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『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった(岸田奈美/小学館/コルク)』は、親の死後に読んではいけない。

一昨年、父親が亡くなった。68歳だった。
悲しみに暮れつつも、やれ葬式だ、四十九日だ、一周忌だと過ごしていく中で、ふと、以前読んだこの本のことを思い出した。

ところで、「良い本」の定義とは何だろうか。
それはもちろん、「学び」が多いことだろう。
いやいや、「感動」も捨てがたい。
何を言う、「笑い」だって大事じゃないか。
その3つが、ヤクルト1000配合の乳酸菌のごとく高密度で詰まっているのが、この本だ。

この本は、著者である岸田奈美さんのご家族を描いた物語だ。
もともとは、「弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」というWEB記事を読んだことがきっかけで、一発で岸田さんと、ご家族と、岸田さんの書く文章のファンになった。

とても明るくみんなから愛される、万引きを疑われた弟さん。
美人でポジティブな、赤べこになったお母さん。
そして、著者が中学2年生の時に亡くなられてしまった、「めちゃくちゃ面白くて大好きだった」という、お父さん。

このご家族を描いた物語の全てが、とにかく笑えるし、学びがある。

例えば、お仕事で訪問された時の、ミャンマーの方々の考え方がわかるエピソード。
「徳を積む」「輪廻転生」とは何か、お国によってこんなにも考え方が違うのか、と考えさせられた。

例えば、球場でホットコーヒーの売り子担当となった、岸田さんの奮闘記。
逆境をネタにできる力、さらにはいくつもの工夫によってそれを乗り越える力には、とても学ばされた。

そして、下記のような岸田さんの「考え方(視点)の変化」にも、ハッとさせられる点が多かった。

・「歩けないなら死んだ方がマシ」ではなく「歩けなくてもできることは何だろう」と、私と母は考えるようになった。
・「助けるってのは、声をかけて身体を動かすより、視点を動かして相手のことを思うことかもしれない」
・「歩けないから、見えないから、聴こえないから、気づけることがある。障害は価値(バリュー)に変えられる」

読んだのは2度目にもかかわらず、全俺が泣いた。そして家族にも勧めた。そしたら全家族が泣いた。

記事タイトルの「親の死後に読んではいけない」には、2つの意味がある。
1つは、シンプルに涙腺が崩壊するから。
そしてもう1つは、親孝行をしたくなってしまうからだ。したくなっても、その相手がもうこの世にはいない、というのは、これ以上なく悲しいことだからだ。

ぜひ多くの人に(できればご両親がご健在なうちに)読んでほしい一冊です。


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