「イタリア(北部)-静寂と美食が織りなすコモ湖とベネチアへの旅~」
1.旅のはじまり:憧れのコモ湖へ
イタリアは、想像以上に親切な人々に恵まれていた。ミラノ中央駅でプラットフォームを探していた時、荷物を持った私たちの様子を見かねた現地の女性が、自ら案内してくれたのだ。「コモは素晴らしいわよ」と、彼女は目を輝かせながら教えてくれた。
コモ駅に到着したのは、夕暮れ時だった。タクシーで向かった湖畔のホテルは、19世紀の貴族の邸宅を改装したブティックホテル。重厚な木製の扉を開けると、すぐに温かいウェルカムドリンクが供された。疲れた体に染み入るようなプロセッコの泡。窓の外では、夕日に染まったコモ湖が私たちを出迎えてくれた。
【宿泊先】
グランド・ホテル・トレメッツォ (Grand Hotel Tremezzo)
https://www.grandhoteltremezzo.com/
アール・ヌーボー様式の歴史的建造物を改装した5つ星ホテル。部屋からはコモ湖とベラージオの町並みを一望できる。
【レストラン】
La Terrazza
グランド・ホテル・トレメッツォ内
おすすめメニュー:
・リゾット・アル・ペルニーチェ(キジのリゾット)
・ペルチ・イン・カルピオーネ(コモ湖産白身魚のマリネ)
2.Day 1:コモ湖畔での贅沢な一日
朝もやの立ち込めるコモ湖。バルコニーに出ると、静寂に包まれた湖面が目の前に広がる。遠くにはアルプスの山々が朝日に輝き、その裾野には色とりどりのヴィラが点在している。
朝食は、テラスのレストランで。白いテーブルクロスの上に並ぶのは、焼きたてのフォカッチャ、地元の生ハム、チーズ、そして香り高いカプチーノ。「いい朝だね」夫が微笑む。普段は会話の少ない朝食だが、ここではゆっくりと時が流れ、自然と言葉が溢れ出る。
午前中は、ホテルが手配してくれた専用ボートでコモ湖クルーズへ。船長のジョバンニは、3代続く船乗りの家系だという。「あそこはジョージ・クルーニーのヴィラです」と教えてくれるが、それ以上に印象的なのは、彼が語る湖と共に生きる人々の物語だ。
【アクティビティ】
プライベートボートツアー(3時間)
予約:ホテルのコンシェルジュを通じて
おすすめポイント:
・有名人のヴィラ巡り
・地元船長による案内
・好きな場所で停泊可能
昼食は、湖畔の小さな町カデナッビアで。地元の人々で賑わうトラットリアを選んだ。
【レストラン】
Trattoria del Porto
住所:Via Regina, 26, 22010 Cadenabbia CO
おすすめメニュー:
・ミッソルティーニ(コモ湖の伝統的な塩漬け魚料理)
・リゾット・アイ・フンギ(ポルチーニ茸のリゾット)
午後は、ヴィラ・カルロッタの庭園散策。18世紀に建てられたこの邸宅は、イタリア式庭園の美しさで知られる。カメリアの花々が咲き誇る中、夫と手を繋いで歩く。時折吹く風が、レモンの木々のかすかな香りを運んでくる。
夜は、ミシュラン一つ星のレストランで特別なディナー。
【レストラン】
Grand Hotel Tremezzo
予約必須
Cena romantica e raffinata al ristorante "La Terrazza" sul lago di Como - Grand Hotel Tremezzo
おすすめメニュー:
・湖魚とサフランのリゾット
・仔牛のミラノ風カツレツ
部屋に戻る頃には、湖面に月明かりが揺れていた。バルコニーのデッキチェアに腰かけ、夫とグラスを傾ける。
3.Day 2:ベラージオの美しき迷宮
朝靄の中、水上タクシーでベラージオへ向かう。コモ湖の真ん中に位置するこの町は、「湖の真珠」と呼ばれる。波に揺られること20分。石畳の港町が、朝日に照らされて徐々に姿を現す。
【移動手段】
水上タクシー(ホテルより予約)
所要時間:約20分
最初の目的地は、世界遺産のヴィッラ・カルロッタ。開館と同時に入場することで、まだ観光客の少ない静かな庭園を独占できる。
【観光スポット】
ヴィッラ・カルロッタ
Home — Villa Carlotta, Lago di Como
石段を上がり、迷路のような路地に入り込む。両側には小さなブティックや工房が並ぶ。
昼食は、彼らお勧めの小さなオステリアへ。
【レストラン】
Osteria Senza Fretta
住所:Salita Serbelloni, 45
https://www.osteriasenzafretta.it/
おすすめメニュー:
・タリアテッレ・アル・ラグー(手打ちパスタの肉ソース)
・ペルシコ・アル・ブッロ(コモ湖産白身魚のバター焼き)
