ゼロから始める伊賀の米づくり39:冬の夜明けの散歩風景
前回の記録は、稲刈りを終えてから行う必要があった秋起こしの際のものでした。
稲刈りを終えてからも土の中の栄養を稲の切り株は吸い上げ続け、成長しようとします。
そんな稲の切り株……蘖(ひこばえ)をトラクターで耕して土に還し、地中での有機物の分解を促すことで次のシーズンの土の肥やしにする。それが、秋起こしでした。
そんな秋起こしからしばらくし、正月休みに入ると田んぼの様子も冬の様相を呈してきます。
私の田んぼのある三重県伊賀市は盆地であり、昼夜の寒暖差の大きな地域です。
そのため、冬の冷え込みを強く感じ、明け方頃には水道管が凍りつき、田んぼには霜が降りている様子が見られます。
この肌を引き締めるような寒さの中、散歩に出かけるのが私の冬の楽しみです。
朝、6時半頃に目を覚ますと、まだ日が上りきらず山の向こうに隠れています。
田んぼに目をやると、澄み切った空の下、霜が降りて白く染まっていました。
ここから歩いていくと、鎮守の杜の前にある、もうひとつの我が家の田んぼも見えてきます。
朝の日差しはどこか赤〜オレンジがかった色彩を持ち、霜で白い化粧を纏った田んぼを明るい色彩に染め上げます。
霜の降りるような寒い朝は、大抵雲の少ない晴れの天気。
鎮守の杜の向こうに見える空の青も鮮やかに見えます。
ここから、神社へとお参りします。山道脇の畦道も霜によって白く染まり、神々しい雰囲気を称えています。
神社に向かって参道を歩き、お参りを済ませると太陽が山の向こうから顔を出したようでした。
日の温かさを一気に感じるようになります。
黄色がかった日の光が明るく照らし、「さぁ、夜は終わりだ」と言わんばかりに空気を温めていきます。
さて、ここから家へと歩いて帰ります。
明るい日差しによって生まれた田んぼの凹凸の陰は、濃い青色のような色彩を景色に加えてくれています。
このようにわずか数分でまったく変わる景色を眺めていると、一瞬一瞬がとても尊い瞬間のように思えてきます。
家へ向かって東向きに歩くと、淡雲に遮られた太陽が出迎えてくれました。
陰の生み出す田んぼの土の凹凸のコントラストもくっきりして、土の一粒一粒が太陽に照らし出され、夜の終わった明るい朝の世界に現れてきているようです。
田んぼは一年を通して姿を変えていきますが、冬の朝というこのわずかな瞬間であってもこのようにまったく違った姿を見せてくれます。
この一瞬一瞬の一期一会の景色との出会いもまた、自然と共にある生活や農のある暮らしの醍醐味ではないかな、と感じます。