見出し画像

イタリア(南部)-古き良きイタリアを求めて


1.南イタリアへの誘い

イタリアと言えば、多くの人がローマ、フィレンツェ、ベネチアを思い浮かべるだろう。しかし、私たち夫婦が選んだのは、あえての南イタリア。その理由は、一枚の写真との出会いだった。

昨年の秋、雑誌で目にしたマテーラの夜景。丘の斜面に無数の明かりが瞬く様子は、まるで天空に浮かぶ街のようだった。「これは本当にイタリアなの?」夫と私は、その不思議な光景に魅了された。

マテーラは、紀元前から人が住み続けている洞窟住居群「サッシ」で知られる街だ。2019年にはヨーロッパ文化首都に選ばれ、近年注目を集めているものの、まだ日本人観光客は少ない。

他にも世界最古のピッツェリアがあるナポリ、白壁の街アルベロベッロ、青の洞窟で有名なアマルフィ海岸。どれも一度は行ってみたいと思っていた場所だ。

「せっかくだから、南イタリアをじっくり巡ってみない?」
夫の提案に、私も即座に同意した。

私たちの旅は、ナポリ国際空港に降り立つところから始まる。

2.Day 1:ナポリ到着 ~下町の喧騒と本場のピッツァ~

ナポリ国際空港に降り立った瞬間、活気あふれる南イタリアの空気が私たちを包み込んだ。タクシー乗り場では、運転手たちが大声で冗談を飛ばし合い、まるで映画のワンシーンのような光景が広がっていた。

「チャーオ!ホテルまでお願いします」
私たちが乗り込んだタクシーの運転手は、アントニオという陽気な中年男性。「日本人?寿司が大好きだよ!」と、片言の英語で話しかけてきた。

【宿泊先】
グランド・ホテル・ベスビオ (Grand Hotel Vesuvio)
https://www.vesuvio.it/
ナポリ湾を一望できる老舗5つ星ホテル。19世紀末に建てられた建物は、クラシカルな雰囲気を漂わせている。

ひとことメモ:窓からのナポリ湾とヴェスヴィオ火山の眺めは圧巻。朝日に輝く海を眺めながらの朝食は格別。

荷物を置いて早速、スパッカナポリへ。ここはナポリの旧市街を東西に貫く目抜き通りで、UNESCO世界遺産に登録されている。細い路地には、衣類が干された物干し竿が張り巡らされ、路上では商人たちが威勢の良い声で商品を売り込んでいる。

「これぞナポリ!」という喧騒の中を歩いていると、ふと懐かしい香りが漂ってきた。

【レストラン】
L'Antica Pizzeria da Michele
住所:Via Cesare Sersale, 1, 80139 Napoli NA
https://www.damichele.net/
1870年創業の老舗ピッツェリア。映画「食べて、祈って、恋をして」の撮影場所としても有名。
おすすめメニュー:
・マルゲリータ(トマト、モッツァレラ、バジル)
・マリナーラ(トマト、オレガノ、ニンニク)

ひとことメモ:メニューはこの2種類のみ。薄い生地に最高の素材を使った究極のシンプルさが魅力。

1時間待ちは覚悟の上だったが、目の前で焼き上がるピッツァを見ているだけでも楽しい。石窯から取り出されたばかりのマルゲリータは、生地の縁が炭化して香ばしく、中心部はモチモチ。トマトの酸味とモッツァレラの塩味、バジルの香りが完璧なハーモニーを奏でている。

夕暮れ時、サンタ・ルチア港まで散歩に出た。ヴェスヴィオ火山を背景に、漁船が静かに揺れている。港沿いのバールでアペリティーボ(食前酒)を楽しみながら、明日からの旅への期待を膨らませた。