午後は、地元のマーケットで食材探し。チーズ職人から、熟成具合の違う数種類のチーズを試食させてもらう。「これは今が一番美味しい」と、ゴルゴンゾーラを勧められ、思わず購入。
夕暮れ時には、地元で人気のワインバーへ。
【バー】
Enoteca Cava Turacciolo
住所:Piazza San Giacomo
https://www.cavaturacciolo.it/
おすすめワイン:
・ヴァルテッリーナのネッビオーロ
・地元のスパークリング
テラスに座り、夕陽に染まる湖を眺めながらワインを楽しむ。隣のテーブルの地元カップルと意気投合し、おすすめのレストランや穴場スポットを教えてもらう。彼らの「明日はぜひここへ」という言葉に、翌日の予定を急遽変更することにした。
夜は、サルサメンタリアで購入したチーズとワインで簡単なディナー。ホテルのバルコニーで過ごす静かな時間。湖面に映る月と星空を眺めながら、夫と今日の発見について語り合う。
この日、私たちは観光客としてではなく、まるでベラージオの住人のように過ごすことができた。計画にない出会いが、旅をより豊かなものにしてくれた。
4.Day 3:水の都ベネチアへ
朝霧の立ち込めるコモ駅。6時30分発のミラノ行き列車に乗り込む。車窓から見える湖面に別れを告げながら、次の目的地ベネチアへの期待が膨らむ。
サンタ・ルチア駅に降り立つと、そこはもう別世界だった。大運河に浮かぶゴンドラ、色あせた建物の壁、狭い路地。まるで時が止まったような景色が広がる。
【宿泊先】
Palazzo Venart Luxury Hotel
住所:Santa Croce, 1961
https://www.palazzovenart.com/
大運河に面した16世紀の宮殿をホテルに改装
チェックイン後、コンシェルジュのマルコの案内で地元の老舗バーカロ(立ち飲み酒場)へ。
【レストラン】
Cantina Do Mori
創業1462年の老舗
住所:San Polo, 429
おすすめメニュー:
・バッカラマンテカート(干しタラのペースト)
・サルデーレ・イン・サオール(イワシのマリネ)
午後は、観光客の少ない路地裏散策へ。
その後、サン・マルコ広場近くの barへ。
【バー】
Terrazza Danieli
住所:Riva degli Schiavoni
Hotel Danieli | Venice | 5-Star Hotel | Restaurants & Bars
おすすめ:
・ベリーニ(桃のスパークリングカクテル)
・シーフードの前菜盛り合わせ
夜は、運河沿いの小さなレストランで。
【レストラン】
Antiche Carampane
住所:San Polo, 1911
https://www.antichecarampane.com/
おすすめメニュー:
・スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ(あさりのパスタ)
・ブランツィーノ・アル・フォルノ(スズキのオーブン焼き)
月明かりに照らされた運河を眺めながらの帰り道。観光客でごった返す昼間とは違う、静謐な水の都の表情に出会えた。
5.Day 4:ベネチアの芸術と美食
早朝のサン・マルコ広場は、驚くほど静かだ。鐘楼から響く鐘の音だけが、朝もやに包まれた広場に響く。夫と二人、カフェ・フローリアンでの朝食を楽しむ。1720年創業の老舗で、かつてヘミングウェイも通ったという。
【カフェ】
Caffè Florian
住所:Piazza San Marco, 57
https://www.caffeflorian.com/
おすすめメニュー:
・カプチーノと伝統的なペイストリー
・フローリアン特製ホットチョコレート
9時、サン・マルコ寺院の開門と同時に入場。金色のモザイクが朝日に輝く中、ガイドのマリアの解説を聞く。「この床のモザイクの模様、実は数学的な意味があるんです」。芸術と科学が融合した中世の叡智に、夫は特に興味を示していた。
【観光スポット】
サン・マルコ寺院&ドゥカーレ宮殿コンボチケット
予約:公式サイトにて事前予約推奨
https://www.venetoinside.com/
昼食は、リアルト市場近くの人気店で。
【レストラン】
All'Arco
住所:San Polo, 436
おすすめメニュー:
・フリット・ミスト(魚介のフライ盛り合わせ)
・トラモンティーニ(小さなサンドイッチ)
午後は水上バスでムラーノ島へ。ガラス工房を見学した後、偶然出会った職人のパオロに誘われ、普段は入れない工房の奥まで案内してもらえた。「これは特別だよ」と、吹きガラスの実演までしてくれる。
【アクティビティ】
