SABETSUする心を変えるデザインを探そう 連載第1回
縦、横、算数で「差別」をシンプルに考える。
差別と聞いて思い出すシーンがある。
「私、優しくないのよ。例えば障害者を見ると『いやだな』って思うもの」
そんなことを告白する女性に、男性の方はおそらく、この女性の獲得が最優先なのだろうか、「……それは普通だよ。僕は気にしないよ。」と口にはするが、どこか棒読みだ。
「この二人は結婚しない方がいい」と喫茶店の隣のテーブルで私はパソコンのキーを叩く手を止めずに聞こえなかったふりをする。
この二人は何が違うのだろう……。「価値観」としてしまうには問題がデリケートすぎる。しかし、ダイバーシティが叫ばれて久しく、私たちはいろいろな少数派を受け入れることを迫られている。特にマイノリティへの対応や発言は配慮が必要だ。
例えばトイレ。大阪市は男女どちらでも使える「多目的トイレ」にLGBTを象徴する虹色のステッカーを貼ったが、当事者から批判を受けて取りやめた。差別をやめようとしたことが裏目に出た例だ。またLGBTのどこにも属さない人たちがおり、Q、X、A……と出てきているし、ずっと以前から両性の人もいる。そうして考えると、性に関することでさえ、もっともっと細分化するのかもしれない。しかし細分化が進むほど当事者は困惑するし、差別がないように務めようとするマジョリティも戸惑う。
いったいマイノリティとは何なのか。私たちはどの感覚器でマジョリティとの違いを感じるのだろう。
人間は、仲間とは違うものを認識する必要がある。危険ならば逃げるか戦うかして身を守らなくてはいけないからだ。そうして、種を保存しなくてはいけない。しかし、人によって危ういことの許容範囲は違う。もし、差別をするなというのが無理なのだということ認めて、差別をし続ける場合、この徒労感から抜け出るために、社会の、心の新しいデザインをどこに探せばいいのだろう。
差別を「縦」「横」「算数」で考える
その知恵を授けてくれるのが、今回ご登壇いただいたAPUの出口治明先生。
1948年三重県一志郡美杉村(現:津市)生まれ。京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。退職後2008 年ライフネット生命保険株式会社を開業。2013 年に代表取締役会長に就任。2017年6月に取締役を退く。2018年1月より立命館アジア太平洋大学第四代学長に就任。
著書
『教養が身につく最強の読書』(PHP文庫、2018年)
『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』 (文藝春秋、2018年)
『人類5000年史I: 紀元前の世界』(筑摩書房、2017年)
他多数
詳しいプロフィールはこちら
http://www.apu.ac.jp/home/about/content2/
どの著書にもほぼ登場する「縦、横、算数」の考え方で、世の中のすべての問題を分かりやすくひも解いてくれる。
果たしてこの「差別」というデリケートな問題を、出口先生はどうさばくのだろうか。
・ 「縦」で考えろとは歴史的にどうであったか検証しろということである。過去はどうしてきたか、未来はどうあるべきかを時間軸で考えてみようということ。・ 「横」で考えろとは世界を見ろということ。世界ではこの問題をどうしているのかということで、日本独特の差別の原因を探る。・ 「算数」というのはシンプルに数、そしてファクトで見てみようということである。複雑な世の中の出来事や関係性を、冷静にシンプルに見てみようということ。
出口先生の目を通して見ると、複雑に絡み合った事象や、余計な心理がのしかかった事柄が、とてもシンプルな構造をしていることが分かる。
1 差別を「縦」で考える。
出口先生の話では、日本はもともと多様性の国だったそう。多様性の中では差別は生まれない。一人一人の違いを認めれば、差別は皆無にしかならない。どこから変わったかと言えば、とにかく戦後。しかし、その前に江戸時代という暗黒時代があるのだそう。
「日本のひどさはとにかく江戸時代から。江戸時代は最低の時代です。」
