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鰺の二杯酢(『猫と庄造と二人のおんな』谷崎潤一郎)
小鰺の二杯酢を肴にしてチビリチビリ傾けている庄造は、一と口飲んでは猪口をおくと、
「リリー」
と云って、鰺の一つを箸で高々と摘まみ上げる。
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題名の通り、猫を溺愛するどうしようもない男「庄造」と、その男を取り合いながら猫に勝てない二人の女(前妻と現在の妻)の話。短編で読みやすい。
庄造の晩酌のアテは、毎日毎日鰺の二杯酢と決まっている。
前妻は、庄造への未練たっぷりでつなぎとめために、「離縁するに当たって何もいらないから猫のリリーだけは譲ってほしい」と言うが、庄造は、前妻がリリーを譲ってほしいなんて、強情で駆け引きをする気性のあの女のことだから裏があるに違いない、とかなり疑心暗鬼。
一方、今の妻は庄造がリリーを溺愛するのが気に食わなくて、猫を追い出したくて仕方がない。「私より猫が大事なんじゃないの?」と詰め寄られた庄造は、そんなわけない!ときっぱり否定するものの、結局は猫が可愛くてのらりくらり。
そもそも夕食のメニューが毎日毎日鰺の二杯酢なのは、庄造の好物かと思いきや、実は猫のため。今の妻は脂っこいものが好きなのに、庄造愛しさに、我慢して鰺をこしらえて食べているわけで、そりゃこの二杯酢が喧嘩の発端にもなる。
二人の女がむきになって取り合うほどの色男の庄造さん、どんな人かといえば
「太った人にはお定まりの、暑がりやで汗っ掻き」で「半袖のシャツの上に毛糸の腹巻をし、麻の半股引を穿いた姿」、さらにマザコンの気もあり、だそう。
裏も表もある女の気持ち、優しいのがとりえでうだつの上がらない男の気持ちが、テンポよく、ユーモアたっぷりに描かれている。