【読書記録】結婚生活を成功させる七つの原則
今回の読書記録は、ジョン・M・ゴットマン著『結婚生活を成功させる七つの原則(原題:The seven principles for making marriage work)』です。
本書は、ワシントン大学の心理学教授であり、シアトル結婚・家族研究所の所長でもあるジョン・M・ゴットマン博士による一冊です。
ゴットマン博士はワシントン大学の構内にラブ研究所(Love Lab.)と名づけた施設を設立し、16年間で1000組以上の夫婦を面接、そのうち650組の夫婦を14年間追跡調査した結果から、『結婚生活を成功させる七つの原則』を発見しました。
さらに、研究所に訪れた夫婦の会話を5分間観察するだけで、その夫婦がその後幸せな結婚生活を送ることができるのか、それとも離婚の道へ進むこととなるのか、平均して91%の確率で予測できるようになったと言います。
本書『結婚生活を成功させる七つの原則』は、その長年にわたる研究成果を平易な表現で伝えてくれているものです。
2000年には『愛する二人別れる二人―結婚生活を成功させる七つの原則』として邦訳出版されましたが、『結婚生活を成功させる七つの原則』は2007年に出版された新装版に当たります。
以下、本書を読んでの印象的な気づき・学びについてまとめていきます。
本書を手に取ったきっかけ
本書を知ったきっかけは、中土井僚さんの執筆された『人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門』がきっかけでした。
本書を初めて手に取った2015年当時の私は、内面の変容からイノベーション創出、社会課題の解決を導いていく『U理論(Theory U)』の探求を進めていました。
ビジネス、経営の領域では、日々刻々と状況が変わり続ける中で過去のベストプラクティスに学ぶのではなく、絶えず「学習する組織(learning organization)」を作っていくことの重要性や「出現する未来(the emerging future)」から学ぶ必要性に注目が集まっていました。
そのような状況下で、卓越したビジネスリーダー、独創的なアーティスト、プロスポーツ選手などの優れたパフォーマンスを発揮する人々の内面に何が起こっているのか?についてのインタビュー調査を行い、『U理論』として体系化したのが、MITスローン経営大学院の上級講師であり、Presencing Instituteの共同創設者であるオットー・シャーマー博士(Otto Scharmer)です。
『U理論』の中では、私たちの内面の状況が日々の人間関係、組織、文化、社会構造と密接につながっており、Uプロセスと名付けられた内面の変容から行動へ至るプロセスは私たち一人ひとりのあり方だけではなく、社会全体に影響しうるとしています。
当時の私はこの『U理論』について探求するための3ヶ月に及ぶ長期プログラムに参加しており、
その中で先述の『U理論』翻訳者であった中土井僚さんの書籍を手にしたのでした。
『人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門』において、組織内の関係性を扱う上でのポイントとしてジョン・ゴットマン博士の名前と著書、「関係の四毒素」という人間関係を傷つける4つの振る舞い等について紹介されていました。
ビジネスや人間関係について考える上で、結婚生活やカップルがうまくいく要素として見出されたアイデアが応用されていることがとても興味深く、手に取ったのが『結婚生活を成功させる七つの原則』との出会いでした。
ゴットマン博士の願い
まず、自身の研究の目的について、ゴットマン博士は以下のように説明しています。
次に結婚の破局について、ゴットマン博士は以下のように述べています。
また、結婚生活のあり方は健康を左右するということも、ゴットマン以外の研究者たちの研究によって明らかにされてきています。
ミシガン大学の研究者ロイス・バーブルッグ(Lois Verbrugge)、ジェームズ・ハウス(James House)らの研究によれば、不幸な結婚生活者は約35%も病気になりやすく、寿命を4年縮めることになるといいます。
身体的、精神的に常にストレスに悩まされているこれらの人々は、高血圧や心臓病、精神的圧迫からの抑うつ症、浪費癖、薬の乱用、暴力行為といった結果として現れるというのです。
