土中環境(水と空気、土、微生物たちの営み)の健全な循環から、杜を育てる
今回の記録は、地球守代表の高田宏臣さんの千葉のダーチャフィールドにて、土中環境の循環の健全化と、それによる杜の再生について学んだ時のものです。
「土中環境」と言うテーマについては、以前から学びと実践を深めている最中でした。実家で継いだ兼業米農家の日々から然り、仲間と共に進めている村づくり然り。
健康的に野菜や米が生育していく地中には、大小様々な存在が生きており、そこには空気と水、地下水脈が毛細血管のように張り巡らされ、地上と地下を結び、呼吸しています。
(他方、植物たちの生きるバランスが崩れて藪になってしまった環境、地下水脈が断絶し、巨木から順に枯れ、土壌が崩れていっている土地も全国各地で見受けられます)
また、野菜以外の樹木、植物もまた、高木から低木、草叢に至るまで深さ、長さ、広がりを異にする根のネットワークを張り巡らせ、そこに微細な菌類もまたネットワークを張り巡らせます。
これら多様にして多層的な繋がりが循環することで、地表と地下の環境が安定し、健全な生態系が保たれていくのです。
以前、屋久島を訪れた際は、このような知見を、山の山林、流域の源流、海岸間際の汽水域、そして海と言う流域のつながりと循環を学ぶ機会をいただくことができました。
今回は、そのような「土中環境」と言う捉え方を初めて提唱された高田さんの現場に仲間たちと足を運び、直接ご教授いただくことになりました。
講義編:「観察」の大切さと、先人たちの智慧
今回訪れた千葉のダーチャフィールドは、高田さんが3.11の震災以降に2000坪の土地を取得し、その環境への手入れと健全な循環づくりを行って来られた場所。
杉林であった土地から、やがてその土地に本来適応していた種の樹木が育っていくことを扶ける形で、杜に向き合っておられました。
『もりは、「杜」と言う字を使うんですね。土が大事ですから』
『まず、「観察」が大事。学問分野においても森や土に関する理解は細分化したり、断絶していたりもするが、現場に出て実際に見ることで、何が起こっているのかの繋がりが見えてくる』
おもむろに浄化槽の蓋を開けて、臭いやハエの発生についてお話しされる高田さん。
眺めて見ると、ほとんど臭いもなく、ハエも少ない。
このハエの発生も、どこかの土や水の流れの循環に滞りがあると増えるのだから、その滞りを見つけて行けば良い、とのこと。
また、森の中の通り道を行けば、「風の通り道も見えてくる」と高田さんは仰います。
『谷から吹き抜けてくる風の通り道は、ひんやりと冷たい。そして、その通り道は自然と草木が揺れて向こう側が見えたりといった形で、見えてくる』
『その風の通り道は、自然と蛇行しており、周囲の草木を揺らし、振動を伝える。そこは、動物たちが通る獣道にもなる』
『風がどうして生まれるかといえば、温度差によって。どう流れるかは、その通路の大きさや広さによって変わる。大きな道を開ければ風は弱く、小さく細い道を開ければ風は強く早く流れる』
『これからの時期、草も伸びてきますが、刈る時は鋸カマで手首のスナップを利かせるように、若い芽の部分を刈る。これは、自然の風によって切られていくプロセスと同じなんですね。そうすると、「あぁ、ここで伸びすぎてはいけないんだな」と草が学習していく。電動草刈機で切断というのは、植物が初めて地球に生まれてからの長い植物の歴史の中でつい最近の出来事なので、このような学習が働かないんですね』
一つひとつ、自然との関わりの中で得られた学びを教授いただきましたが、高田さんからすれば、それらはすべて先人たちの知恵だったと仰います。
『ここは、駐車場にしようとワークショップ形式で広げた場所なんですが、石を置くと、その土地は沈んでしまうんじゃないか?って思われるでしょ?』
『古来の石畳の知恵は、石を水平に噛み合わせることで盤面を作り、それによって横に力を分散させる形で地面に置いていました。そうすると、重い石が垂直方向に力をかけることなく、石のかみ合わせの隙間を空気や水も循環する。ここも、そのようにしています。現在の建築等では使われなかったり、失われつつある技も、昔の人はよく知っていたんですよね』
このように、2000坪の土地をめぐりながら、10メートル歩くごとに様々な叡智が高田さんから伝えられました。
実践編:樹木の苗をケアし、杜へ育てる
すっかり講義だけで満足してしまいそうなくらい、濃密な学びがありましたが、今回は実践として樹木の苗のお手入れを行うことになりました。
まず、高田さんは手近な苗を取り出します。
『これは、買い付けた苗なんですが、今、自分がどこにいるのかわかっていません。植え付けても、環境に適応していけないでしょう。彼らには、目覚めてもらう必要があります』
『見てください。健康的な苗であれば、菌糸を張っているものですが、これにはありません。他の幼木や苗もそうですが、ポットの底には分解されつつある落ち葉、落ち葉堆肥、炭等を入れて空気の循環を良くし、微生物にも働いてもらいやすくしていきます。』
『ポットにも穴を開けて、空気の循環をしやすくします。そんなことして、土が渇いちゃうんじゃないか、と言われる方もいますが、健康的なポットであれば、穴から水分を取り込み、水をやらなくても健康に居続けることもできます』
『これらのポットもワークショップ形式でやっていただいたものですが、植える方によってポット内のバランスが変わり、藪化しているものもありますね。主役は、20-30メートルに育つ高木の苗なのですが、それらが他の草木に成長が負けていたりしますね』
『手入れとなると、まずは主木以外の草木を短く取って、ポット内に落ち葉や堆肥、炭を入れていきましょう』
この時。自分にとっては、近い未来の出来事を扱っているような不思議な時間でした。自分の生まれ育った故郷の鎮守の森をもとに、森を育てていきたいと願っていたわけですから、直接的な学びとなったわけです。
朝から昼過ぎ程度の本当に短い時間でしたが、咀嚼し切れないくらいの多くの学びを得ることができたように思います。
帰り際、手入れをした苗木のポットをひとつ預かることになり、ますますこの先の森づくり(杜づくり)が楽しみになるような、そんな時間となりました。
今回の時間を実現してくださった、高田さんはじめ地球守の皆さんと、「JUNKAN」というキーワードで繋がった仲間に感謝申し上げたいです。
ありがとうございました🌱
※2022年8月追記。
後日、この高田さんのフィールドにて、二回目の土中環境再生の体験をすることができました。
その際の記録は以下の記事に残しています。