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『窓辺にて』個人のとても簡単な感想。

「妻の浮気を知ったのに、全く怒りがわかない」——。

 分かる、と思った。

 映画館で観ていると「早送り」ができない。今回は、それがありがたかった。沈黙が多い作品だ。会話をメインとしているからだろう。普段の会話、とくに相談事をしているとき、すらすら言葉が出てくる人は少ない。その「リアルな間」から、画面の中にいる人々の温度感が伝わってきた。全編143分。不思議と退屈ではなかった。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。しかし、それを妻には言えずにいた。また、浮気を知った時に自分の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市川は、久保にその小説にはモデルがいるのかと尋ねる。いるのであれば会わせてほしい、と…。

映画『窓辺にて』公式サイト:https://www.madobenite.com/#

 まず、彼らの会話のトーンが好きになった。それぞれの性格が表れている話し方だ。留亜に関しては、天才高校生作家ではなく、良い意味でただのJKだった。毎年流行語を生み出す彼女らの言葉こそ、天才的だと思う。有坂(市川の友人)のゆるい話し方も、まだ耳に残っている。(話し方フェチのわたしとしては、色気のある有坂の話し方はとくに印象が強い。まさに「沼る」話し方)
 紗衣をはじめ、理性に勝てない人間っぽさも好きになった。大前提、不倫は絶対に良くない。「大人だから」彼らもそれを理解している。それでも、相手への「好き」や「本当に好きな相手に好かれたい」という感情をコントロールするのは難しい。

 市川は40歳前後、妻の紗衣は30代だと推測する。有坂もおそらく30代だろう。大人の恋愛とよく言うが、高校生の好きも大人の好きも結局は一緒だと思う。どうして違って見えるのか。大人の方が失いたくないものが増えて、素直に恋愛できないからかもしれない。本作ではその不器用さがもどかしくもあり、愛おしくもある。不倫や別れが題材にもかかわらず、すがすがしい気分になる、なんとも不思議な作品だった。

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