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「私、ばかだもん、東大じゃないし」

「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコ

2022年2月16日読了

2016年春に豊島区巣鴨で、東京大学の男子学生が5人、逮捕された。
5人で1人の女子大学生を輪姦した……ように伝わった。

「世に勘違い女どもがいるかぎり、ヤリサーは不滅です」
「被害者の女、勘違いしていたことを反省する機会を与えてもらったと思うべき」
勘違い。
勘違いとはなにか?
「彼女は頭が悪いから」プロローグより

実際に起きた東大生による強姦事件に
着想を得て書かれた本書。
後に被害者になる神立美咲と、
美咲と「一時は」恋に落ちたはずの東大生竹内つばさの
中学時代から物語は始まり、
事件までの数年間が二人の対比しつつ描かれる。


とにかく、読んでいる間も読み終わった後も、
気分が悪くなる。
だけど、とてつもなく考えさせられる。

被害者である美咲は「頭が悪い」かもしれない、
けれど、
魅力にあふれ、素直で、純情な恋する乙女であり、
「勘違い女」ではない。
と私は思う。



学歴がすべてじゃないよ

受験勉強で悩んでいたころ、
よく教師や両親からかけられた言葉である。
では、
なぜ世の人々は子どもの成績に頭を悩ませ、
進学塾は儲かり、
多くの高校が進学実績を公表するのか。

答えは簡単、
「すべて」ではなくとも、
学歴は大いに人生に影響するからである。
就職、結婚、子育て、、、
あらゆる人生の節目に
表立たずとも学歴というものがついてまわるのは
紛れもなく事実なのである。


私は、地方の国公立大学に通う学生である。
弊学の学生のほとんどは、
高校時代に一度はすぐ近くにある旧帝大の一つを
目指したことがあるのではないだろうか。
そんな環境にいると、
「学歴コンプレックス」という言葉をよく耳にするし、
本来は自分はこんな大学にいるはずではなかった
という主張をする学生に
何度も出会ったことがある。
そのうちに
私は「そこそこだけど中途半端」な大学
に通っているんだな、と認識するようになった。

一方で、
私自身はあまり自身の学歴にはこだわっておらず、
実家から通うことができ、
興味があることが勉強できればいいか、
と進学した。
それでも
近しい親族から唯一国公立大学の進学者ということで、
それはそれは褒められて進学したのである。

親族唯一の「頭のいい子」の自分と、
旧帝大には入れなかった「それなりな大学生」の自分の
ギャップを感じることもあった。


成人式に参加した日、かつての級友から
「どこの大学通ってるの?俺、彼女募集中だから友達とか紹介してよ」
といわれる。
正直に答えると
「そこの大学の子は俺じゃ釣り合わないからダメだ」
といわれる。

○○大の学生だ、と伝えると
「女の子はそれなりの学歴のほうが可愛くてモテるよ」
などと憐みの感情を含みながらいわれる。
「でも医学部の知り合いとか作って、玉の輿にのれるんじゃない?」
と励まされる。

見る場所によって、学歴の捉え方は違う。
でも
「学歴」だけで他の要素を何も聞かなくても
自分には釣り合わないと思い、
自分より高学歴な男を捕まえるために
女は低学歴にとどまるべきだ、
と諭される社会なのである。

時代錯誤だと思う一方で、絶対に存在する考えが
この本では凝縮されて色濃く描かれるのである。


こんな人と一緒にいる私、
というアイデンティティ

この本の中に出てくる東大生は、
様々なバックグラウンドを持っている。
親が東大生か、東京出身か、出身高校はどこか、、、、
様々な要素によって
彼らは「東大生」というカテゴリーの中でランク付けされる。
だからこそ、「東大生である自分」は
絶対的なアイデンティティであり、
それを満たさない周りの人間は自分よりも劣り、
「東大生の自分」に価値を感じ、近づいてきていると信じてやまない。
関わる人間でさえも彼らのアイデンティティを補強し、
魅力的に見せるための道具でしかないのだ。

一方で、その「道具」も「東大生と一緒にいる私」を
満たすことに躍起になっている。
あくまでも、「東大生」である彼らに魅力を感じ、
「東大生といられる私」に酔うことが目的なのである。

こうした陰謀が渦巻く中で、
いろんな意味でまっさらな美咲が、
「東大生」ではなく「つばさに」恋をしてしまった。
これこそが悲劇の始まりなのではないかと思う。



人と関わるということ


人という字は人と人が支え合っているのを示している。
という有名なセリフがある。
確かに、人は支え合って生きている。
しかし、
時に、人は互いに利用しあって生きている。
私たちは
利用される美咲であり、
利用するつばさなのである。

私はこの本を読んでいる間、終始
「女」として、「そこそこな大学生」として、
不快になりつつも
「頭がいいね」「できる子だね」といわれたことがある身として、
わたしがつばさになっているときはないだろうかと
不安にもなった。
あなたは、どう思うだろうか。




読んでほしい人

  • 自身の「学歴」について少しでも考えたことがある人

  • 女子大学生

  • 女の子は頭がちょっと悪いくらいがいいよという言葉にイラっとする人

  • 自分は割と勉強ができる方だと思う人

是非、東大生の感想も聞いてみたい一冊でした。


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