ワークショップで組織ビジョンを開発する:ボトムアップ型でブランドアイデンティティを作るための8つのポイント
ミミクリデザインのnoteに、2018年8月に社内で実施したビジョンメイキングワークショップの様子が紹介されています。半年前、懐かしい!
2019年3月にウェブサイトと共にリニューアルしたコーポレートスローガン「創造性の土壌を耕す|Cultivate The Creativity」が完成するまでには、約半年間に渡る計3回の社内ワークショップと、経営メンバーによる合宿を通して決定されました。そのプロセスが事細かにレポートされています。
ミミクリデザインでは、自社だけでなく、他企業に向けた組織開発のメニューの一つとして、理念、ビジョン、ミッションを開発し、コトバや制作物に落とし込む、つまりブランドアイデンティティ構築のコンサルティングの案件が非常に増えています。
多くの場合、クライアントの社内の選抜メンバーでワークショップを実施し、そこで紡がれた言葉を素材にしながら、デザイナーやコピーライターがクリエイティブに落とし込んでいくフローをとります。
この場合、プロジェクトの成否を握っているのは「どんなワークショップを実施するか」だといっても過言ではありません。ただ単に集まって「ビジョンどうする?」と話し合うだけでは、思考は深まらず、永久にまとまりません。ボトムアップ型で進めたからには、組織に共感と求心力をもたらす納得度の高い、それでいてクオリティの高いアウトプットを出さなければなりません。以下では、これまでの経験を振り返って、ワークショップを活用して組織のブランドアイデンティティを構築する際に有効なポイントを8つご紹介します。
1.個人の主観的なストーリーを種にする
ワークショップを活用してビジョンを作り上げるということは、組織のメンバーの意見を尊重し、ボトムアップ型で組織開発を進めるということです。成果物は「組織のビジョン」ですが、それを実現するのは組織のメンバー一人ひとりに他なりません。ワークショップの中で、特に前半のうちは「私」を主語にして、個人の主観やこだわりを込めながら、ロジカルではなくストーリー的に対話が深められるような支援が必要です。気をつけないと「組織はどうあるべきか」と主語を組織とした他人事の議論になりがちです。
2.歴史を踏まえる
イノベーティブな組織を作るには、過去にとらわれない大胆な発想は重要です。けれども、大企業であれ、ベンチャーであれ、"自分たちらしい未来"を考えるヒントは過去にあります。これまでの組織の歩みに目を向けて見ると、過去の何気ないエピソードに"らしさ"の手がかりは隠れています。ただし、過去を踏襲することが必ずしも組織にとって望ましいとは限りませんので、過去から「継承したいことと」と「新たに加えたいこと(過去に足りていないこと、変えたいこと)」の両面を議論できるようなファシリテートが必要です。
3.アイデンティティを構造的に捉える
組織の理念やビジョンとは、組織のアイデンティティに他なりません。アイデンティティとは、人間のそれと同様に、ある種の「構造」を持っています。どんな人でも、その人の「らしさ」は必ずしも服装や発言など「目に見える」とは限りません。親しくなることでようやく見えてくる人柄や性格、価値観などがありますよね。組織も同様に、外からは見えにくい内側に秘められた「内核」のようなものがあって、それがウェブサイトやパンフレット、SNS、メンバーのトーン&マナーなど、可視化されたメディアに「外装」として現れる。それをみた世間や顧客は組織に対する「印象」を抱きます。図を書いた方がわかりやすいのですが、面倒なので乱暴にまとめます。
なぜこの整理が重要かというと、組織ビジョンやブランドアイデンティティを社内メンバーで話し合おうとすると、この「内核」「外装」「印象」の3つがごっちゃになりやすいからです。歴史を背負った内側にいるメンバーで、外側の顧客に対してどうアピールしたいか..ということを同時に話し合おうとすると、この構造的区別が崩壊して、混乱の元になります。構造をきちんと捉えながら話し合いが進められるように、ファシリテーターがきちんとプログラムデザインと交通整理する必要があるでしょう。
4.コンテンツと表現を区別する
前節の構造と同様に、ビジョンやアイデンティティを言葉に落とし込んでいく際に、コンテンツ(意味の要素)と、表現(それをどう伝えるか)もまた、社内メンバーで話し合うと、ついついごっちゃになって、合意形成の妨げになります。ファシリテーターの支援が必須です。
