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ショートショート・短編

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さらっと読めて、ちょっと考えちゃうようなショートショートが書けたら良いなと思って書いてます。
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#小説

【掌編】友達とは呼ばない

【掌編】友達とは呼ばない

(3924文字)

真壁と初めて会ったのは、新入社員研修の懇親会だった。
私たちのテーブルは男女五人ずつ、初めて顔を合わせたもの同士だったので、なか なか会話が弾まなかった。
中でも仏頂面で場を重い雰囲気にしていた男が真壁だった。
私はこういう雰囲気に耐えられない質だ。なんとか場を盛り上げようと会話の糸口を探り、向いに大類という珍しい苗字の女子がいたので話しかけた。
「大類さんって珍しい苗字だよ

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【ショートショート】忘年会禁止令

【ショートショート】忘年会禁止令

(2041文字)

昨年は、社内で軽んじられていると怒った総務部が、12月のはじめに忘年会をやって大変なことになった。
あれから俺たち営業部の仕事はガタガタだ。なにしろ総務部の連中がみんなその年の業務を忘れてしまった。おかげで何を頼むにも一から説明しなければならなかった。

スマホのアラームが控えめに鳴った。よし、定時だ。
手早くデスクを片付け、ノートパソコンをカバンに仕舞うと、俺は席を立った。

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【毎週ショートショートnote】人生は洗濯の連続

【毎週ショートショートnote】人生は洗濯の連続

お題:人生は洗濯の連続
(410文字)

「お母さん、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
小学三年生の勇太を最後に送り出してから、パートに出る10時までが家事の時間だ。
まずは洗濯。
夫と私、三人の子供の洗濯物となると、毎日でも洗濯機を回さないと追いつかない。
人生は洗濯の連続だ、選択じゃなくてね。
私はひとりクスリと笑った。

3年前に買った家にはランドリー室があり、大きめのドラム式洗濯機

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【#シロクマ文芸部】レモンから

【#シロクマ文芸部】レモンから

お題:「レモンから」で始まる物語
(1166文字)

レモンから出られないかというのが彼の要望だった。
「レモンか。できるか?彼がどうしてもって言うんだよ」
監督が大道具の高田を見つめる。
「そうですね、できるといえばできますが」
「ちょっと待って」
シナリオライターの井上女史が険のある言い方で割って入る。
「そもそも、季節感重視ですよね、ここは」
「まぁ、そうだけどレモンだって果物じゃないか」

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【毎週ショートショートnote】ひと夏の人間離れ

【毎週ショートショートnote】ひと夏の人間離れ

お題:ひと夏の人間離れ
文字数:410文字

暑い、眠れない。
夏なんて飛び越えてすぐ秋になれば良いのに。
明日は大事な彼女とのデート。告白するつもりなのだ。
しかし眠れない。
エアコンが壊れたことを管理会社に伝えたのは半月前。
「申し訳ありません、混み合っておりまして…」
何度電話しても返答はいつも同じ。
暑すぎる、暑すぎるのだ。早く秋になってくれ。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
突然そんな言

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【毎週ショートショートnote】黒幕甲子園

【毎週ショートショートnote】黒幕甲子園

お題:黒幕甲子園
文字数:410文字

高級なスーツを着た男がにこやかに話しかけてきた。
「失礼ですが、あなたは何を?」
話すべきか悩んだが、ここには同じような犯罪者が集まっている。それも黒幕と呼ばれる人物達だ。
「赤坂の100億の土地と言えば分かりますか?」
「あの事件の地面師さんですか」
「そうです。あなたは?」
男は勝ち誇った表情で答える。
「海外を拠点に特殊詐欺。総額は数千億ですかね」

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【毎週ショートショートnote】非情怪談

【毎週ショートショートnote】非情怪談

お題:非情怪談
文字数:410文字

私さ、そんなに悪いことした?
あれで殺されたんじゃたまったもんじゃないわよ。
そりゃ、幽霊になって出るわよ。
それが関係ない人まで「殺される!」とか言って逃げるようになっちゃってさ、被害者は私だっていうの。みんな情のカケラもないわよね。
せめて人情話にしてくれても良いんじゃない?
このままじゃ非情話よね、怪談だから非情怪談。
それで私ね、被害者の会を作ろうと思

