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昔 あけぼの シンデレラ 令和落窪物語 第三十四話 第十一章(2)


あらすじ
平安の時代に書かれた『落窪物語』は、我が国色のシンデレラ。
令和を生きる方々に、わかりやすく解説を加えながら、創作部分もふんだんにリライトしました。
貴族の姫として生まれながら、意地の悪い継母に虐げられる日々を送っていたおちくぼ姫はとうとう愛する夫に救い出され、新しい生活が始まりました。
中納言家が新しい邸を新築してみなで引っ越しをしようという頃、示し合せるように新中納言家でも引っ越し話が・・・。
この符号は偶然か、はたまた何者かの悪意によるものか。
おちくぼ姫は引っ越し先の邸に着いて、また言葉を失うのでした。

露見(ところあらわし)(2)

翌日藤中納言は庭をぐるりと眺めながら、何気ない顔で姫に言いました。
ちょっと綻んだ垣などをわざとらしくいじってみせます。
「この邸もちょっと修繕が必要になってきましたねぇ。我が家も引っ越しをしましょうか。でもそうなるとあなたが忙しくなるかな」
「わたくしのことは大丈夫ですけれど、どちらに引っ越しをなさるの?」
姫が愛らしく尋ねると、藤中納言は言いました。
「実はもう目星を付けているところがあってね。この際だから女房達の衣装も新調して、にぎにぎしく引っ越しをしようじゃありませんか。そうさなぁ、一月後というのはどうです?」
「では、そのように致しましょう」
姫は慎ましく承り、忙しくなりそうでしたので、父の源中納言のことは一端脇に置いておいて、引っ越しの準備を進めることにしました。

忙しい一か月は瞬く間に過ぎ、源中納言家が引っ越す日がやってきました。
奇しくも藤中納言家と同じ引っ越しの日取り。
なにやら偶然のような、そうでもないような・・・。

ともあれこちらは源中納言家。
大方の荷物はすでに三条邸に運び込んであるので、牛車を連ねて一家が引っ越すだけで済むのです。
今日のこの日を楽しみにしていた北の方と娘たちもすっかり支度をして牛車に乗り込もうというその時、家来の者たちが血相を変えて走ってきました。
「御方さま、大変でございます」
「何ごとです?騒々しい。めでたい日に水をさすようなことは慎みなさい」
北の方が大声で怒鳴ると、家来の者たちは息も切れ切れに話し始めました。
「三条邸を占領している輩がおりまして、どこの邸の者かと思ったら藤中納言家の家来たちで、人の持ち物である邸で何をしているのかと、無理やり追い出されてしまいました」
「何ですって?藤中納言が?」
北の方はわけもわからずに困惑しましたが、三条の邸が藤中納言のものであるはずがありません。
源中納言は呆然としましたが、このまま三条邸を取られてしまうわけにはいきません。藤中納言の父である右大臣に直談判して間をとりなしてもらおうと考えました。

右大臣は源中納言の訴えを聞いて、すぐに息子の藤中納言を呼んで事の真相を問いただしました。
「道頼、源中納言がかようかようと申し立てをしておるが、どうした次第なのだ?」
「父上、三条邸は私の妻の持ち物で、地券(土地の権利証)だって持っています。それをいきなり、家を建てたからよこせというのは無謀ではありませんか?」
そう涼しい顔で息子がいうので、右大臣もそれは尤もと納得してそれ以上何もいうことはありませんでした。
「これから引っ越しの宴を催すので私は失礼しますね」
そう言って藤中納言はなにくわぬ顔で三条邸に引き上げました。
これはあくまでも姫の存在を無視した実父と継母への意趣返しなのです。
娘の行く末を尋ねることもせずに、のうのうと伸ばす面の皮が憎くてこのような策を取ったのでした。
藤中納言にとっては、やはりいつまでも「おちくぼ」と見下げられた妻が不憫でならず、その人を愛し守る者がここにいるのだと知らしめたかったのです。

右大臣にまったく相手にしてもらえなかった源中納言は諦めるしかない、と具合が悪くなって床に臥せてしまいました。

一方二条邸では藤中納言家の牛車が整えられて、主一家をはじめ、美しく着飾った女房たちが楽しげに乗り込んでいきます。
そうして十両あまりの牛車を連ねてきらびやかに引っ越し先へ出発しました。
ゆるゆると行列は進み、お昼を過ぎる頃に目的地に着きました。
ここが新居ですよ、と夫に手を引かれて牛車から降りたおちくぼ姫は、はっと息を呑みました。
「殿、ここは三条邸ではありませんか」
庭には新しい石が敷き詰められて、緑も趣深く整えられていますが、見覚えのある三条邸に間違いありません。
邸は以前と比べると見違えるように立派になっていました。源中納言家が丹精込めて作り上げた邸を横取りするような形になってしまったわけです。
「なんということを・・・」
姫が言葉を失っていると、衛門は悪びれもせずに言いました。
「ここはお姫さまの持ち物ですよ。なんの遠慮がいりましょう」
と、うれしげに姫を邸内に誘います。
おちくぼ姫は両親たちがどのように思っているのかと考えると胸が苦しくなるばかりでした。


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