一方、幸せな結婚生活は健康にも寄与するということを、ゴットマン博士の研究所もまた明らかにしています。
曰く、結婚生活に満足している夫婦の免疫システムをテストしてみた場合、結婚生活に満足していない、不幸と感じている夫婦と比べて白血球の増殖や、キラー細胞の数に違いが確認できたというのです。
これに加え、結婚生活は夫と妻だけではなく、その子どもたちにも影響を与えます。夫婦間の険悪な家庭で育った就学前の子どもたちをゴットマン博士が調べたところ、子どもたちのストレスホルモンの数値の異常な高さを確認できたそうです。
このように、その後の人生に大きな影響を及ぼす結婚生活をより良く過ごしてほしいということ、そして、学術的な研究成果を以て結婚生活に貢献したいということが、著者が本書を通じて『7つの原則』を紹介しようという大きな理由と考えられそうです。
結婚生活がうまくいく重要な前提
著者は7つの原則について触れる前に、その前提となるいくつかの要素を紹介してくれています。
以下、そのうちの3つについて紹介します。
EQ(心の知能指数、感情的知性)
本書中では「知的感情」と訳されていますが、英語表現では「emotional intelligence」、いわゆるEQ(心の知能指数)の重要性について、ゴットマンは触れています。
深い友情関係(deep friendship)
続いて著者が触れているのは、夫婦間の友情についてです。
リペアアテンプト(修復努力)
続いて、幸福な夫婦の秘密兵器(the Secret Weapon)として紹介されるのが、リペアアテンプト(repair attempts:修復努力)です。
夫婦間のコミュニケーションが険悪な方向へ傾いてしまったとき、その空気をさっと吹き飛ばしたり、仕切り直したりするような両者間で通じる振る舞いや試みのことを言い、それには以下のような、そして夫婦によってさまざまな形が存在します。
「ちょっと休憩しよう」と切り出す
4歳の息子の真似をして舌を出し、その後、2人して笑い合う
笑顔になる
「すみませんでした」と謝る
関係性の「4つの危険要因」
本書中の中で特に興味深かったのが、関係性における「4つの危険要因」です。
「4つの危険要因」とは、夫婦間のコミュニケーションの中に現れる、2人の関係性に致命的な傷を負わせる言動であり、非難(criticism)、侮辱(contempt)、自己弁護(defensiveness)、逃避(stonewalling)の4つを指します。
ゴットマン博士の研究所や英語圏では、この4つの危険要因は「Four Horsemen of the Apocalypse(黙示録の四騎士:キリスト教圏における4つの厄災の訪れ)」と表現されており、その致命的な有様が強調されています。
なお、この4つの危険要因は「組織や人の関係性を対象にしたシステムコーチング(Organization & Relationship Systems Coaching)」という、コーチングの流派にも取り入れられており、そこでは「関係の四毒素」「the four toxic behaviours」などと紹介されます。
この4つの危険要因の害の大きさは、非難、侮辱、自己弁護、逃避の順であり、非難、侮辱、自己弁護の3つの要因が先行して関係性にマイナスの感情を蓄積します。
そして、それらのマイナスの感情が蓄積された後、さらに非難や侮辱を向けられた時、相手に向き合う気力すら削がれて逃避を行うこととなります。
非難(criticism)
非難と不満は異なります。どのようなカップル、夫婦関係にも不満が生じることはありますが、非難は相手の粗探しと攻撃というニュアンスが含まれます。
侮辱(contempt)
侮辱は非難ほど攻撃的なものではないものの、相手を皮肉ったり、嘲笑したりするような言動を指します。
自己弁護(defensiveness)
自己弁護は、相手へまっすぐ向き合うことをせず、自分の立場や意見を守ることに終始する言動です。時に自分の身を守るために、相手へと責任を転嫁するような言動としても現れます。
逃避(stonewalling)
逃避は相手からの非難、侮辱といったコミュニケーションから逃れるため、顔を背けたり、その場から退出してしまったりといった、夫婦の対話を避けるような言動を表します。
