唐揚げスタンバイ
5cm角に切った鶏肉に下味をつけたものを私は「唐揚げスタンバイ」と呼んでいる。それはいつも、欠かさず冷蔵庫に常備されている。
「唐揚げスタンバイ」とは
唐揚げはいつだって誰もが好きなおかずだ。
揚げものの醍醐味である「熱々」を過ぎて、たとえ冷めてしまったとしても。
常温で食べるお弁当のおかずの中でも、常に最上位を誇っている。
実は私は、その良さをあまりよくわかっていなかった。
私が子どもだったときも、大人になって上の娘2人が生まれてからも、唐揚げは好きだけど「最上位」ではなかったから、月に1度食べる程度だった。
それが。
息子が小学校後半になった頃から、夕食に唐揚げを作る頻度が激上がりした。
唐揚げだけは週に3日出しても食べる。彼は小柄で食が細い方だったので、つい食べないよりは食べた方がいいだろうと思ってこちらも出す。出すとよく食べる。
そのうち、「とりあえず唐揚げを出しておけばなんとかなる」にこちらのスタンスが変わっていった。
そしてさらに数年経ち、小学生は中学生になり、体も少しずつながら大きくなり、一度に食べる唐揚げの量も増えてきた。食卓は、1人が食べればみんなも食べる。月に1度食べるかどうかだった私も、生まれて半世紀を過ぎて急に、育ち盛りのようなペースで唐揚げを食べるようになった。
とりあえずこれ、なにはともあれこれでいい、という高みにまで到達したこのメニューを、いつでも出せるように、私は4~5cm角に切った鶏肉に下味をつけたものを冷蔵庫に常備するようになった。
思い立ったらすぐ食べられるように、薄力粉と片栗粉をまぶせばすぐに揚げられるよう、冷蔵庫に「唐揚げスタンバイ」が常備されるようになったのは、そういうわけだ。
唐揚げ用下味付き鶏肉の紆余曲折
最初は、鶏胸肉と鶏もも肉を2種類、それぞれ2枚ずつを仕込んでいた。
鶏胸肉は皮を剥いで削ぎ切りにし、塩味をベースに下味をつけることにした。
まずは塩と酒、おろしたしょうがとにんにく。しょうがまたはにんにくだけ、というパターンもやったし、ごま油を加えたり、白胡椒を加えたりなど、いろいろちょこちょこマイナーチェンジもした。塩麹としょうがまたはにんにくだけ、というパターンもやってみた。
鶏もも肉は皮付きのまま角切りにし、醤油と酒、おろしたしょうがとにんにく。酒をみりんに変えたり、塩ベース同様に、しょうがまたはにんにくだけ、ごま油入り、白胡椒入り、おろし玉ねぎなど。どれもおいしい。
薄力粉と片栗粉をつけて唐揚げにしたら、大抵どうやっても美味しかった。
今日の唐揚げと一昨日の唐揚げの違いがわかる
しばらくして、息子は唐揚げが2種類であることを気にしていない、ということに気がついた。塩味だろうが胸肉だろうが、醤油みりんだろうがもも肉だろうが、「唐揚げ」ならいいのだ。いろいろと使えるし、と思ったが、結局は消費ペースが早くて、9割揚げ、せいぜい1割がグリル、というぐらいの料理の振れ幅で、食べ飽きないように味も変えて、なんて配慮は、これっぽっちもいらなかったのだ。
そして私はというと、子どもに付き合って人生で最も高頻度で唐揚げを食べていたら、今までよりも唐揚げとの距離が一気に縮まっていた。
ざっくり「唐揚げっておいしいよね」だったのが、だんだん自分の揚げる唐揚げに対し、今日は一昨日のよりもおいしくできている、という微妙な味の差がわかるようになっていた。経験とはすごいものだ。
こうして唐揚げ生活が進むにつれ、マイナーチェンジの方向性は足し算から引き算になっていった。
鶏肉は、もも肉だけになった。わざわざ2種類買うのをやめた。
味付けも、これがなくても、あれがなくても、いや、むしろこれだけのほうがいいのでは、というところへと進んでいき、今は味付けに必要なものが3つだけになった。
「唐揚げスタンバイ」の味付けは、塩・砂糖・チューブおろしにんにく
今日も冷蔵庫に常備してある唐揚げスタンバイ、ここしばらくは同じ味付けで安定している。材料は、鶏もも肉、塩、砂糖、おろしにんにく(チューブでいい)。
・鶏もも肉は、皮付きのまま、5cm程度の角切り
1枚から取りたい唐揚げの個数や、お弁当に入れることも考えると、5cm程度の角切り、このサイズがちょうどいい。
そして切った先からポリ袋に入れる。
※下味だけつけたいときや冷凍保存にしておきたいときは、上の写真のように袋にきっちり入れた方が良く(余分な空気が入らない方が酸化しづらい)、後から粉をつけることも織り込むなら、少し大きめのポリ袋に入れておいて、空気を抜いて口を閉じておくのがいい。
・塩は肉の重量の1%弱+砂糖は塩の半分の量+おろしにんにく
お弁当などで冷めた状態で食べることも考えると、私には0.9%ぐらいがちょうどいい(冷めると塩分は強く感じる)。塩は、まずはお肉の重さの100分の1で簡単に計算した後、そこからちょっと減らす。大雑把さだが、失敗しないからご安心を。
砂糖は、その塩の半分の量。味というよりも、保水効果でお肉がかたくなりにくくなる。
おろしにんにくはチューブで十分。お肉2枚分なら、1cm程度むにゅっと出す。
この3つを、切った肉を入れたポリ袋に加える。
・味をなじませる
軽く袋を膨らませて口を閉じ、全体をふって塩と砂糖を全体にまぶしてから、空気を抜いて袋の上から軽く揉み込んで味をなじませる。こうしておくと、冷蔵庫で3〜4日持つ。
すぐに粉をつけて揚げてもいいが、1〜2日冷蔵庫に置くとすごくおいしくなる。一口噛んで咀嚼すると、じわーんと肉の奥にも塩が程よく効いているのがわかる。
これで、唐揚げスタンバイは完成。
これはそのまま焼いてもおいしい。魚焼き用グリルで10分ぐらい中火で焼くと、抜群においしい。オムライスの具にしてもいい。肉が具の一部として埋もれずに、ちゃんとメインおかずになってくれる。
と汎用性はあるけれど、思春期を闊歩している息子は、元気がない日も、機嫌が悪くてちっともしゃべらない日でも、相変わらず黙々と唐揚げをよく食べるから、私も相変わらず何も聞かずに「とりあえず唐揚げを出しておけばなんとかなる」と思って唐揚げを出し、今のところ9割が唐揚げとして消費されている。
さあ、ここまでくれば、あとは粉をまぶして揚げるだけだ。
それもまた、紆余曲折があっての今がある。