江戸時代の日本人は健康状態も悪く、平均身長もこの時代だけ低いのだそう。キリシタンを排除したことで多様性が一気に消失し、さらに、幕府は藩同士の自由な交渉をも制限した。たとえ災害があってもほかの藩を助けに行ってはいけないような状態で、餓死者も出た。そして、その後の開国で若干取り戻しつつあった多様性が、戦後で一気に崩れたという。
工場モデルの同質社会も差別を起こしやすい。戦後復興のため、日本は教育さえもフルオートメーション化した。義務教育後、高校、大学と同じような教育内容を施し、良い品質、しかし同質のサラリーマンを大量に作ってきた。その時代はそれが良かった。おかげで経済は成長した。しかし今は時代が違う。
「同質社会こそが差別を生むんです。皆が同じようだったら、少しでも違う人のことを排除するでしょう?」
私はフルオートメーション化したベルトコンベアからはじき出される障害者を想像し、ぞっとした。
2 差別を「横」で考える。
「これからの日本はジョブズのような人をどんどん作らなくてはいけないんです」出口先生は語る。ジョブズのような人というと、昔の日本人は「どのようなつめこみ教育がいいのだろう」と考えただろう。でも、ジョブズのような人間を作るのに必要なのは、優秀な教師でも優良な教材でもない。多様性である。
例えばGoogle。スタンフォード大学の博士課程に在籍していた、アメリカ人のラリー・ペイジとロシア人のセルゲイ・ブリンによって創業された。このかけ離れた祖国を持つ二人が一緒になったからこそ、素晴らしいことができた。
「多様性がなかったらアイディアなんかは生まれないんです。これは「縦」の考えですが、世界史を見ても分かる。文明が発達したところは、いろんな人が集まったところです。そしていろんな人がいる社会では、皆違うということが分かるから、差別なんて起こりようがないんです。」
確かに、みんなが同じでなくてはいけないというところから差別が生じるのは当たり前だ。鎖国の時代に出島で文化が生まれたのも頷ける。「世界はどうなのか」という視点の重要性に気づかされた。
出口先生は教育に関する本も出版している。その中では繰り返し教育改革の重要性を唱えている。「みんなで決めましょう。そして、みんなで決めたことをやりましょう。協調性が大事です。」今までの日本はこれで良かった。しかし、こんなことでは日本の未来はないと警告している。
「いやいや、みんなが違っていたら、意見が全然まとまらないのでは?」その質問に出口先生は笑う。
「世界から俯瞰してみれば、そんなことはないということが分かります。その証拠に、日本の会議の長さを考えてみてください。皆が同質の企業では、なかなか結論が出ないじゃありませんか。長い長い会議が何回も繰り返されます。グローバルな企業ではすぐ答えが出ますよ。いろんな意見がある方が、本音の議論ができるんです。共通言語と文化が違う人たちが集まるほど、そしてそれが違えば違うほど、共通言語を探し、データで話をするから、ことが進むんです。」
3 差別を「算数」で考える
「世界と比較して、日本はとても女性への差別が多い」
先日、医学部を目指す女性に差別があったことが判明した。出口先生はそんな世界から見たらあきれるようなことをしているのは日本だけだと語気を強める。
「クォーター制を取ったらいい。そもそも候補の段階から差別をしてはいけない」
例えば、2018年4月現在の日本の国会における女性議員の割合は衆議院で10.1%、参議院で20.7%である。これは先進国どころか、世界193カ国中158位。国の掲げる「女性活躍社会」とはどの口が言ったのかという印象だ。
「日本は、今までずっと男性に下駄をはかせてきた。女性にいまさら下駄をはかせても割りに合わない。下駄、5倍ぐらいでちょうど良いくらいですよ。」
会場の女性たちから拍手が沸き起こる。
主催団体
ASPJ(Alopecia Style Project Japan)
https://alopecia20.wixsite.com/alopeciastyleproject
NPO法人Reジョブ大阪
https://www.re-job-osaka.org/
文:NPO法人Reジョブ大阪理事 松嶋有香
写真:さっち
つづく(全3回)
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帰りは自力で帰ります(笑)
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