Murano Glass Factory Tour
予約:ホテル経由で工房を指定して予約
夕方からは、地元の人々に人気のバーカロ巡り。
【バーカロ巡り】
各店で1-2品のチケッティとワインを楽しむのが正しい食べ方
Al Bottegon (Cantine del Vino già Schiavi)
All'Arco
Osteria alla Ciurma
夜は、憧れの名店で最後の夕食。
【レストラン】
Osteria alle Testiere
住所:Calle del Mondo Novo
Front Page - Osteria alle Testiere
おすすめメニュー:
・イカ墨のリゾット
・本日の魚料理
食後は、サン・マルコ広場でクラシック音楽の生演奏を聴きながら、最後の夜を過ごす。観光客も少なくなったこの時間、ようやくベネチアの本当の魅力が見えてくる。月明かりに照らされた運河と建物が作り出す影。その美しさに、私たちは言葉を失った。
6.まとめ:北イタリアで見つけたこと
静けさに包まれたコモ湖から、人々の息づかいを感じるベネチアまで。この5日間の旅は、私たち夫婦に思いがけない気づきをもたらしてくれた。
コモ湖での朝は、いつも静寂から始まった。普段は言葉少なな夫が、湖を眺めながら「こんな景色を見ていると、心が洗われるね」とポツリ。せわしない日常から離れ、ゆっくりと流れる時間の中で、私たちは自然と会話を重ねていた。
ベラージオでの偶然の出会いも、旅を彩る大切な思い出となった。計画にない出会いが、旅をより豊かなものにしてくれた。夫が「次はもっと長く滞在して、地元の人々との交流を深めたいね」と言ったのは、この町でのことだった。
ベネチアでは、観光客であふれる昼と、静寂に包まれる夜の対比が印象的だった。特に心に残っているのは、最後の夜。サン・マルコ広場で聴いたクラシック音楽の調べ。月明かりに照らされた運河と建物が織りなす景色を、夫と共に無言で見つめていた時間。その瞬間、私たちは言葉がなくても十分に通じ合えることを実感した。
次回は、マルコが教えてくれたピエモンテの小さな町へ行ってみたい。ワインと白トリュフの故郷を訪ね、また新しい発見の旅を。
旅は、目的地だけでなく、そこに至るまでの過程も含めて一つの物語となる。日常に戻っても、コモ湖の静けさとベネチアの路地裏で感じた感動は、きっと私たちの中で生き続けるだろう。
≪旅の基本情報≫
■入国・ビザ情報
・日本国籍の場合、90日以内の観光目的の渡航ではビザ不要
・パスポートの残存有効期間は入国時から3ヶ月以上必要
・入国時に滞在先情報の提示を求められる場合あり
■現地での移動手段
【列車】
・トレニタリア(イタリア国鉄)のウェブサイトで事前予約推奨
・主要都市間の高速列車は早期予約で割引料金あり
・駅の自動券売機は日本語対応可
【水上交通(ベネチア)】
・ヴァポレット(水上バス):1回7.5ユーロ
・24時間券:21ユーロ
・プライベート水上タクシー:1回80-120ユーロ程度
【その他】
・コモ湖周辺:水上タクシー、定期船、バスを併用
・タクシーは主要駅に待機
・Uber等の配車サービスは都市部のみ利用可
■通貨・支払い
・通貨:ユーロ(EUR)
・クレジットカード:VISA、Mastercard広く使用可
・高級レストラン、ホテルではAMEXも可
・現金は1日あたり50-100ユーロ程度あると安心
■チップ
・レストラン:請求額の10-15%
・ホテルポーター:荷物1個につき1-2ユーロ
・タクシー:端数切り上げ程度
・ガイド:半日ツアーで10-15ユーロ程度
■気候と服装
・4-6月、9-10月がベストシーズン
・夏季は30度を超える日も
・教会訪問時は肌の露出を控えめに
・エアコンの効いた室内との温度差に注意
■予約について
・人気レストランは2-3ヶ月前から予約可能
・ミシュラン星付きレストランは3ヶ月前から予約必須
・美術館は事前予約でスムーズな入場可能
■治安・注意事項
・観光地での置き引き、スリに注意
・バッグは肩掛けではなくクロスボディを推奨
・貴重品は分散して持ち歩く
・ベネチアは道が入り組むため、地図アプリを活用
■必携アイテム
・変圧器(イタリアは230V/50Hz)
・モバイルWiFiまたはSIMカード
・歩きやすい靴(石畳や階段が多い)
・日焼け止め、折りたたみ傘
■現地でのマナー
・食事は基本20時以降
・昼休み(13-16時頃)は多くの店舗が閉店
・カフェではカウンターとテーブルで料金が異なる
・写真撮影は事前に確認
※この記事は筆者の主観に基づいて作成されています。旅行前に最新の情報を確認することをおすすめします。