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【毎週ショートショートnote】天ぷら不眠

【毎週ショートショートnote】天ぷら不眠

(410文字)

電話の音で起こされた。テレビをつけると試験放送の画面で静止している。
なんでこんな真夜中に天ぷらを揚げなければならないのか。
良く溶いた卵に冷やしておいた水を注いでかき混ぜ、さらに小麦粉を入れて少しダマが残る位に混ぜる。
鍋に油をたっぷり入れて火にかけ、冷蔵庫から具材を取り出す。
海老にキスの海鮮2種にシシトウ、ナス、カボチャだ。それぞれに打ち粉する。こうすると衣が均一につくので

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【ショートショート】北条さんはロボット

【ショートショート】北条さんはロボット

(1465文字)
北条さんを観察している。
窓際の席でパソコンに向かう北条さんの薄くなった頭頂部に、傾き始めた陽の光が反射する。
歳は50代半ばか後半か。
僕が入社して8年。北条さんは全く変わらない。
たった8年で、50代の男性の外見に大きな変化は見られないと思うが、髪の薄さも全く変わらない。少しは進行してもおかしくないと思うが。
北条さんはいつも姿勢正しく座り、一日中パソコンに向かって入力作業を

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【毎週ショートショートnote】放課後ランプ

【毎週ショートショートnote】放課後ランプ

(410文字)

毎日、決まったルートを配達していると、時間が過ぎるのが早い。
足立区の営業所を出て新宿、渋谷。遅延しないように車内で昼食を摂りながら運転し、配達を終える頃には陽が傾いている。
首都高で営業所に急ぐがいつも渋滞。
1日があっという間だ。子供の頃の1日はあんなに長く感じたのに。
「京橋ランプは渋滞中、お急ぎの方は放課後ランプへ」
ラジオから聞き慣れない言葉。放課後ランプ?
すると目の

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【ショートショート】恐ろしい星

【ショートショート】恐ろしい星

(1712文字)

宇宙人の隊長(隊長)「なんとか着陸できたな」
宇宙人の隊員(隊員)「そうですね。しかし予定とは違うところに着陸してしまいましたね」
隊長「この星の気流が読みきれなかったからな。とりあえず無事に着陸できて良かった」
隊員「ここは公園というところみたいですね」
隊長「ああ。周りは人間の家だらけだ。まずはこの星の人間を探そう。翻訳機はセットしたか?」
隊員「はい。でも夜ですからね。こ

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【#毎週ショートショートnote】命乞いする蜘蛛

【#毎週ショートショートnote】命乞いする蜘蛛

(410文字)

「待て!殺さないでくれ」
そう念じると、私を潰そうとしていた人間の大きな手が止まった。人間は不思議そうな目で私を見ている。
「私たち蜘蛛がいるおかげで、この家に虫が少ないのが分からないのか?」
私を生かすメリットを念じてみたが、人間は「まさか命乞いする蜘蛛なんているわけないな」と言って私を潰した。あの冷ややかな目は忘れない。奴らにとって虫の命など取るに足らないものだ。私を殺したこ

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【ショートショート】どこにでもある安心

【ショートショート】どこにでもある安心

(643文字)

登山口から見る真っ白な頂きの後ろには、濃い青の空が広がっていた。
私たちパーティは、今季初の雪山登山が絶好の天気に恵まれたことに笑顔を交わしながら、頂に向かって出発した。

ところが天候は急転。樹林帯を抜け、森林限界に出たところで吹雪となった。
視界が悪くなる中、撤退も考えたが、晴れの予報だったことが捨てきれず、もう少ししたら回復するのではないかという希望的観測で、私たちはゆっく

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【54字の物語】2024年1月の54字

【54字の物語】2024年1月の54字

1月中に、思いついた時に作っていた54字の物語。
恋愛ものふたつにSFものふたつでした。
どうも、ボクが思いつくのはこのふたつのジャンルだなぁ。

画像は8739sshuhoさんがアップしたものを使わせていただきました。