「ナポリに来て良かったね」
夫の言葉に、心からの同意を示しながら、私はグラスのプロセッコを傾けた。

3.Day 2:世界遺産ポンペイと アマルフィ海岸

朝もやの中、ポンペイ遺跡に到着。開門と同時に入場することで、観光客で溢れる前の静寂な遺跡を楽しめる。

「おはよう、良い朝ですね」
現地ガイドのマリアが温かく迎えてくれた。彼女は考古学を専攻した知識豊富なガイドで、2時間のツアーを予約していた。

西暦79年、ヴェスヴィオ火山の噴火で一瞬にして埋もれた古代都市。石畳の道路、フレスコ画の残る邸宅、公衆浴場、パン屋の窯まで、当時の暮らしがそのまま残されている。特に印象的だったのは、火山灰に埋もれた人々の石膏像。2000年の時を超えて、その瞬間の恐怖と絶望が生々しく伝わってきた。

「この遺跡から、現代人である私たちも多くを学べるはずです」
マリアの言葉が心に響いた。

【レストラン:ポンペイ】
Presidente
住所:Via Sacra, 48, 80045 Pompei NA
遺跡近くの地元密着型リストランテ。
おすすめメニュー:
・パスタ・アッラ・ジェノベーゼ(地元特製ミートソース)
・ワイン:ラクリマ・クリスティ(ヴェスヴィオ産)

ひとことメモ:地元産の食材にこだわった料理の数々。ワインとの相性抜群。

午後からは、運転手のマルコと共にアマルフィ海岸へ。切り立った崖に沿って走る海岸線は、世界一美しいドライブコースと称される。

「あそこを見て!」
夫の声に目を向けると、青い海に白い建物が階段状に連なるポジターノの町並みが目に飛び込んできた。

【宿泊先】
Le Sirenuse
https://sirenuse.it/
ポジターノの高台に位置する18世紀の邸宅をホテルに改装。

ひとことメモ:インフィニティプールからの夕陽と海の眺めは忘れられない。朝食のレモンケーキは絶品。

【レストラン:ポジターノ】
La Sponda
住所:Le Sirenuse内
ミシュラン1つ星。テラス席からアマルフィ海岸を一望できる。
おすすめメニュー:
・スカンピのカルパッチョ
・レモンリゾット

ひとことメモ:400本のキャンドルに照らされた幻想的な空間で、地中海料理を堪能。

夕暮れ時、ホテルのテラスでアペリティーボを楽しんでいると、教会の鐘の音が響いてきた。オレンジ色に染まる空と青い海、白い建物のコントラストは、まさに絵画のよう。

「明日はマテーラね」
この旅の目的地へ向かう期待に、夫婦で乾杯した。

4.Day 3:マテーラ探訪 ~洞窟住居の街~

夜明け前、私たちはマテーラに到着した。まだ街灯の灯る石造りの街並みは、昨夜見た写真そのままの神秘的な姿だった。

「ベンベヌーティ!(ようこそ)」
現地ガイドのルチアーノが、温かな笑顔で出迎えてくれた。彼の祖父母は実際にサッシで暮らしていたという。

【宿泊先】
Sextantio Le Grotte della Civita
Le Grotte della Civita | Albergo diffuso in Matera | Official
9000年の歴史を持つ洞窟住居を改装したホテル。

ひとことメモ:蝋燭の明かりに照らされた石造りの空間は非日常的。朝食は地元の修道院で提供される。

「このホテル、すごすぎる...」
部屋に入った瞬間、夫が声を失った。天井高4メートルの洞窟空間に、最小限の家具だけを配置したミニマルな内装。近代的な設備を備えながらも、古代からの趣は損なわれていない。

朝食は、13世紀の岩窟教会を改装したレストランで。地元の羊乳チーズ、自家製ジャム、焼きたてのパンの香りが、石造りの空間に漂う。

「では、サッシを歩きましょう」
ルチアーノの案内で、迷路のような石段を下りていく。

【アクティビティ】
・サッシ・ディ・マテーラ ガイド付きウォーキングツアー
・伝統的なパン作り体験
・夕暮れ時のフォトツアー

ひとことメモ:ガイド予約は必須。英語ガイドは限られているので早めの予約を。

かつて「イタリアの恥」と呼ばれた貧困の象徴が、今では世界遺産に。無数の洞窟住居、岩窟教会、水路システムは、人類の知恵の結晶だった。

【レストラン】
Baccanti
住所:Via Sant'Angelo, 58/61, Matera
洞窟レストラン。地元の伝統料理を現代的にアレンジ。
おすすめメニュー:
・クラスポ(地元特製パン)
・オレキエッテ・コン・ラーペ(耳たぶ型パスタと菜の花)
・アリャニェッロ(子羊の煮込み)

