人との関係性の中で体験するインナーゲームとアウターゲームとは?〜『共に変容するファシリテーション』ABD読書会体験記〜
今回は、2023年に出版されたアダム・カヘン『共に変容するファシリテーション(原題:Facilitationg breakthrough)』をオンライン読書会で読み解いた際の気づきや学びをまとめているものです。
以下、私が今回の読書会に参加するに至った経緯と、読書会にて本書を読み、対話した上での気づき・学びを書いていきたいと思います。
アダム・カヘン氏とは?
アダム・カヘン氏(Adam Kahane)は現在、人々が最も重要かつ困難な問題に対して共に前に進むことを支援する国際的な社会的企業であるレオス・パートナーズのディレクターを務められています。
レオスは、互いに理解、同意、信頼がない関係者の間でも、最も困難な課題に対して前進できるようなプロセスを設計・ファシリテーションを実施し、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカ、オーストラリアなどでセクター横断的な対話と行動のプロセスの支援を実践されています。
カナダ・モントリオール出身、ミドルネームをモーセ(Moses)というアダム・カヘン氏は、1990年代初頭にロイヤル・ダッチ・シェル社の社会・政治・経済・技術に関するシナリオチームの代表を務め、その頃に南アフリカの民族和解を推進するシナリオ・プロジェクトに参画しました。
以降、これまでに世界50カ国以上において企業、政府、市民社会のリーダーが協力して困難な課題に取り組むプロセスを整え、設計、ファシリテーションを行なってきた第一人者です。
1993年、後にU理論(Theory U)、Uプロセスを発見することになるジョセフ・ジャウォースキー氏(Joseph Jaworski)、オットー・シャーマー氏(C.Otto Scharmer)らとジェネロン社での協働が始まった他、
学習する組織(Leraning Organizations)で有名なピーター・センゲ氏(Peter Senge)の立ち上げたSoL(Society for Organizational Learning)として登壇するなど、現在の組織開発における様々なキーパーソンとのコラボレーションを行なってきた人物でもあります。
今年、2023年3月にアダム・カヘン氏の来日も決まっていますが、直接ご本人からメッセージをいただけたのは嬉しかったですね。
SoL(Society for Organizational Learning)とは?
SoL(Society for Organizational Learning)は1997年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の組織学習センター(Center for Organizational Learning)の取り組みを受け継ぐ形でピーター・センゲ氏によって設立されました。
SoL(Society for Organizational Learning)は現在、世界中で活動している地域コミュニティを取りまとめるグローバル組織として存在しており、日本にもコミュニティであるSoLジャパンが活動を継続しています。
SoLジャパンはSoL(Society for Organizational Learning)に認定された地域コミュニティの1つであり、「学習する組織」の原理、わざ、および実践の普及促進と、その実践に務める学習者のネットワークづくりを行なっています。
アダム・カヘン氏と私の出会い
アダム・カヘン氏は今の私を形成する上でのキーパーソンの1人です。
まだファシリテーションというものに出会って間もない2013年。友人の1人が『手ごわい問題は対話で解決する(原題:Solving tough ploblems)』という書籍を紹介してくれたことが、アダム・カヘン氏とのご縁の始まりです。
『本当に、タフな問題を「対話」で解決できるの?』と紹介してくれた友人は語っていましたが、そこに書かれていたカヘン氏の事例やプロセスは衝撃的なものばかりでした。
また、2014年にはアダム・カヘン氏3冊目の著書となる『社会変革のシナリオ・プランニング(原題:Transformative Scenario Pranning)』が出版され、その際に東京で開催された出版記念ワークショップの会場で初めてお目にかかりました。
後に、私が京都を拠点とするhome's viに所属してからも、メンバー同士や組織を超えた研究会などで何度も話題に出ては、意識し続けてきた存在です。
私自身、最近は4冊目である『敵とのコラボレーション(原題:Collaborating with the Enemy)』を読み返しながら、対話と協働が最善の手段ではなく、数ある人との関わり方の1つであるという認識と理解を深めていたところでした。
そのような背景もあった中で、今回のオンライン読書会が開催となりました。
ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)とは?
