ひとりぼっちの写生大会
朝起きてテレビの電源を入れ、とりあえずニュースをつける。いつものお決まりのルーティーンなのに、何かが変だ。番組の画像が乱れていて、音声も、人の動きも、たまにフリーズする。
普段なら、原因を究明するべくアレコレ試してみるところだが、今日は違った。
まぁいいや。
プツンとテレビの電源を落とし、私の電源も落とす。
なんだかそんな気分。
(あぁ、こんなの、前にもあったなぁ。)
登校自粛期(2週間)
小学4年生の頃だったか、
ウイルス性結膜炎という眼の病気にかかったことがあった。
たぶん、この時と同じ気分を今日味わっている。
一言でいえば孤独感だ。
ウイルス性結膜炎とは、
・人から人へと感染するアデノウイルスを原因とする
・白目の一番表面の膜である結膜に炎症を起こす
・目が充血し、涙や目やにが出る
・約1~2週間で治るとされる
等の特徴がある。
【参考】https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/infection/
小さいころから眼に関する病気をすることが多かったけれども、特にこの病気は、子供の私にとって、凄く嫌な病気だった。
その理由は明白で、「人との接触を極力避けなければならない」ことだった。
勿論、登校は出来ない。友達とも遊べない。
眼は痒いし、目やにも涙も止まらない日々が続いた。医者は「手をこまめに洗って、家族の人と使うタオルを分けるように。」と言った。
その為、家の中のトイレにも、洗顔するにも、マイタオルを持参していた。
学校に行かないのはひどく退屈で、
狭すぎる庭に何の植物が生えているのか観察したり、シートン動物記をシリーズで借りてきてもらって時間を潰していた。
学校からの宿題
私が通っていた学校は家から遠く、バスで30分、そこから子供の足で歩いて30分かかった。
幸いにも、近くに住む友達が学校から書類を玄関先まで届けてくれることもあったが、その中には写生大会の画用紙も含まれていた。
私が登校を自粛していた期間中にちょうど開催される予定だったのだ。
写生大会で描かれた絵は全校生徒分、体育館の壁に張り出され、上手な絵にはリボンがかけられ展示された。
絵が上手いとか下手とか以前に、絵を描くことに苦手意識のある私には、展示とか入賞とか、どっちでもいいことだった。
しかし、なにより、絵具セットを抱えて校内や校外で仲のいい友達と絵を描く時間は、半分遠足のようで、それはとても楽しみにしていた。
が、それは叶わなかった。
私は近くの公園で絵を描いた。
想定外の来訪
今頃みんな、何を描いているんだろう。
きっと私はぼーっとしながら目の前の光景を写していたんだと思う。
そんなとき、「おーい。こんにちは。」とやってきたのは、その年に初めて赴任してきた美術担当の担任の先生だった。
写生大会は初夏頃に行っていたから、先生の生徒になってから日も浅かった。
先生は、すごく自然に近くに腰を下ろし
「調子はどう?絵は進んでる?」と声をかけてくれた。
私は驚き、唖然として、すぐに答えられなかったことを鮮明に覚えている。
むしろ今まで思い出さなかったのが不思議なくらいだ。
先生の来訪で、例年よりも更に特別になった写生大会は、私のなかで今も、大切でやさしい記憶として活きている。
人のやさしさが人を強くする
再びテレビの電源を入れたのは、夕方。
もう、変な誤動作はしていないようだ。
時間の経過で解決する物事もある。
その一方で、人の何気ないやさしさが、他の人に温かいマッチの火のような希望をもたらすこともある。
どちらであっても良い。
どちらがあっても良い。
ただ、私は、幾つになっても人にやさしくあれる人になりたいと願う。