たとえば「創造性の土壌を耕す」というステートメントに対して、「この案は微妙だと思う」と反対するメンバーがいたときに、指し示している意味に反対しているのか、表現に反対しているのかは、区別が必要ということです。「意味には賛成だが、表現には違和感がある」ということであれば、意味は変えずに「創造性の基盤を構築する」など別の表現に言い換えれば、合意につながるかもしれないからです。
5.アナロジーを活用する
煮詰まったときには、アナロジーを使ってみることも有効です。アナロジーは、似ている別のものに喩えて考えることです。簡単にいえば「自社のらしさを、別のものに喩えると?」「自社サービスって、顧客にとってどんな存在?」みたいに考えるということです。
ミミクリデザインのアイデンティティを考える際にも、「ミミクリデザインとは、〇〇である」というアナロジーの大喜利を繰り返しながら、自社理解を深めていきました。その時の回答を見ると、ミミクリデザインとは、「イタズラな眼鏡屋」「砂場」「サーカスの劇団」「ルービックキューブ」のようなものである..と、意味不明なものが多いのですが笑、「その心は?」という回答の中に、自社の理解を立体化させるヒントが詰まっています。
結果として、現在のスローガンである「創造性の土壌を耕す」という言葉も、ミミクリデザインが世の中に生み出していく価値をアナロジカルに表現したものとなりました。
6.完全にボトムアップでやらない
ボトムアップ型でビジョンやアイデンティティを開発することは、組織に求心力をもたらす組織開発的なプロセス価値を考えても、効果は計り知れません。けれども、すべてのプロセスを完全にボトムアップでやる必要はなく、特にビジョンを練り上げる場合には、トップの意向も重要です。
トップの強烈なメッセージが全くない中で、完全にボトムアップ式でやってしまうと、現場レベルの視座の高さと過去の蓄積から線形的に導かれた「弱いビジョン」に着地してしまうリスクがあります。NEWPEACEの高木新平くんの以下の慧眼ツイートは、まさに、ですね。
弊社の場合は、初回のワークショップで、代表である安斎の考えを「たたき台」としてプレゼンテーションしながら、それを全員で破壊的に再構成するプロセスデザインにしました。いうなれば、半トップダウン、半ボトムアップ型の進め方ですね。どこまでトップダウンで、どこまでボトムアップにするか、戦略的な設計とファシリテーションが必要です。
7.プロトタイプと投票を繰り返す
いずれにしても、練りに練って珠玉のアウトプットを最後に出すやり方ではなくて、デザイン思考的にプロトタイプを繰り返すことは不可欠です。
いったん仮説的にビジョンステートメントやスローガンのアウトプットを作ってみて、メンバーで「投票」をすることで、共感と違和感を場に可視化しながら、改善させていくほうが、圧倒的に早く満足のいくアウトプットクオリティにたどり着きます。投票の仕方も、賛否を入れるやり方や、コンテンツと表現を区別して投票するなど、さまざまな工夫が可能です。
8.絶えずアップデートする
最も重要なことは、ビジョンやアイデンティティを「完成したら終わり」にせず、社内で対話的に解釈する機会を設けて、絶えずアップデートし続けることです。
ミミクリデザインでも、常に「自分にとって"創造性の土壌を耕す"とは一体どういうことなのか」「今回のプロジェクトでは、十分に創造性の土壌を耕せたのだろうか」「自分らしく土壌を耕すためには、自分はどんな武器を磨き、どんな風に働くのがよいのか」と、メンバー全員で考え続けています。
ビジョンは組織の目的でもありますが、組織が前進するための手段でもあります。社内でビジョンを噛みしめるワークショップを繰り返してこそ、ボトムアップ型のブランドアイデンティティ開発は真価を発揮するのです。
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以上、ワークショップを活用して組織のブランドアイデンティティを構築する際に有効なポイントを8つご紹介しました。
ミミクリデザインでは、ワークショップを活用した理念・ビジョン・ミッションの開発を支援しています。ボトムアップ型のブランドアイデンティティの構築にご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
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