今回の読書会は、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎という読書会運営方法で行いました。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®️(以下、ABD)は、有志の研究会がこれまでの読書会の限界や難しさを検討し、能動的な学びが生まれる読書法として探求・体系化したメソッドであり、ワークショップの1手法とも言えます。
ABDの開発者である竹ノ内壮太郎さんは、以下のような紹介をしてくれています。
2017年、その実施方法についてのマニュアルの無料配布が始まって以来、企業内での研修・勉強会、大学でのゼミ活動、中学・高校での総合学習、そして有志の読書会など全国各地で、様々な形で実践されるようになりました。
ABDの進め方や詳細については、以下のまとめもご覧ください。
今回のABDのプログラム構成
さて、上記のようなとても長い前置きや背景を踏まえて、今回参加させていただいたのは、ABD読書会の手法の開発者・竹ノ内壮太郎さんと運営チーム主催の『オンラインABD読書会 アダム・カヘン新著『共に変容するファシリテーション』をABDで読んでみよう』という会でした。
事前準備として、本書の購入と担当部分のまとめをオンライン上のホワイトボードであるJamボードに入力しておき、2時間半の時間をよりグループでの対話のためにゆったり取れる構成です。
以下、今回の参加で特におもしろかったプログラム構成と対話の内容についてまとめていきたいと思います。
ピースメイキングサークル(Peacemaking Circle)
今回のABDのプログラム構成でおもしろい、ユニークだなと感じたポイントのひとつ目は、ピースメイキングサークル(Peacemaking Circle)という対話のプロセスを応用している点でした。
ピースメイキングサークルとは、1970年代、カナダ人判事のバリー・スチュアート氏(Barry Stuart)とファースト・ネイション(先住民族)の男性ハロルド・ゲイテンスビー氏(Harold Gatensby)の出会いによって生まれた対話の進め方の一つです。
円になって座り、コミュニティの癒しやより広い関係性とのつながりへと変容を促すこのプログラムは、一人ひとりが自分の体験/経験を物語り、深く耳を傾けあうことにより、自己理解、他者理解が進み、 チームやグループでは、親密感が高まり、強い共同意識が生まれます。
今回のABDでは、擬似的な焚き火もオンライン上で準備されていました。
この、ピースメイキングサークルにおいてはサークルキーパー(ファシリテーター)が問いや、グループで話したいテーマなどを投げかけ、トーキングピースと呼ばれる話し手の目印を持った人が、自身の内面から浮かんできたことを話していきます。
トーキングピースを持たない人がじっくり話し手の語りに耳を傾け、話し手は「話しきれた」「次の人へ話してもらおう」と感じたときにトーキングピースを渡し、順番に回していきながら対話を進めていきます。
今回はオンライン上だったため、直接トーキングピースをバトンのように隣の人から受け取ることはできませんでしたが、徐々にグループ内で話す順番が安定し、互いの話を自身の中に共鳴させ始めると、対話も一気に深まっていったような感覚を感じました。
ピースメイキングサークルについては、以下に詳しいまとめを書いてみましたので、よろしければ参考までにご覧ください。
ワールド・カフェ(World Cafe)
今回のプログラム構成でユニークだな、おもしろいな、と感じていたもう1つは、ワールドカフェ(World Cafe)という対話のプロセスも応用されていたことです。
ワールド・カフェは1995年、アニータ・ブラウン氏(Juanita Brown)とデイビッド・アイザックス(David Isaacs)氏によって、1995年に開発・提唱された対話のプロセスです。
堅苦しい会議よりも、コーヒー片手に雑談がてら話した方が対話は盛り上がる!盛り上がったついでに、テーブルクロスに対話で話されたアイデアをメモしてしまおう!
