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資生堂の事業売却から考える小売DXの未来

先日、資生堂が「TSUBAKI」や「SENKA」の日用品ブランドを売却することを発表しました。知名度の高いブランドが含まれているだけに、驚いた方も多いと思います。

日用品マーケットの限界

直近で開示された2020年12月期の業績は、コロナ影響もあり売上9,209億円(▲18.6%)営業利益150億円(▲86.9%)と厳しい結果となりました。

今後はコロナが収束に向かうに連れて、業績も回復傾向であるとの見解が発表されていますが、アフターコロナの消費行動を見据えて、昨年より「WIN 2023」という新中期経営戦略が進められています。
今回の事業売却も「WIN 2023」に基づき実行されたとのことです。

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戦略の骨子を端的に表現すると「儲かる商材にフォーカス、主戦場はグローバル ✕ デジタル」です。
裏を返すと「国内におけるマス向けの日用品は儲からない事業になってしまった」という事になります。

出典:資生堂 2020年第4四半期 決算説明資料

また、CEOの魚谷さんが売却にともなうリリースで以下のようにコメントしています。

今回の目的は、ビューティーコンサルタントによるカウンセリングを伴う化粧品事業とは全く異なる、いわゆるマスマーケティングという事業構造を持つパーソナルケア事業を、資生堂の枠組みから分離・独立させ、新しい組織を合弁事業化しさらに発展させることです。

このコメントを踏まえると日用品が儲からないのは以下の構造があることが分かります。

日用品する低中価格帯の商品が中心
→ 薄利多売になるので幅広い認知が必須
→ TVCMや交通広告といったマスマーケティングをやらざるを得ない
→ 一方で新興ブランドの台頭で競争が激化しおり、シェアが伸びない
→ 利益率が悪くなる

誰しもが知っているブランドを持っている資生堂でさえ、このような状況であることを踏まえると、国内に展開する日用品ブランドメーカーの多くに同じ状況が当てはまるはずです。

高付加価値を実現するためのDX

資生堂は今後、化粧品を中心とした高付加価値スキンケアビューティー領域に注力することで、収益性を改善する方針を打ち出しています。

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当たり前ですが、収益性を高めるためには利益率の商品を売る、そのためには高い付加価値が必要!!ということですね。

そして、高付加価値を実現する際の手段として必ず出てくるのが「顧客体験のパーソナライズ」です。

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顧客体験をパーソナライズすることで価値を高めたい
→ パーソナライズのためには顧客のデータが必要
→ データを得るには顧客と直接接点を作らないといけない
→ ECでの直接販売(D2C)
→ デジタルの強化と新事業・新ブランドの開発

今後の方針として「ECをはじめとするデジタル投資のシフト」「新ブランド・新事業の展開」といったテーマとして掲げられており、昨年の4月にはCDOの登用、DX推進チームが発足され、既に本格的なDXに向けてスタートしているようです。

・本社にデジタルトランスフォーメーションチームを発足
・日本事業:チーフデジタルオフィサー登用
・デジタルマーケティング専門人材100名採用
※IR資料より抜粋

加えて、DX文脈でのアクセンチュアとパートナーシップも発表されており、かなりの力の入れ具合であることが感じれられます。

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ここまでの資生堂の戦略や方針を簡単にまとめると、以下の図のような関係性になっていることが分かります。

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この発想は資生堂に関わらず、他の小売メーカーにも通ずる内容であり、この図をどのように実現するかを様々な企業が試行錯誤している段階にあると考えています。

ブランドは最大公約数から最小公倍数へ

昨今のD2Cブームにも現れている通り、インターネットやSNSなど情報ソースが多様化したことで、消費者の購買行動に個々の価値観が強く反映されるようになっています。

■従来の購買行動
・みんなと同じものを買いたい
・購入のきっかけは有名人・著名人のイメージ
・受動的な購買行動

■現在の購買行動

・自分がいいと思ったものを買いたい
・購入のきっかけは自分が好意を抱く(フォローしている)人の推薦
・能動的な購買行動

これは先に挙げた顧客体験のパーソナライズにおいても重要な観点です。

仮に顧客候補が100人いた場合、100人全員が1つのブランドに最適化できる見込みは薄く、複数の選択肢の中から顧客ごとに最適な提案をする方が現実味があります。

こういった環境下においては、従来のように最大公約数的な単一のブランドを作るのではないく、最小公倍数的に多数のブランドを生み出す方が、リーズナブルな経営と言えます。

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一方、多数のブランドを運営する場合、運営するブランド数に応じて、業務・システム・組織や人材が芋づる的に増えていくため、単一ブランドを運営する場合と比較して、収益性が悪化する恐れがあります。

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そのため、中長期的に収益性の高いブランドを生み出し続けるためには、効率の高い事業環境を構築することが、中長期的における事業をグロースの鍵になってきます。
資生堂がDXの名の下、業務やシステムの刷新・スリム化を急ぐ背景には、このような状況があるものと推測します。

Data is King

CX、DXにおける最も重要な要素は「データ」です。
顧客体験、商品、マーケティング、何をするにしてもデータがないことには始まりません。

資生堂もIR内で「No. 1 Data Driven Skin Beauty Company」をデジタルビジョンとして掲げており、データ活用が重要であることを名言しています。

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データを得るためには、メーカーが顧客との接点を増やさなければなりません。
そのためには、従来のように卸業者を介しての販売から、メーカーが顧客に直接販売にシフトする必要があります。当然ながら、オフラインよりもオンラインの方がデータ取得の難易度が低く、デジタルの世界での直接販売=D2Cが増えているのは必然の流れと言えます。

小売DXの未来

資生堂が進めているDXと同様のことが、小売業界全体に波及していくと思います。

・マスマーケティング → データマーケティング
・最大公約数的な単一のブランド → 最小公倍数的に多数のブランド
・卸販売 → 直接販売

国内市場が頭打ちになる中、この変化にキャッチアップして、商品やサービスをアップデートできた企業とそうでない企業では、数年後に大きな差が開いていることが予想されます。

小売業界は多くの商品と多くの顧客で成り立つ事業であるからこそ、デジタル活用のポテンシャルも高いため、国内だけでなくグローバルに通用するモデルが構築されることを期待しつつ、引き続きウォッチしていきたいと思います。

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