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こんな日には、話すよりも温もりを
情報に触れるのが、苦しすぎる日だった
速報を見て、「日本でまさかそんなことが」と思う
重い体を引きずって電車に乗ろうとしたら、「男性が車内で暴れている」ということで小田急線が止まり、駅周辺に混乱が広がっていた
一体どうなってる……
仕方なく電車で帰ることを諦め、シェアサイクリングのアプリを開いて自転車を予約していると
親友から「しんどい」という一言が、グループLINEに届いた。
私もだよ、本当に今、そういう気持ちだよ
私を含め、グループの三人ともたまたま近くにいたからすぐに集合することになった。
こういう時、1人で抱えていると、どこまでも闇に沈んでしまいそうになる。だからといって、繋がりを求めスマホを手に取り、ネットやSNSを覗いてしまうと、もっと闇に沈むことになる。
私たちは何よりも、大好きな人たちと「会うこと」を優先した。
自転車を漕いで待ち合わせの場所まで行って、顔を見て、お互いにひどく落ち込んだ顔のまま、気持ちごと抱きしめ合った。
「人の言葉を、暴力で奪うなんて許せない」という気持ちも、民主主義の反逆と言える行為が自分の生まれ育った、自分の愛した国で起きてしまったことへの衝撃も、各々の心と体を重くする暗闇があったけれど
それらを事細かく言葉にして、吐き出し合うことはなかった。
なにに対して、誰に対して、どう思っているか、なにを考えているのか
それを口に出し合って何かを論議するには、あまりにも感情が溢れすぎていた。
それよりもSNSから目を離して、お互いの顔を見て、心が崩れないように、必要以上に落ちてしまわないようにと抱きしめ合って、パソコンを開いて、一緒に仕事をしていた。
でも時折また感情がひどく揺らいて涙が出て、それをお互いに拭い合いながら、「どうにか一命を」と祈っていたけれど
私たちのもとに届いたのは、訃報だった。
とてつもないやるせなさに、力がスルスルと抜けていく。
「こんな日になにをしているんだろう」という、どうしようもない虚無が波のように押し寄せてくる。
笑うことも、政治と関係のない話題を置くことも、間違っているような気がしてしまって。巨大な、自分では手の届かない範囲の闇に飲み込まれて動けなくなりそうになる。
その瞬間に堕ちそうになるのを何度も何度も、お互いに引っ張り合った。
音楽を流して、歌って、泣いて、仕事をして、ご飯を食べて、すぐ足元がなくなってしまうような脆い虚像のような今日を一緒に、過ごしていた
こんな日に、なにを話そうか
どれを選んでも、難しくなってしまいそうだったから。
ただ美味しいご飯をお腹いっぱいに食べて「美味しいね」と笑い合って、店内で流れる昭和の曲にいちいち「懐かしい(笑)」と盛り上がって
『ラヴ・イズ・オーヴァー』が聴こえた時には一緒に口ずさんだ。
こんな時には、出来るだけ孤独を遠ざけよう。
音楽を聴いたり、映画を観たり、エンタメに触れよう。
人の心に触れよう。リアルな温もりを求めよう。
できることを考えるのも
論議することも大切だけど
まずは、まずは、自分の心をちゃんと温めよう。
あんまり夜更かしをしないで、お風呂で温まって、体と心は繋がっているから、マッサージやストレッチでなるべくほぐしてあげよう。
前向きに心を持っていくまでにも、幾つもの悲しみや怒り、虚無の波が襲ってきたりするから
その波を、1人ではなく、なるべく誰かと一緒に乗りこなそう。SNSとは距離をおいて。
こんな時、だからこそ。