そんな2人の経験から生み出され、体系化された対話プロセスです。
オーソドックスな方法は、グループごとの対話を時間を区切って3ラウンド行う方法です。
1ラウンド目が終わった時、同じグループのメンバーはある1名を残し、別のグループへと旅立ち、また違った人と次のラウンドをご一緒します。
リアルの会場であれば、開発者2人が使ったテーブルクロスに見立てた模造紙をテーブルの中心に置き、対話の中で生まれる気づきを書き留める等します。
そして、最後の3ラウンド目に1ラウンド目と同じグループに戻ってくると、別のグループで話されていた内容が、1つのグループに持ち寄られることになります。
テーブルには対話の中で書き込まれた模造紙も残っており、より豊かな対話の時間を作ることができる、というものです。
詳しくは、以下のまとめもご覧ください。
今回のABDは、あらかじめ担当部分の読書のまとめを作成しておくことにより、より対話の時間を増やすことができました。
もしかしたら、その余裕ができた時間をワールドカフェに当てることができたのかな?などと想像します。
ABDはひとつ決まったフォーマットがありつつも、やり方によってはさまざまなワークショップと組み合わせることができる、という可能性を改めて感じることができました。
対話での気づき・発見
ファシリテーターと場の参加者のインナーゲーム/アウターゲーム
今回のABDにおいて、私の最大の関心時はファシリテーターと場の参加者の相互作用が起こす、インナーゲームとアウターゲームについてでした。
インナーゲームとアウターゲームについて、私はこんなふうに話を始めました。
そのような投げかけから、場に参加されていた皆さんのさまざまな話を聴くことができました。
また、その中で場が大きく動く瞬間というものも感じることができました。
思わず相手の話に耳を澄ませているうちにリアクションが大きくなったり、笑顔が増えたり、表情が動いたり。
当初よりも緊張が解け、より踏み込んだ自分の話もしてみようかな、という方も現れてきたり。
このような時間を過ごせたのも、上記のピースメイキングサークルやワールドカフェなどの対話の方法も組み合わせつつ、じっくりと参加者お一人お一人の語りを聴くことができたからじゃなかろうか。
そんな風に感じます。
私個人としては、結果的にとても楽しい時間を過ごすことができました。
ただ、ここまで学びをまとめてきた中で感じることは、より皆さんとの対話を深めていきたい、そして、可能であれば協働(コラボレーション)していきたい、という衝動です。
私はこれまで、ファシリテーターという生業を営んできたわけですが、ファシリテーターが完全に中立で場に影響しない、ということが難しいということを経験してきました。
なぜなら、ファシリテーターもまたそれぞれの経験によって形作られてきた個性があり、言葉がけや表情の作り方、チームやグループへの関わり方などどれだけ中立であろうとしても、その人らしさが発揮されるためです。
ただ、これからの私は自分の意識的・無意識的に発してしまう影響力も含めて、共感できたり、場を共にすることでエネルギーが上がる人たちとコラボレーションしていきたいという熱量が強くなってきています。
限られた人生であるならば、自分の大切にしたい価値観を共有できたり、時にすれ違ったとしても本気で向き合える人たちと人生を歩んでいきたい。(24時間365日常に行動を共にしようではなく、最も互いが気持ちよく想像的になれる関係を紡いでいきたい、そのような関係性やシステムを共に作っていきたい、というニュアンスです)
ある読書会の振り返りを行っているうちに、思いもよらぬ自分の中のパッションが溢れてきました。
これは、次回以降のABDで皆さんとご一緒できるのが楽しみですし、それ以外の場でも良いきっかけがあればお話ししていけると嬉しいです。
次回、3/25(土)に開催予定
さて、3回シリーズのABD読書会シリーズですが、次回は3/25(土)という約1ヶ月後に開催予定ですね。
リンクをこちらで用意しておきます🌱
最後に、本書の著者であるアダム・カヘン氏が来月に来日予定ですので、以下にその予定をまとめておこうと思います。
2023年3月、著者来日イベント一覧
出版記念読者プレゼント企画:アダム・カヘン講演「共に変容するファシリテーション」(オンライン視聴)
3月10日(金)19:10-20:40
アダム・カヘン基調講演:「共に変容するファシリテーション」
(Zoomで英語チャンネルまたは日本語チャンネルを選択いただきます)
質疑応答
(視聴はできますが、質問できるのは2日間のセミナー申込者のみで、現地参加者を優先させていただきます)
【残席わずか】アダム・カヘン氏招聘特別セミナー「共に変容するファシリテーション」
3月10日(金)19:00-20:45
第一部 講演編:「共に変容するファシリテーション」
3月11日(土)9:30-17:30
第二部 ワークショップ編:「共に変容するファシリテーション」(集合形式)
アダム・カヘン氏特別講演イベント「コラボレーションをみつめ直す:いかに違いを超えて、システムを変容するか?」
3月12日(日)13:30-16:30
第一部 アダム・カヘン氏講演
「システム変容のためのラディカルなコラボレーション:愛と力と正義をもって共に取り組む」
第二部 対話セッション
「日本でのコラボレーション実践: チャレンジと可能性」
サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