり。

話は違うけど、この映画を観て思い出した事件がある。
2020年11月、コロナ禍の中で、渋谷でホームレスの女性が殺害された事件。
当時は悲劇としてニュースでも大きく取り上げられていたので、覚えている人も多いと思う。
被害者の女性は64歳で、2020年2月までスーパーでの試食販売の仕事に就いていたというから、コロナで仕事を失った人のひとり。
その前から路上生活を余儀なくされていたようだけど、自分の家の近所のバス停で寝ている彼女が目障りだと、当時46歳の加害者が石を入れたビニール袋で殴って殺害した。
加害者のことは良くわからないが、清掃のボランティアをするなど、いわゆる「普通の人」だったのだと思う。
その自分が掃除している場所にホームレスがいるのが許せないという気持ちは、分からないでもない。
ただ、そう思うのと、実際に危害を与えることには大きな隔たりがあり、彼もまた、何かしら問題を抱えていたのかもしれない。
そして加害者は2022年3月に保釈された直後に自殺した。
もちろん加害者を擁護するわけではない。
でも、もしコロナ禍が起こっていなければと思わざるを得ない。
東日本大震災の時もそうだったけど、社会に何かが起これば、弱者にその歪みが集中する。それを再認識した事件だった。

そして、その歪みは大なり小なり誰もが起こしているし、それがある時に受ける立場になる可能性だって誰にでもある。
他人事ではないし、他人事だと思っている人ほど認識してほしい。
未だにコロナウィルスは無くなっていないが、コロナ禍と呼ばれた期間が終わって1年以上が過ぎた。
もう、みんな忘れかけているのではないだろうか。
そんな時に、この映画は社会はつながっているという大事なことを語りかけてくる。



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