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昔 あけぼの シンデレラ 令和落窪物語 第二十三話 第七章(4)


あらすじ
平安の時代に書かれた『落窪物語』は、我が国色のシンデレラ。
令和を生きる方々に、わかりやすく解説を加えながら、創作部分もふんだんにリライトしました。
貴族の姫として生まれながら、幼くして母を亡くしたおちくぼ姫は、父の邸に引き取られ、意地の悪い継母に虐げられる日々を送っておりました。
継母の悪だくみによって暗い納屋に監禁された姫は、北の方がよこした典薬助という老人を欺くために病人のふりをします。
阿漕に励まされながら、必死にこの難局を切り抜けましたが、また次の宵も老人はやってくるでしょう。
 

 北の方の悪だくみ(4)

とうとうその日は暮れて、北の方はたくらみがあるので早々と夫を床に就かせ、邸の者たちも部屋に下がらせました。
月が昇った頃、花婿気取りの典薬助は納屋にやって来て鍵を開けました。
中は暗く、典薬助は持ち込んだ手燭で姫を探しました。
姫の方はなんとか見つからないようにと部屋の隅の暗がりで息を殺しておりましたが、そんな都合の良いことは起きないのです。
「お姫さま、今宵は晴れてわしらの結婚の夜ですぞ」
猫撫で声でそろそろと近づく老人が不気味で姫は具合が悪そうに臥せてしまいました。
「わたくしは何やら苦しくて、今はお話を伺えそうにありません」
姫はそう言うと泣きながら身を固くしました。
「はて、どこが苦しいのかね?」
このお爺さんは結構気の優しいところもあるので、姫を可哀そうに思い、背中をさすってあげていると、阿漕がやってきました。
「まぁ、今日は御忌日と申し上げたのにお入りになるなんて(怒」
口調の強い阿漕の抗議に典薬助もたじたじです。
「お姫さまの具合が悪いということで診てやろうとしてたんじゃないか、阿漕ちゃん」
「お姫さまはお加減が悪そうですわねぇ。無理もないですわ。この冬の時期にこんな所に押し込められて食事も与えられないんですもの。まずはお体を温めることが先決ではないでしょうか。温石(おんじゃく)をおあてになったらいかがでしょう」
温石とは、焼いた石を布にくるんだもので、現代ではカイロのようなものでしょうか。
これをお腹にあてれば痛みも和らぐのでは、と阿漕は提案したのです。
「わたくしは寒くて凍えそうですわ。温石があったらどんなにありがたいか」
姫も調子を合わせるので、典薬助はいそいそと石を焼くために台所へと向かいました。
これでしばし時が稼げるというものです。
「阿漕、どうしたらよいの?わたくしはあの人が側に来るだけでも気持ちが悪いわ。戸を開かないように細工しておくれ」
「お姫さま、それでは北の方を欺けません。お辛いでしょうがこのまま病人のふりをして典薬助をうまく騙しましょう。しかし北の方はなんと酷いことを考えつくのでしょうね」
泣き濡れる姫の手を握って阿漕も泣きそうでした。
「お可哀そうに。少将さまを信じて耐えるのです」
典薬助が戻ってくると、阿漕は側に居たい気持ちを堪えて言いました。
「私はもう下がりますが無体をなさると姫さまに嫌われますよ」
そう典薬助に釘をさして物陰から納屋を見張ったのです。
姫は生きた心地もしませんでしたが、確かに阿漕の言う通りすぐに少将が助けに来てくれるわけではありません。
病人らしく「ああ痛い、苦しい」と大げさに芝居をしました。
「どこが悪いものか。まぁ、わしが側についていてあげるので安心してお休みなさい」
典薬助はどたりと横になると姫を側に引き寄せました。
姫は何をされるのかと顔を青くしながらさらに身を固くして唸っております。
そのうちに老人はいびきをかいて眠ってしまいましたが、時折目を覚ますと姫はどうかと様子を伺うもので、その度に姫はまた「ああ痛い、苦しい」と繰り返し、一晩寝ずにようやく朝を迎えました。


阿漕はと言いますと、ずっと物陰に潜んでいて、一番鶏が鳴いた途端に納屋に入りました。
「さぁさぁ、鶏が鳴きました。お婿さまは帰られるお時間ですよ」
そう言って、さっさと典薬助を納屋から追い出してしまいました。
典薬助が怒って北の方に言いつけると厄介なので、帰り際にこっそりと耳打ちを忘れません。
「お姫さまはたいそう感謝されてましたわ、優しい婿君だって。頼りがいのある夫を持って心強く思われたようですわ」
これには典薬助は気を良くして飛び上がらんばかり。
阿漕は事なきを得てほっと胸を撫で下ろしましたが、今夜も典薬助はやって来るでしょう。まだまだ気は抜けず、今宵はどうしてだしぬこうかと頭を悩ませ始めました。

部屋に戻ると夫の惟成からの手紙とともに右近の少将が姫にあてた手紙も届いておりました。
まずはこの手紙を姫に差し上げたい、そう考えているところへ典薬助から姫にあてた後朝の文が届きました。

結婚もしていないのに後朝の文など可笑しいこと。
しかしこれは北の方の目を欺く絶好のチャンスです。この手紙を利用してやろうと、阿漕はすぐさま北の方の元へ走りました。






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