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映画「異端の鳥」感想 / 究極の闇の中で見つめる葛藤と問い、そして希望

2019年、チェコ=スロヴァキア=ウクライナ、ヴァーツラフ・マルホウル監督) 169分 <ネタバレなし>

ホロコーストの生き残りである原作者の出身地ポーランドでは発禁書となり、11年もの歳月をかけて映像化された本作。
第二次世界大戦、ユダヤ孤児がナチス軍から逃れる中、様々な過酷な出来事が起き成長していくロードムービーとなる。
残虐なシーンがひたすらに続く事もあり、賛否両論な作品でもあるが、個人的にはタル・ベーラの"ニーチェの馬"に次ぐフェイバリットムービーとなった。

何より、監督ラフ・マルホウル氏の表現したい事が自分の作品と共通している事、また35mmフィルムで撮影されている、目を伏せたくなる様な凄惨なシーンと反比例するモノクロ世界のビジュアルの美しさもまた理由でもある。映像の勉強にもなった。

映画鑑賞後に監督のインタビュー記事をいくつか読んだのだが、話す言葉にとても共感出来る事が多く感激した。

「善と悪の葛藤を続けるのは、人類の運命であり、最も大切な問いとなるのは、善とは何かを理解するために、どれくらいの悪を知らなければならないのかという事だ」

と語っている。

悪とは何か。
どこから生まれてくるのか。
この作品では、兵士=悪、庶民=被害者という図式で語られることはなく戦争という地獄の世界、暴力性で構築されるヒエラルキーの中で、地元民である"平凡な人々"の中から生まれる残虐性によって、真逆にある希望、愛、ヒューマニズムを探る手立てとなり得ている。


少年もあらゆる人の悪意、残虐性、「異なる」という事を理由に、差別され、弱き者として排除、叩きのめされ、次第に変わっていく様は「大人」になる事なのか、「強さ」なのか、生き抜くための「必要悪」なのか。
ありがちな辛い出来事を乗り越えた先に得た分かり易い愛とか、希望といった表現ではなく真逆な展開である事でより興味深く考えさせられる。

まさに私自身の作品作りの際にベースとなる問いである、「善と悪」について、監督が言う様に

答えはまだ見出せなくとも、それを問い続けなければならない

そして究極に闇を表す事でポジティブなメッセージを伝えようとしたと言う通り、私の中にずっと持ち続けている大きな問いは、この「異端の鳥」という作品により、また強く意識させられ、それらを提示、表現していく事が自分の創作の源である事を改めて感じさせられた。

世間ではこの作品を胸糞映画なんていう声も多い様だが、これは我々人間が行ってきた戦争や差別の愚行の一部でもあり得、目を背けずに向きあう事も必要なのではないかと言われている気がしてならない。そして客観性を持ってこれらの事象を受け止め、自分達が何をすべきか改め考え、明暗コントラストの先にある"光"を捉えたいと思う。

そして最後に、監督が言った

アートというものは本物の感情を喚起させることができるもの全てだ。

これを読んで涙が出た。まさに私が音楽を作る上で目指す形であり、その為に全身全霊で作り、表現し、誰かの心の奥の感情を魂から湧き立てられる様に伝えたいと思っているから。

この映画を通して、また素晴らしい監督に出会えた事にも感謝する。



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