【パル】震災で活躍した精神科医の一生『心の傷を癒すということ』
5月4日(火)~13日(木)に『浅田家』と同時に『心の傷を癒すということ』が新開地の名画座・パルシネマしんこうえんさんで2本立て上映された。しかも9日までは学生無料、それ以降は500円というお財布に優しい値段設定。大学生という身分を利用して、プロデューサー京田さんをお招きした舞台挨拶に合わせて観に行った。舞台挨拶の内容について掲載許可をいただいたのでそのことにも触れながら、『心の傷を癒すということ』の感想を書いていく。本日9月1日は「防災の日」。神戸で起こった災害の裏で活躍された精神科医の物語を是非観て欲しい。
《舞台挨拶》
5月4日(火)、撮影された場所の一つであるパルシネマで、プロデューサーの京田光広さんをお招きした舞台挨拶が行われた。イベント後に少しお話しさせていただき、noteの掲載も快く許可していただいた。映画の見方が変わると思う。
■震災当時のこと
震災当時、東京のNHKに勤めていた京田さんは朝の生放送があった。ニュースを見て東灘の実家に電話をしたらつながらなかったという。家族は在宅非難をしていたようで、夕方には連絡がつき一安心。若かった当時「このことを伝えるべきだ」と思い、その日の夕方には大阪へ。西宮中央体育館などを生中継で報道。そのことは未だに脳内でフラッシュバックするそうだ。3日間ほど報道したら辛くなり、非難のお手伝いを辞め逃げるように東京へ。そこから12年間震災を避け続けた。毎年必ず放送されている追悼番組もほとんど見たことがなかった。
■取材から変わった気持ち
ある時災害ボランティアを取材したときに、「災害には、壊されたものだけではなく、そこから生まれた助け合いの文化」に気づき、『そのまちのこども(2011)』に携わる。その映画の東京の最終公開日が3月11日だった。この頃、安先生の本と出会った。その本には、被災者たちの心の動きを冷静かつ生々しいタッチで記録されていた。「自分は震災を避けていた時に、こんなことをしていた人がいたんだ!」と衝撃を受けた。これは被災者を”支える側”の人たち物語でもあり、傷ついた人たちの寄り添い方や心のケアについて書かれている。
■企画書の売り込み
企画書売り込みと同時期に安先生のご家族に取材を行った。取材では、”一筋縄ではいかない男”であり、追悼番組の特集だけでは収まらないことが分かった。在日韓国人である彼の奥様は、”映画、漫画、ジャズ好きの最高の夫”と話しており、安という人間そのものに興味が出てきた。”知とアートの男”をどのように描けば良いのか、自分の書いているものに違和感を感じていた。
■ドラマ化とキャスティング
安達監督は柄本佑さんと飲み屋で一緒に飲む間柄だった。彼と映画を作ってみたかったという監督の希望もあり、安先生役は柄本に決定した。そこで重要なのが相手役。視聴率も取らなければいけないということもあり、北川景子さんや吉高由里子さんらも候補に上がっていた。
それからメインスタッフが安先生のご家族と元町洋食屋で顔合わせをした。皆酒豪だったのだとか。ご家族に配役の聞いてみたところ、娘さんから小野真知子さんへの指名があった。朝ドラ「カーネーション」でのコネクションと柄本佑さんとBSドラマをやっていたこともあり、小野真知子さんに決定した。
■ドラマから映画へ
安達監督がクランクアップ時に「ご家族のお子さんのために作るべき作品だ」と話していた。良い作品を作るため、ご家族からお時間頂いた。その時、安先生が亡くなってから何年も経っているのにも関わらず皆が涙ぐんでいた。2時間くらい話しをされて、「久しぶりに楽しい思い出を思い出して楽しかった」と言っていた。その時、「仕事としてだけでなく、人として取り組みたい」と思った。安先生とご家族、お子さんに届く作品にしたい。特にお子さんは父である安先生のことをよく覚えていないだろうからその思いが強かった。この作品はご家族たちのために作らないといけない。ドラマ版ではギャラクシー賞を受賞した。
■被災地、神戸での撮影
避難所のセットは雲雀ヶ丘の小学校を借り、神戸の人たちと一緒に作った。エキストラの震災体験者からお話を伺った。「人数が多く、家半壊で大変でも避難所には入れない」などの声があった。知り合いではなくてもあれだけの犠牲者がでている。等しくあの揺れを体験していながら自分は助かったけど、何もできなかった。だから何か手伝いたいと撮影協力してくれた。当時のことを振り返りながら、辛い体験をシェアし、元気になって帰ってもらえた。