夕暮れ時、サン・ピエトロ・カヴェオーソ教会の展望台へ。日が沈むにつれ、街に灯りが灯り始める。

ルチアーノが教えてくれた地元のバールで、食後酒のアマーロを楽しむ。店主のマリアおばあちゃんは、かつてサッシで暮らしていた頃の思い出を語ってくれた。

「貧しかったけど、みんな家族のように支え合って生きていたのよ」
その言葉に、人々の強さと温かさを感じた夜だった。

5.Day 4:アルベロベッロ ~トゥルッリの不思議な世界~

マテーラから2時間ほどのドライブで、私たちは童話の世界に迷い込んだような街に到着した。真っ白な円錐形の屋根を持つトゥルッリが、どこまでも続いている。

【宿泊先】
Trulli Holiday Resort
https://www.trulliholiday.com/
実際のトゥルッリを改装した宿泊施設。

ひとことメモ:石造りの建物は夏は涼しく冬は暖かい。屋根の上にある謎めいた印は、建築主の署名とも言われている。

「ボンジョルノ!私がジョヴァンナです」
現地在住30年の日本人ガイド・ジョヴァンナさんが、にこやかに出迎えてくれた。彼女との出会いは、この旅のハイライトの一つとなった。

「トゥルッリは、税金対策から生まれたんです」
ジョヴァンナさんの説明によると、これらの建物は石を積み上げただけで、モルタルを使用していない。税務調査が来た時に素早く解体できるよう、実に賢い工夫だったという。

午後は、近郊のワイナリーへ。プーリア州は、イタリア最大のワイン生産地だ。

【レストラン】
La Cantina
住所:Via Monte San Michele, 25, Alberobello
トゥルッリを改装したレストラン。
おすすめメニュー:
・ブラータチーズの前菜盛り合わせ
・カヴァテッリ・アル・ラグー(手打ちパスタの肉sauce)
・仔羊のアッロスト(ローズマリー風味)

ひとことメモ:プーリアワインと地元の食材を使った伝統料理の数々。テラス席からの眺めは格別。

夕暮れ時、町の最高地点に位置するベルベデーレ広場へ。夕日に照らされたトゥルッリの屋根が、まるで黄金色に輝いて見えた。

「ねぇ、私たち、ずっとここに住まない?」
夫の冗談めいた言葉に、半分本気で考えてしまう。それほど、この街の魅力に取り付かれていた。

夜は、宿泊しているトゥルッリのテラスで、昼間買い求めたワインとチーズで簡単な晩餐会。星空の下、白壁の建物が月明かりに照らされる様子は、まさに絵画のよう。

「明日で旅も終わりだね」
名残惜しさを感じながら、最後の夜を過ごした。

6.Day 5:バーリから帰途へ

朝靄の中、アドリア海に面した港町バーリに到着。アルベロベッロから1時間ほどのドライブだ。

「まずは朝市へ行きましょう」

朝市では、漁師たちが今朝獲れた魚介類を威勢よく売っている。特に印象的だったのは、生のタコを丁寧に叩いて柔らかくする光景。

「見て!」
夫が指さす先では、おばあちゃんたちが路上で手作りのオレキエッテを売っていた。小麦粉と水だけで作られる伝統的なパスタの技は、まさに職人技。

【レストラン】
Ristorante La Barca
住所:Largo Chiurlia, 12, Bari
Ristorante La Barca
新鮮な魚介類が自慢の老舗レストラン。
おすすめメニュー:
・生ウニのパスタ
・イカ墨のリゾット
・本日の鮮魚のグリル

