刺す
今でこそ、もう半世紀近く生きてきたから、いい加減、自分の感情をだいぶコントロールできるようになったけど(エネルギーの使いどころを考えないと体力に支障がでてしまうという現実もある)、ずっと学級委員に推されるくらいなので、妙な正義感が強くて、ついつい、刺してしまう。
社長へチクっと
無印良品でまだ2年とか3年の頃。アルバイトのスタッフがお兄さん・お姉さんだったりしてひよっこだったのを、どうにかハッタリをかまして「社員さん」の威厳を持てるようになった頃、または新任店長になったか、本部へ異動した頃か。
女子高生の絶大なる人気を得て右肩上がりだった無印。売上や店舗の数が増えるのと比例して、クレームもどんどん増えていた。商品の不良に関するものはもちろん、客層が広がると、接客に関する苦情も頻発して、会社としてもいよいよ取り組まざるを得ない状況で、店舗運営の改善と、販売スタッフの教育とにようやくメスを入れ始めた。
当初はマニュアル通りなんてダッセーと斜に構えていたわたし。
でも本質を知るにつれ、これはちゃんと取り組まないと、会社のこの先がまずいと思うようになった。わたしと同じように、マニュアルどおりのトレーニングなんてダッセーと思うひとは多かったけど、なんとなく、渋々取り組み始めた感じだった。商品はどんどん種類が増えて、知識も増やさなくてはならない、売れば売るだけ不良品の苦情も増える、アレしろ、コレしろの本部からの指令が連日山のようで、店舗スタッフの負担と鬱憤がたまるばかりの状況。
そんな頃、まだメディアに露出することがほとんどなくて、ようやく満を持して(?)テレビのビジネス系番組に社長が出ることになった。当時は珍しい機会だったので、しっかり視聴した。そこで、わたしのスイッチがON。積もった不満と一緒に「はぁ??」って。
同じ番組でインタビューを受けていた食品メーカーの社長は、消費者のことを「お客さま」と話していた。かたや、メーカー以上に直接消費者と接する小売業で、接客ならぬ「お客様応対」の改善と向上に絶賛取り組み中、の弊社の社長は「お客」を連呼していたのだ。「はぁぁ??」って(苦笑)
これはモノ申さねばならぬ、と誰に頼まれたでもなく、妙な正義感から、社長宛にメールを送ってしまった。
「現場のスタッフが一所懸命取り組んでいる最中、公共の場で“お客”の連呼とはいかがなものでしょうか?」
当時の社長は懐の大きい方で、そんなわたしを面白がってくださり、社内報にこの一件を取り上げてくださった。ほんと、生意気言ってすいませんでした!!!
調子に乗ったわたしは、シンプル・センスがいい商品としての位置づけの無印なので、そのイメージを壊さないために、いかにもおじさんサラリーマンの象徴なその大きな眼鏡を変えてほしいとも直訴した(大きなお世話よね)。社長も真面目に「オシャレなやつだと、見えねーんだよ」と返してこられたのだけど、せめて取材の時だけでも変えてほしいと言った。この方の素敵なところは、後日、「なかくき、眼鏡、これでどうだ?」と見せに来られたところ。ありがとうございました。
部長にチクっと
無印時代は会社全体が急成長の時代で、20代後半で課長職になった。
小売業は週末の売上が肝なので、当時は、週が明けた月曜に各部署の担当者が集められ、数字を見てあーだこーだ言う会議をしていた。月曜って、週末に起きたクレーム処理やら何やらもあって割と忙しい。その会議は役員も参加する結構なモノだったのだけど、ある時、キーパーソンである役員が時間になっても現れず、遅れてきたことがあった。その役員の到着前に、売上不振の理由や対策についての意見が既にある程度出揃っていたのだけど、遅れてきた彼は着席するなり、遅れたことには一切触れずに「で、どーなんだ?エリアマネージャーたちの意見はどーなんだ?」と始めやがったのだ。スイッチオン。
でもさすがにその頃のわたしは、その場で暴れるような幼さは抑えられるようになっていた。不毛な会議が終わって、席に着くと部長から呼び出し。(と言っても年代的にはそれほど変わらない方)
「さっきのあの態度はなんだ?」
部長席はフロアで割と見通しのいい場所で、定時は過ぎていたけど他部署含めそれなりの人がいた。でもそんなの関係ねー。
「XXさん(役員)、遅れてきて謝りもせず、しれーっと始めましたよね。参加者だって忙しい中時間を守っているのに。しかも、もう意見が出終わったことをもう1回しゃべらせることになって。改善するための会議ですよね?いろいろおかしくないですか?」
席に戻って、同僚はよく言ってくれた!とこっそり言ってくれたけど、遠巻きに見ていた他部署の人たちも何事かと思ったようだったけど、これはわたしの感情的なものがだいぶ占めていたので、「刺す」というよりは「キレる」の例で、公開喧嘩みたいに終わったダメな例(苦笑)
この部長とは在籍期間中の関わりが長くて、この方にも今思えば「ホント、すいませんでした!!!」なのだけど、言いたいことを言わせてくれる、という点ではありがたい存在だったと、今は(苦笑)、思う。
部下の店長のひとりの妊娠報告をした際に、
「妊娠は病気じゃありません!!!どうして応援できるように調整しようとしないんですか?」
と食ってかかったこともあったっけ。
「刺す」と「キレる」は違うよね。
ここまで記してみて、20代のわたしの怖いもの知らずさに、今更ながら背筋がヒヤッとする。そして、耳を傾けてくださる先輩・上司に恵まれたことに改めて感謝する。他部署のオジサンは「お、がらっぱちが来た!」と面白がってくださった。
クレームを受けて謝罪することも多かったので、キレるお客様・叱るお客様の数々を見てだいぶ我が身を振り返ることもでき、今は、ずいぶん穏やかになっていると自負している。
それでも、やっぱり思うのは、言い方や言葉を選ぶことを怠らなければ、言うべきことは言わないよりも、言った方がいいのだと。言わなければ、なかったことになる・気づかれもしないことになる場合があるのだから。
「キレる」と「刺す」の違いも自覚して実施なくちゃね、とも思う。
「キレる」ときやりがちなのが、「みんな」を持ち出すこと。ほんとにその「みんな」は「みんな」なのか?その正義は本当に正しいのか?
そして、あえて「刺す」と決めたときには「刺す」にふさわしい相手かどうかを見極めることも大事。相手によっては空振りになったり、返り討ちにあったりするからね。
最近刺したこと??いやいや、もうすっかり温厚なので、ホホホホ。
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