ひとり暮らし歴も、早十年
ひとりで暮らすって、なんかかっこいいって思ってた。怖いとか寂しいとか、考えたこともなかった。
だって、実家暮らしより断然いい。厳しかった門限もない。様々な押し付けもない。
私は二十歳で家を出た。それ以前には、花嫁修行を兼ねて料理教室に行っていたし、まぁきっと大丈夫、なんとかなると思っていた。でも、実際は違った。
ひとりで暮らすということは、これまでやってこなかった家事の数々をこなさねばならず、かつ、自分の選んだ何某かの生業を営んでいかねばならなかった。そして、生活する為には当然お金が要る。
ドリームだけではやっていけないこともある。そのひとつに、私は料理ができなかった。料理教室でお膳立てされたレシピに食材、先生の解説があってこそ、ハンバーグだのなんだのと作れていたのだ。だがしかし、ひとたび自活という事になれば、話は全く異なる。安い食材を探し、買い出しして、食材を腐らせないよう冷蔵庫の中身をチェックし、何が作れるか考える。一品作る為の食材を揃えるのでは駄目。
(あれ、私なに食べればいいんだろう)
一番手近な、食パンやハムを食べた。近くにコンビニもあったのに、「ひとり暮らしするから!」と実家を飛び出した私の目には留まらなかった。
たくさんあった体重は、私史上最低を記録した。(やっと、すらっとした)と言い換えてもいい。
けれども、腹が減っては何も出来ぬのが現実である。慣れない土地で市役所手続きを全て終わらせたら、午後14時であった。食パン、ハム生活の痩せっぽちには、もう我慢の限界で、ふらふらーっと、喫茶店に入った。地元の、常連さんがくる感じの喫茶店であった。生姜焼き定食を注文すると、副菜がこれでもかと付いてきた。ゆっくりと噛み締めながら、モリモリと食した。
あの喫茶店を、私はそれ以来訪れていない。そこは、私にとって聖地なのだ。ひとり暮らしの大変さを噛み締めて、自活を学ぶキッカケとなった場所。
これからひとり暮らしする人たちに幸多からんことを。