関係性を傷つけ合うようなコミュニケーションを積み重ねてきた場合、「相手から何を言われるのか」と常に警戒状態となり、真っ当なコミュニケーションを取ることすら難しくなります。
別れる2人のコミュニケーション
以下、別れてしまうことになるだろう2人に現れるコミュニケーションの兆候の特徴です。
出だしの悪い会話
会話が始まった時点で相手に対するネガティブな感情を感じており、相手がどのような話をしても辛辣な物言いや返事をしてしまうなど、発展が難しい状態です。
先述の『U理論』開発者オットー・シャーマー博士(Otto Scharmer)と、その共同パートナーであるアダム・カヘン氏(Adam Kahane)は、話し方・聴き方の4つのモードをモデル化しています。
出だしの悪い会話は、自分自身の考えや物の見方に凝り固まった話し方・聞き方をしているという点で、ダウンローディングなあり方と言えます。
4つの危険要因とその洪水
先述の4つの危険要因が会話に現れているということに加え、それらが十分すぎるほど聞かされ、浴びせられている状態をゴットマンらは「洪水」と名づけています。
4つの要因のいずれかが現れているだけでも離婚を予測できるとの話ですが、多くの場合は危険要因が1つだけではなく複数、夫婦間のコミュニケーションに現れていると言います。
ボディーランゲージ・強い生理的反応
ボディーランゲージとありますが、本書中においてはストレスにさらされることによる生理変化について詳細な記述がなされていました。
夫婦間のコミュニケーションで高いストレスにさらされていると、脈拍の上昇、血圧の変化、アドレナリン等のホルモンの分泌などさまざまな変化が現れます。
それら生理変化は心理的・精神的にも冷静な判断を行うことを難しくさせ、相手を攻撃しようとしたり、言動として非難、侮辱といった有害な振る舞いとして現れることもあります。
リペアアテンプトの失敗・不成功
リペアアテンプトは先述のように、結婚生活がうまくいくか否かを左右する重要な要素です。
しかし、4つの危険要因が現れつつあるカップル、夫婦間のコミュニケーションにおいては、険悪なムードを一変させるためのリペアアテンプトが無視されてしまうこともあります。
また、著者は問題を抱えた夫婦の方が、問題のない夫婦よりも多くのリペアアテンプトが使われていることを発見しています。これは、ひとつのリペアアテンプトが失敗してもその次を試みている、というものですが、夫婦間の友情の質、プラス感情の強さの違いによって、その成否が別れているとのことです。
悪い思い出
夫婦関係が冷え込むと、現在と未来の関係が危険な状態に陥るだけでなく、過去の出来事も危険要因となって現れてきます。
ほとんどすべての男女は、大きな希望や期待を抱いて結婚生活を始める物です。また、関係が始まった初期の頃についても楽しい記憶や思い出として心に抱いています。
楽しい思い出には、最初に相手を見た時の印象、初めてデートした時の興奮、相手への尊敬や賛美の気持ちなどが含まれます。
一方で、不幸な夫婦はそうした過去の楽しかった記憶さえも不快なことへと置き換え、楽しかった記憶を忘れ去ってしまいます。
こうなると、心身ともに夫婦間の実質的なつながりや交流がなくなってしまい、以下に述べるような離婚に至る道筋を歩むこととなります。
離婚に至る4つの過程
著者曰く、どういう形を取るにせよ、関係解消には以下の4つの段階を通るとのことです。
結婚生活を苦しいものと思う。
話し合いを無益なものと感じる。問題を自分だけで解決しようとする。
別居生活を始める(家庭内別居も含め、物理的、精神的な)。
孤独感にさいなまれる
終わるまで、終わりは来ない
以上、結婚生活が苦しいものとなり、関係性を傷つけあった上で離婚へと至ってしまう原因やプロセスについて見てきました。
その上で著者は本書を送り出すにあたって、改めて結婚生活のどん底に喘いでいる夫婦も、正しい救いの手が得られれば、再出発できる、と確信しています。
著者自身もかつては「4つの危険要因」に支配されずに話し合いを進めることが結婚を救える手段だと考えていましたが、現在ではその考え方に修正が加えられています。
それは、関係性の悪化に陥らない対症療法ではあっても、根本的な夫婦円満の秘訣ではなかったためです。
それでは、結婚生活を成功させる七つの原則とは、改めてどういったものなのでしょうか?
