春の日の海辺

手放せなかったきつく巻いたストールが消えて、手袋を外した指を誰かのそれと絡められるような暖かさに心が躍る。
コートを一枚羽織って過ごす春の訪れは、毎年どこか嬉しくなってくる。
そして今年の春は、いつもよりずっとその色が強い。

「元気になれて良かったねぇ」
海を眺めながら、砂に足をとられながら、光を反射する水面を横目にそう呟く。
「ねぇ、本当に」
長く苦しい夏と秋と冬が明けたら、心から笑える春がちょっとだけ待っていた。

いつもじゃなくて、いい。
ただ夏の空気は手を繋ぐには少し湿っぽくて、秋の空気はどこか悲しくて、冬の冷たさは手を覆い隠す。
今日はとっても、その、向いている。

あなたと手を繋いで眺めるその景色が、立ち止まって見渡したその景色が、なぜだかすごく尊いものに感じた。
今日の日のことを覚えておこうと、溢れる笑顔を閉じ込めることもせず、ひたすらへらへらしてしまう。

これから続く春の日に、期待を少しずつ膨らませながら、新しい一歩を踏み出した。

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みみ
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