■安先生と奥様の初デート映画
今作では「東京物語」を2人で観に行っているが、これは著作権が切れている映画しか撮影に使えなかったため。実際は「天使の歌」を観に行ったそうだ。奥様は映画がお好きなようで、2回目なのを黙っていたのだとか。
■京田さんが考える、今作の見どころ
一つは「柄本の演技」を思う存分楽しんで欲しいです。安先生の表情、傷ついた人に接する時の目の高さから、黙っている時まで、瞬きなしで見て欲しいです。
もう一つは「安先生がかける言葉」。患者さんだけでなく、後輩への何気ない一言なども見逃さずに見て欲しいです。寄り添うってこういうことなのかなと考えさせられる台詞がたくさん散りばめられています。
壮大なな物語を115分にまとめる時に、エンターテイメント性を忘れずに、心に染み入るように作っています。
■学生の皆様へ
神戸大学で上映会を実施したことがありましたが、NHKのドラマだったこともあり、なかなか若い世代の人たちに観てもらえないのが現状です。この映画の公開は狙ったわけではなく、たまたま新型コロナウイルス感染症流行時にバッティングしました。コロナもある種の災害。学校で授業が受けられなかったり、遊びにいけなかったり、色々と辛いことはあると思います。それらと重ね合わせて今作を見てもらえたら嬉しいです。1人でも多くの学生にこの映画が届くように願っています。
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《震災未経験大学生の感想》
※ここからは私の感想です!
■学校は教えてくれない被災者の実態
現在19歳の私は震災を経験していない。しかし幼稚園・小学校・中学校・高校と神戸だったので、毎年必ず避難訓練&追悼行事があった。そこでは被害の状況や避難所での生活、復興までの軌跡、などを中心に学習した。経験された先生や語り部の方がお話をしてくれることもあった。そこでも教えてくれなかったのは、被災者の精神的な部分。そしてそれは今作でフォーカスされ、安先生が一番大切にしているところだ。
被災地でダンボールを揺らして地震ごっこをする子供たち。でもそれはふざけているのではなく、地震を受け止めることができずにいる。
がれきの下から動けずにいる家族の「助けて」という声があの日以来耳に残って、今もなお聞こえるという女性。
地震はめにみえるところをたくさん傷つけた。大けがを負った人、亡くなった人、崩壊した建物…。しかし目に見えない心も傷つけた。そして後者の方が深刻。
■誰一人見捨てない姿勢
ある少年と水を運んでいた時、安先生は「話したいことあるんとちゃうか?」と少年へ投げかける。抱え込まずに、我慢せずに何もかも話すこと。皆が辛い思いをしている。自分よりもつらいことに直面している人がいる。そんな中でも自分を大切にしないと、何も大切にはできない。病気で車いす生活になっても医者として診療を続け、死ぬ間際まで皆のことを思っていた。誰も見捨てずに向き合う姿勢が人として素敵だった。
■ロケ地の映画館で鑑賞する体験
安先生が奥様と出会った映画館の撮影にはパルシネマしんこうえんが使われている。いつも利用している映画館が映画のワンシーンに出てくるのは最高の映画体験だった。お二人が座っていたシートには座れなかったものの、エンドロールに【撮影協力:パルシネマしんこうえん】と流れた時は嬉しかった。
画像引用元: パルシネマTwitter
(https://twitter.com/palcinema/status/1389407495983042560?s=21)
■最後に…
今回、パルシネマさんでは学生無料期間が設けられていたので何人か友人に声をかけたのだが、「コロナが怖い」や「大学の課題でなかなか時間が取れない」との声が多かった。パルシネマさんに行ったことがない人がほとんどだと思うので「一緒に行こう」と誘うことが出来れば、足を運んでくれたかもしれない。しかしオンライン授業中心の形態への変化に伴い、尋常ではない量の課題が出され、映画館に行く時間すら取れなくなった。それによりこの記事も上映期間終了後に投稿する形となってしまった。神戸に生まれ、神戸で育っている人として、震災を風化させないようにしていきたい。今後も震災関連の映画やドラマのことを取り上げる予定。
ひとりでも多くの人たちに
『心の傷を癒すということ』が届きますように…。
■なんと…!
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