以下、簡潔に見ていきます。
結婚生活を成功させる七つの原則
16年間で1000組以上の夫婦を面接、そのうち650組の夫婦を14年間追跡調査したジョン・M・ゴットマンが提唱する『結婚生活を成功させる七つの原則』とは、以下の7つです。
何から始めるか?「愛情地図」
愛情地図(Love Maps)について始める前に、まずは本書中で紹介された小児科医ロリーと妻のリサの夫婦のエピソードを紹介します。
ロリーは乳児の集中治療室を担当する評判の良い医師であり、ユーモアに溢れた魅力的な男性です。
仕事に情熱を燃やしていたロリーは月に平均20日以上、宿直室に泊まり込む一方で、自分の子どもの友達の名前はおろか、自分の家の犬の名前すら知らないような状態でした。
妻のリサはほんのわずかな時間しか家で夫と顔を合わせることができない結婚生活や、心情的に断絶していても平気な様子で仕事に向かっているロリーに怒りを覚えている状態でした。
著者としても顕著な例として記憶に留めている夫婦の例ですが、程度の差はあれど私たちの周りの人間関係でも多かれ少なかれ、同じような状態は起こっています。
パートナーの好きなもの、嫌いなもの、恐れているもの、悩み事、大切な思い出、将来の夢、信頼できる相談相手、愛情表現の仕方……そういったものを、私たちはどれだけ把握できているでしょうか?
詳細な愛情地図を持っていない場合、夫婦にとって大きな人生の転機である子どもの誕生、転職、病気、退職といった出来事が、夫婦間に大きな溝を作りかねません。
以下、本書中では愛情地図についての質問に始まり、私たちがパートナーに対して知っていること、知らないことを調査していく問いが200問以上、加えて実践ワークが準備されています。
もし、本書をお手に取られた際は、ぜひパートナーと実践してみてください。
終わりに
私自身、結婚して5年目を迎えている1人ですが、パートナーに薦められたことで改めて本書を読み返すこととなりました。
私たち夫婦の結婚生活はその幕開けから波乱があり、私とパートナーの二者間だけでなく、両家の家族関係も巻き込んだ危機や変化も多々ありました。
私のパートナーは誰より誠実に私に向き合ってくれる人です。そして、1人の人間としても、仕事上のパートナーとしても尊敬している女性でもあります。
彼女との対話は、非公式かつプライベートな領域で、NVC(非暴力コミュニケーション)、プロセスワーク、ホラクラシー、システム思考、ソース原理(Source Principle)など、ありとあらゆる方法論を用いて行われました。
私たち自身がそれらの実践者・体現者として降りかかる困難や難しい課題に立ち向かい、そして活用することで、それらの方法論が複雑な課題を解決するために有効なアプローチであることを証明してきました。
そして、諸々が落ち着いた現在は、パートナー共々、「今が一番、仲が良いよね」と言い合えるようになりました。
これからは、私たち2人として幸せに向かっていき、後に続く世代が羨み、希望を持てるような楽しい人生を歩んでいきたいと日々、話をしています。
そのようなタイミングで、こうしてふと手に取ることができ、読み返すことができたのはありがたいことでした。
また改めて本書の内容も振り返りつつ、その内容も今後のパートナーシップに活かしていければと思います。
さらなる探求のための参考リンク
ゲーリー・チャップマン『愛を伝える5つの方法』
「愛を表現する」と一言にいっても大きく5つの異なるタイプが存在し、人によって特に嬉しいと感じる表現・そう感じない表現がある、ということを紹介してくれている書籍です。
『人と組織の進化を加速させる システム・インスパイアード・リーダーシップ』
組織と関係性のためのシステムコーチング®︎(ORSC®︎)の理論・実践に関する本邦初の邦訳書籍です。ゴットマン博士の「4つの危険要因」も「関係の四毒素」という表現で取り入れられています。
以前、本書を扱ったABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)という形式の読書会にも参加して学びを深めたこともありました。
【読書記録】モテるまちづくり:まちづくりに疲れた人へ。 (まち飯叢書)
今回、『結婚生活を成功させる七つの原則』の読書記録をまとめているときに不意に浮かんできた書籍の読書記録です。『モテる』とはどういうことか?をまちづくりの観点から紐解くおもしろい一冊です。
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