知らないと忘れたは違う
私は、国語辞典に関する取材を受けるし、イベントも開くことがある。その中で深イイ質問に巡り合えた。回答を考察することで、私の、辞典に対する理解も深まったエピソードを紹介します。
【質問】
そもそも知らない言葉を調べることはできないのでは?
【回答】
先生は知らない言葉を調べなさいというが、知らない言葉はどれか分からないので調べられないというお子さん。するどい!
基本的に辞書は知らない言葉を見聞きした時に引くものです。なので「知らない」ということを自覚しないと引けないのです。その言葉の意味が分からないと先に進めない時などは、まさにそうで、切迫して調べるものです。私の息子も小学3年生の時に、ハリー・ポッターの本を読みたい一心で、辞書を引きながら読んでいました。小3では、知らない言葉が多いはず。それでも、先を読みたい気持ちが、辞書引きの面倒くささを上回ったようです。
こうして、調べながら本は読み進められても、引いたあと、言葉の意味を忘れてしまうこともあります。でも、「知らない言葉」と「忘れた言葉」は違うのです。
生徒には、5歳からの付箋紙による辞書引き方法を勧めています。
この本は、私の講座の保護者の必読書に指定しています。古い本ですが、内容は古びません。本当に素晴らしいことは年月を経ても変わらないんです。
引いた言葉のページに付箋紙を貼ると、二度目に引いた時、「その言葉を忘れている」ということを知ることができます。本来、人間「忘れている」ことは、思い出せないのです(笑)
私の子ども時代は付箋紙というものがありませんでしたから、辞書で引いた言葉に赤ペンを引いていました。二度目の出会いは、自分の記憶力の低さにがっかりもしますが、もう一度覚え直す良い機会になりました。
知らない言葉をそのままにしておくと、その言葉は永遠に知らないままですが、一度でも辞書で調べた言葉は、たとえ忘れてしまっても、知らない言葉ではないんですね。そして、思い出すときに、脳はその言葉をもう一度学習することになり、定着度がアップするのです。