見出し画像

小説「ムメイの花」 #37意味の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手に花はない。

僕は今朝、寝ていたときに見た
夢のことについて考えていた。

今朝の夢は鮮明に覚えている。
いつもなら夢なんて見ないか、
見ても起きてすぐに忘れてしまうのに。


夢の中の僕がいたのはミツメ山。

フェアリーズのみんなと一緒にいた。
話題はそれぞれの「将来の夢」について。

夢はそれぞれだった。
注目されたい。
偉い人になりたい。
写真に収めたいものがある。

そのときの僕はというと、
自分の声を出すことはなかった。

夢がわからなくて
言葉が出ない状態とは違う。
僕自身がそこにいるのに、
僕は空から見ている感じだった。


フェアリーズのみんなは
夢があるからもう行くねと言い、
僕だけをミツメ山に残して
どこかへ行ってしまった。


山に1人残される僕。

目指す場所や進む道がわからず、
ただただ立ち尽くしていた。

現実なら不安に思ったり、焦ったりすると思う。

でも夢の中の僕は
現実ではないとわかっているかのように、
しばらくその場の状況を観察しようと
近くにあった切り株に座った。


場面は急に変わる。
夢は自由なものでどこにでも連れて行く。

ありえない変わり方をしようとも、
何も不思議に思わない。
実に便利だ。


僕が切り株に座ると、
目の前にあったのは大きなスクリーン。
そこは映画館のようだった。

スクリーンにはフェアリーズのみんなだったり、
僕の家族だったり、ムメイ人の親子、老夫婦、
恋人たちが笑い合っている。

そしてムメイ人とムメイ人の間に
必ずあったのは1本の花。

僕はここで現実に引き戻され、目が覚めた。



夢は何かが起こる暗示だとか、
強く願う理想が反映されるなんて言う。

フェアリーズで花の答え探しをしているときは
1人で考え続けるより、はるかに印象に残っているから
理想として夢に現れたんだろう。

確かに、感情がないと思っていた僕にも
わくわく、イラっと、どきどき、しゅんとすることがあった。

自分史を語る上で
絶対に削ることができない出来事だ……

過去を振り替えり、
最後に映し出された画が頭に残る。

僕は自分に言い聞かせた。
「僕の夢は隠されたムメイ人の気持ちを知りたい。
 そして知ってもらうことなんだ……」

きっと、気持ちを知るきっかけになるのが花。

お互いの気持ちを知ることができたのなら、
思いやりが生まれて喜びが生まれる。

ムメイ人とムメイ人の間にあった花には
本当の気持ちが隠されているんだ。


僕はいつかの朝、
フェアリーズの活動でみんなと
ミツメ山に行ったときのことを思いだした。

デルタを最後に見たあの日、
デルタは自分の将来の夢について
こう言っていた。


「地球の花を見た人は絶対に感動するんだってぇ」

ムメイにはないものが隠されているのでは……。
地球人は感動することが上手なのでは……。


僕も地球に行って、地球の花を自分の目で見てみたい。


空を見上げ、僕の夢とデルタの夢が重なったことに
ようやくこれからの希望を感じた。

←前の話 #36夢中の花  次の話 #38希望の花→


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集