ひとことメモ:最後の食事にふさわしい絶品シーフード。テラス席からの港の眺めも素晴らしい。

旧市街を歩けば、至る所で日常の営みが垣間見える。路上でトマトソースを作るおばあちゃん、洗濯物を干す主婦たち、路地で遊ぶ子供たち。

「これぞ本物のイタリアだね」
夫の言葉に深く頷く。観光地化された北部とは異なる、素朴で温かい空気が流れている。

サン・ニコラ大聖堂に立ち寄ると、ちょうどミサの時間だった。荘厳な雰囲気の中、地元の人々の祈りに混ざって、私たちも静かに目を閉じた。

最後の食事は、港を見下ろすレストランで。新鮮な魚介類と地元のワインに舌鼓を打ちながら、この5日間を振り返った。

「また来ようね」
夫の言葉に、心からの同意を示す。南イタリアは、私たちの心に深く刻まれる旅となった。

「アッリベデルチ!(また会いましょう)」
必ず戻って来ようと誓った帰り道だった。

7.旅を終えて

南イタリアでの5日間は、本物のイタリアと出会う旅だった。

南イタリアには、まだ失われていない大切なものがある。家族の絆、伝統を守る誇り、ゆっくりと流れる時間。観光化された北部とは異なる、素朴で力強い生活の息づかいを感じた。

マテーラの洞窟住居で過ごした夜は、特別な体験だった。数千年の歴史を持つ空間で眠りにつくことは、まるでタイムスリップしたかのよう。朝日に照らされる石造りの街並みは、今でも目に焼き付いている。

アルベロベッロのトゥルッリは、まさに絵本の世界だった。しかし、その可愛らしい外観の裏には、賢明な知恵が隠されている。南イタリアの人々は、厳しい環境の中でも、したたかに、そして誇り高く生きてきた。

食事も忘れられない。ナポリの究極にシンプルなピッツァ、アマルフィ海岸の新鮮な魚介類、プーリアの手打ちパスタ。どれも素材の味を活かした、飾らない料理だった。

観光客の少なさも、むしろ魅力だった。地元の人々の日常に溶け込むように旅ができる。それは、より深くイタリアを知る機会となった。

「また来よう」
それは、単なる挨拶ではない。心からの約束だ。

次回は、もっとゆっくりと滞在したい。朝市で食材を買い、地元の料理教室に通い、路地裏のバールで常連たちと談笑する。そんな「暮らすような旅」を夢見ている。

≪旅の基本情報≫

■入国・ビザ情報
・日本国籍の場合、90日以内の観光目的の渡航ではビザ不要
・パスポートの残存有効期間は入国時から3ヶ月以上必要
・入国時に滞在先情報の提示を求められる場合あり

■現地での移動手段
【列車】
・トレニタリア(イタリア国鉄)のウェブサイトで事前予約推奨
・主要都市間の高速列車は早期予約で割引料金あり
・駅の自動券売機は日本語対応可

■通貨・支払い
・通貨:ユーロ(EUR)
・クレジットカード:VISA、Mastercard広く使用可
・高級レストラン、ホテルではAMEXも可
・現金は1日あたり50-100ユーロ程度あると安心

■チップ
・レストラン:請求額の10-15%
・ホテルポーター:荷物1個につき1-2ユーロ
・タクシー:端数切り上げ程度
・ガイド:半日ツアーで10-15ユーロ程度

■気候と服装
・4-6月、9-10月がベストシーズン
・夏季は30度を超える日も
・教会訪問時は肌の露出を控えめに
・エアコンの効いた室内との温度差に注意

■予約について
・人気レストランは2-3ヶ月前から予約可能
・ミシュラン星付きレストランは3ヶ月前から予約必須
・美術館は事前予約でスムーズな入場可能

■治安・注意事項
・観光地での置き引き、スリに注意
・バッグは肩掛けではなくクロスボディを推奨
・貴重品は分散して持ち歩く

■必携アイテム
・変圧器(イタリアは230V/50Hz)
・モバイルWiFiまたはSIMカード
・歩きやすい靴(石畳や階段が多い)
・日焼け止め、折りたたみ傘

■現地でのマナー
・食事は基本20時以降
・昼休み(13-16時頃)は多くの店舗が閉店
・カフェではカウンターとテーブルで料金が異なる
・写真撮影は事前に確認

※この記事は筆者の主観に基づいて作成されています。旅行前に最新の情報を確認することをおすすめします。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集