小説「ムメイの花」 #38希望の花
朝の日課。
家の前に立つ。
右手に花はない。
いつもの朝より背筋が伸びやすい。
なぜなら昨日の朝、
自分なりの花の答えを見つけた気がしたから。
そしてそれが夢にもなった。
僕の夢はムメイ人……いや、
『全ての人の隠れたこころを知り、
他の人にも知ってもらえるようになる』こと。
これまで人と人との間にあった花は
こころが花と化したものだとわかったんだ。
お互いのこころを感じ取ることができれば、
感情にだって繋がるはず。
そのために、まず地球に行って
地球の花を自分の目で見たいと思っている。
大好きなデルタの夢と重なっているから尚更行きたい。
ああ、デルタは今どこで
誰と何をしているんだろう?
そう言えば、ブラボーとチャーリーも
何をしているんだろうか……
僕は考えた。
ふたりの状況を知るには
僕の家の前に2人が来るのを待つか、
僕が会いに行くか……。
もしかしたら今朝は
しばらく待っていれば現れるかもしれない。
きっとこれまで行動を共にしてきた仲間なんだから
僕のこころと通じあっているはず。
僕は家の前でいつものように過ごすことに決めた。
「まあ来るわけないか……」
ふたりは姿を見せることはなかった。
仮にブラボーとチャーリーが目の前に来たとしても
言葉に困ってしまうと思う。
ふたりから声をかけてもらわなければ、
目を逸らしてしまうかも。
だから内心、ほっとしていた。
夢に気がついたときは
希望の光に感じ、強気になれたのに、
仲間割れした2人のことを考えると、
急に弱気になる僕。
僕は……
「僕はなんて他力本願なんだ!
仲間を大切にできないなら、
こころや感情をとやかく言う資格はない!」
右手に拳を作り、思いっきり太ももを叩く。
じわりじわり感じる痛み。
目を閉じ、叩いた太ももが
まだ痛いと感じている間に
ブラボーの家である本屋に向かうことに決めた。
本屋が視界に入ってくると
会話中のブラボーとチャーリーの姿が見える。
ブラボーが僕に気がつき、
チャーリーも僕を見た。
この状況で僕は無表情で良かったと思っていた。
今のような反応に困ったときに便利だから。
引き返そうとする僕にチャーリーは言った。
「それだけかよ」
僕は少し前に叩いた太ももの感覚を思いだし、
ふたりの元へ行こう、の意味を込めて
今度は両手を強く握った。
「ブラボー、チャーリー。おはよう」
ブラボーは相変わらず八の字眉で言った。
「アルファ、おはよう。
久しぶりだね、元気にしてた?」
「元気だよ。ふたりは?」
「ボクたちは見てのとおり元気さっ!」
チャーリーの言い方からも
元気さが伝わってくる。
「それは良かった……」
どうしても「そっか、じゃあね」で
終わることができる会話が続く。
花の答えを共に探していた仲間とは思えない。
もう一度、僕は両手を強く握った。
「あのときは本当にごめん。
ひとりになってみんなの有り難みを感じたんだ。
あんな態度をとってごめん」
しばらく無言の空間が続く。
帰りたい。
「アルファがそう思っていてくれたことが嬉しいよ、
僕の方こそごめんね。言ってくれてありがとう」
「実はブラボーと今も話をしてたんだ。
アルファに会いに行く?って。
でもアルファの方が先だった。
勇敢だよ!来てくれてありがとう」
ごめんの一言があるだけで
しっかり目を見ることができるようになる。
そして一気に緊張が解け、
なぜだか僕たちは笑ってしまった。
しばらく振りの会話。
僕たちは時間を忘れて
今朝までのことを全て明かした。
「そうそう、アルファ。前に話した、
デルタのカメラが家にあるって話、覚えてる?」
「確か、オトコの人が置いていったんだよね。
デルタは地球に行ったって教えてくれたオトコの人が」
ブラボーとチャーリーは目を合わせ、頷きあった。
「ちょっと待ってて」
チャーリーと僕を残し、ブラボーは店へ。
しばらくするとカメラを持って出てきた。
「チャーリーと話をしていたんだ。
このカメラ、デルタに再び会えるときまで
アルファが持っているべきだって。
そうだろ、チャーリー?」
「賛成だよ!ただブラボーの店にあるより
よっぽど良いと思うんだ!」
ふたりからの思いやりを感じ取り、
感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ふたりともありがとう。右手の花がない代わりに、
これからはデルタのカメラを首からかけて過ごそう」
ようやく気がつくことができた夢は希望だ。
それと今朝はもうひとつ、希望を見つけた。
その証拠は
この言葉を言えるようになったこと。
「みんな、また明日ね」