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昔 あけぼの シンデレラ 令和落窪物語 第五話 第二章(2)

 あらすじ
平安の時代に書かれた『落窪物語』は、我が国色のシンデレラ。
令和を生きる方々に、わかりやすく解説を加えながら、創作部分もふんだんにリライトしました。
貴族の姫として生まれながら、幼くして母を亡くしたおちくぼ姫は、父の邸に引き取られ、意地の悪い継母に虐げられる日々を送っておりました。
唯一の身内ともいうべき阿漕に好きな男性ができたのは、もちろんおちくぼ姫にもうれしいしらせです。しかし、このような時に祝いの品も贈ってあげられない姫は己を情けなく感じます。それでも心をこめた櫛の袋を縫い上げました。
 

 阿漕という名の娘(2)

蔵人の少将は権勢のある家柄なので、召し遣っている供の者までが気が利いた者ばかり。少将のお側近くに帯刀(たちわき)という若君のお守り役である惟成(これなり)という者がおりましたが、この若者が特に優れていて、女房たちには大変人気がありました。
佩刀する姿が凛々しく、人懐こい笑顔の好青年です。
しかし惟成の目に留まったのは、いつもはきはきとしてよく働く賢そうな美少女・阿漕でした。
惟成は熱烈に阿漕に求婚しました。
それはもう毎日毎日手紙が送られてきて、阿漕もその気取ることない素直な性格にいつしか惹かれてゆくようになったのです。
将来も有望そうで男ぶりのよい惟成が他の女房を袖にして言い寄ってくることに悪い気はしませんでしょう。
しかし阿漕は大切なお姫様をさしおいて自分が先に結婚するなんて考えてもみませんでしたので、なかなか色よい返事を与えませんでした。
「阿漕、私のことを嫌いならばもう潔く諦めるとするけれど、本当のところはどうなのだい?」
しびれを切らして迫る惟成に、ついいつもの元気な調子では答えられない阿漕なのです。
「そう言われても、お姫さまをさしおいて結婚するなんて・・・」
そうして主人に忠実な阿漕が顔を赤らめて困ったように首を傾げるのを可憐に思う惟成ですが、自分の一生を分かちたいと思う大切な女性ですので、ここで簡単には引き下がれません。
「お姫さまには父親の中納言さまがついているではないか。いずれよい縁を得て幸せになるだろう。私との未来を真剣に考えておくれ」
阿漕は惟成の心が嬉しかったので、自分が主人と思うおちくぼ姫のことを素直に打ち明けました。
「なんと中納言さまにもう一人お姫さまがいらしたとは」
「私はお姫さまと一緒にこの邸に引き取られたのよ。今は三の君付きの女房ということになってはいるけれど、私の主人はお可哀そうな姫さまただ一人よ」
惟成は一途で思いやりのある阿漕がますます好きになり、その日蔭の姫君のことも放っておけない気持ちになりました。
「たとえ結婚しても阿漕の何が変わることはないだろう?お前にとって大切な御方ならば俺にとっても大事な御方ということではないか」
そうまっすぐみつめる惟成の瞳に嘘偽りはなく、阿漕もこの青年に強く惹かれるのを抑えることはできませんでした。
その宵、阿漕はまず姫に相談してみようと落窪の間を訪れました。
「お姫さま、相談があるのですが・・・」
おちくぼ姫はいささか緊張した面持ちをしている阿漕に、おや、と首を傾けました。
「お姫さま。私、結婚を申し込まれまして、どうしたらよいかと」
「まぁ、どんな方なの?」
「蔵人の少将さまのお付きの帯刀で惟成という者です」
「そう」
「それはまぁ、顔は悪くないですし、少将さまの信頼も得ているようで、そこそこの人です」
頬を染めてしどろもどろの様子にその方を好いているのだと姫にはすぐにわかりました。
「おめでとう、阿漕。幸せになってちょうだい」
「でも、姫さまを差し置いて結婚などできませんわ」
「わたくしのことなど気にする必要はないわ。その方のことが好きなのでしょう?」
「それは、まぁ」
「阿漕が幸せになってくれれば、わたくしも幸せよ」
そうして姫は優しく手を握って阿漕の背中を押したのです。
おちくぼ姫も幸せな気持ちに満たされましたが、こんな時に祝いの品のひとつも贈ってあげられない身の上を情けなく感じます。
「ちょっと待っていておくれ」
姫は美しい綾の端切れを手に取ると、阿漕がいつも胸元に忍ばせている櫛を入れるのにちょうどよい袋を縫い上げました。
「阿漕、結婚おめでとう。わたくしにはこれくらいのものしかあなたに贈ってあげられないけれど、幸せになってほしいという気持ちは本当なのよ」
「姫さま、ありがとうございます。ずっと大切に使わせていただきますわ」
阿漕にはどんなに立派な蒔絵の道具や贅沢なものよりも、姫が阿漕の為に心をこめて縫い上げてくれたこの小さな袋の方が何倍も嬉しいのでした。
一生お側にお仕えいたします、と阿漕は改めて固く誓ったのでした。

そうして日柄のよい日に二人は夫婦の誓いを交わしました。
晴れて結婚した阿漕と惟成は似合いの仲の良い夫婦となり、夜になると毎晩中納言邸の阿漕の部屋に惟成が通って来ています。
結婚してみると、惟成は姫思いの優しい阿漕をさらに愛しく感じ、北の方に虐げられているという美しい姫君を気の毒に感じました。
「この櫛の袋はね、姫さまがお祝いに縫ってくださったのよ」
阿漕が秘密を打ち明けるようにうちとけて大事なものを見せてくれるのを惟成はこの上ない幸せと感じます。
「きれいな袋だなぁ。御心の優しいお姫さまなのだね」
「そりゃぁ、もう。それにこちらにいるどのお姫さまよりも美しくて、帝のお后になられてもおかしくないほどの気品のある御方なのよ。だから私はいつかお姫さまを素晴らしい公達に嫁がせて幸せにしてさしあげたいと思うの。あなたも協力してちょうだいよ」
「もちろん私にとっても大切なお姫様だからな、私にできることならなんでも請け負うよ」
ひたむきに姫を想う阿漕が可愛らしく、惟成も密かにおちくぼ姫の味方になっているのでした。






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