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エグチさんから盗んだこと

成田空港へ向かうリムジンバスの中。「この旅はわたしの人生の分岐点になる」そんな言葉が浮かんで、涙がこぼれた。まだ始まったばかりなのにびっくりした。 どうってことのないことばかり。でもとても大切な旅の記録。2016年1月のこと。

エグチさんはアラスカへ、オーロラを見るためにやって来た。
エグチさんはアラスカへ、全身モンクレールで来た。

エグチさんはアラスカでサーモンを爆買いした後、「小金持ちは小金持ち~」ご機嫌で歌う。

普段の服装は全身ギャルソンだという。COMME des GARCONS。コムデギャルソン。
お店のスタッフ達がエグチさんの好みに合うもの、似合いそうなものを取り置いてくれていて、忙しいエグチさんがひょいとお店に行けば、エグチさん向けセレクションが出てきて、その中からエグチさんが選んで買うことができるようになっているのだという。

いつもと同じようにふらっとお店に立ち寄ってお買い物にいそしんだある時。
エグチさん専用お取り置きラックの中に異彩を放つ一品があった。
「アナと雪の女王」の中の雪だるまのキャラクター・オラフがプリント?されている、エグチさん曰くペラペラの生地のブルゾン。
ギャルソンとディズニーのコラボだという。
さすがのエグチさんも50代にしてオラフを背中にすることはためらったらしい。
それでもショップの方に褒められてまんまと買ってしまったのだという。
「えーーーーー?!買ったんですか?」「いつどこで着るんですか?」とわーきゃー盛り上がるわたしたちを、バックミラー越しに、ニコリと見やって、エグチさんはまた前を見た。

そして続けた。

多分さ、売れなくて、あの小金持ちなら買うんじゃねーかってのもあると思うんだよな。だったら、オレが買ってやるよって。

皮肉めいた口調ではなく、大真面目だった。

多分着ることないとは思うんだけど、オレさ、スポンサーフィーだと思うんだよね。
続いてほしいって思うからさ、頑張ってほしいっていう気持ち、だよね。

だからショップ(正規取扱店)で、定価で買うのだそうだ。服飾品も車も。

ほほー。

お金の使い方、支払う時の心持ちを切り替えるだけで、こんなに豊かになるのか〜!!
目からウロコ!どころか、ボロボロ剥がれた気がした。

好きだから、いいものをこれからも長く提供してほしいから、ファンだから、頑張ってほしいという気持ちを込めて、支払いをする。

ほほー。

いいモノを手に入れたい。できるだけ質のいいモノ、できるだけ便利なモノ、できるだけオシャレなモノ、できるだけ性能がいいモノ。
でも、できるだけ、定価ではなくて、支払いは少ないに越したことはない。
そのために、ネットサーフィンして安いサイトを探したり、値切り交渉をしたり、セールを待ったりする。
自分の手元から離れていくお金に対する執着たるや、だいたい、ほとんどのひとは必死。
「行かないで、お金〜!」みたいな。

お金は循環する。世の中を行き来している。
お金で愛は買えないけれども、支払うときにお金に愛情を込めることはできる。
お金を通して、愛情を受け取ることができる。
自分の手元からお金を放つとき、「ありがとう」の気持ちを込めるのって、素敵じゃないか!そして大事なことだと思った。

「誰かが我慢したり泣いたりしている循環の中には、Happyは存在しない」、といったようなことを、見聞きしたことがある。
ようやく日の目を見始めた、「フェアトレード」にも通じる。
公正・公平な貿易。公正・公平な循環。

エグチさんは説教めいた感じなく、全く普段と同じトーンでさらっと話してくれた。もちろん、「小金持ち」をご自身のネタにしているのでその延長線ではあるけれども。

40年以上生きてきて、お金についてこんな話をしてくれるひとには出会わなかった。
お金持ちが高級ブランドを買うのは、ただの見栄だとしか思っていなかった。
お金持ちにもいろいろ種類がある。
エグチさんのように、愛情をもってお金を放っていこう、と思った。

カッコイイおとなに出会えて嬉しかった。ラッキーだと思った。

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写真は朝日に光るアラスカの森

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なかくきゆか
ちょっとおいしいおやつが食べたい。楽しい一杯が飲みたい。心が動く景色を見たい。誰かのお話を聞きたい。いつかあなたのお話も聞かせてください。

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