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乳がんで全摘手術、抗がん剤治療しながらフラメンコ発表会に出たら、新しい出会いに恵まれた件
「乳がん」×「フラメンコ」で繋がった人たち
乳がんになって、抗がん剤治療の真っ最中に
フラメンコの発表会に出た。
この「乳がん」×「フラメンコ」というニッチなキーワードのおかげで、3人の方と嬉しいつながりを持つことができた。
乳がん、フラメンコの経緯についてはこちらの記事で。
1.乳がん経験者のフラメンコ講師との出会い
自分で右胸にしこりを見つけて病院に駆け込んだのが2016年の年末。
年の瀬だったので、当日中にエコーとマンモグラフィー検査の結果が聞けるクリニックを訪ねて、その場で
「わたしの勘が正しければ、90%悪性です」
と言われ、頭を殴られたような気持ちになりながら新年を迎えた。
年末に取った細胞診の結果が出て、「乳がん」の診断が出た。
その時1番初めによぎったのは
「フラメンコ、続けられるかな?」
という想いだった。
なぜそんなことを思いついたかわからないが、乳がんと宣告された瞬間に、思ったことだった。
先のことは分からないけど、とにかく手術や治療はする。
とにかくフラメンコの先生に病気のことを伝えて、フラメンコはできるだけ続けたい、発表会もできるだけ出たいと話そうと思った。
先生にそのことを告げると、先生は目に涙をいっぱい溜めながら、
「どんな形でも、やりたいようにやってくれたら応援するよ」
と励ましてくれた。
そして、先生のお知り合いでも乳がん経験者がいるから、もしよかったら話を聞いてみたらどうかと、乳がん経験者で、フラメンコ講師をしている方を紹介してくださった。
その方の連絡先を聞いて連絡してみると、とてもさっぱりしたアネゴ肌の方で、初対面にもかかわらず、
「とりあえず、ご飯を食べながら話しましょう!」
と誘ってくださった。
ランチをしながら、彼女の乳がん経験談を聞かせてもらうことができた。
私のように全摘手術ではなく、転移がなかったため、乳房の皮膚を残し、中身を切除して、その空洞に人工再建する手術をしたようだ。詳しくそのときのことを話してくれ、術前、術後の写真なども見せてくれた。
彼女はリンパ転移がなかったため、抗がん剤はしなかったようだが、手術後のリハビリのアドバイスを事細かに教えてくれた。
乳がんの手術をすると、腕が上がりにくくなる副作用がある。
彼女は確か、退院の数日後にライブを控えていて、ライブとライブの間に無理矢理手術を突っ込んで治療したそうで、腕をあげるリハビリは気合で頑張ればちゃんと上がるようになるよ、と教えてくれた。その証拠に今も上がるよ、と腕をあげて見せてくれた。
これから自分が突入する治療に恐れおののいていたが、実際に体験した人がリハビリを経てちゃんと腕が上がるようになっているのを見て、どれだけ救われたか分からない。
「手術で縫った部分が破れそうで怖い」
と言ったら、意外と破れないから大丈夫!という励ましをもらった。
その方に勇気をもらい、手術後はリハビリを頑張って意地でも腕をあげるぞ、と気合を入れた。
彼女は、わたしの入院中も、その方のご主人が病院に私の病院の近くにお勤めと言うことで、病院にお見舞いに来てくださり、励ましの言葉をかけてくれた。
アドバイス通り、私は術後すぐからリハビリに励み、元どおりに腕が上がるようになった。
めちゃくちゃ怖がりで痛がりの私のことだ。
きっと「フラメンコを絶対にやる」いう気持ちがなければ、頑張ってリハビリで腕を上げることなどしなかっただろう。そうしたら今でも右腕がちゃんと上がらなかったかもしれない。
アドバイスをくださった先生はもちろん、フラメンコの存在にも本当に感謝している。
2.入院中「がん友」との出会い
手術は無事終わった。そこからは痛々しい状態のまま、早速腕をあげるためのリハビリが始まる。
リハビリは、決められた時間に看護師さんの指導を受けることができる。入院中はみんなヒマなので結構みんな集まって、さぁやってみましょう、と自分と90度の位置の壁に手をつき、そこからじわじわと指を壁にはわせ、壁をつたってじわじわと腕を上げていく練習だ。
怖がらなくても裂けませんよ、なんてリアルな会話をしながら進む。外科手術の病棟はけっこうおもしろい。
そして周りを見ると、私より前に手術したはずが、意外と腕が上がっていない人が多かった。
その中で、隣の女性が、ひときわ腕が上がっていた。年代も同じくらいかな?思い、せっかくなので話しかけてみた。
「腕、めっちゃ上がってますね」
と聞くと、彼女は1週間前に全摘手術を受けたと言う。
詳しく聞くと、彼女はわたしと同じく、乳房全摘、リンパ転移ありでリンパの郭清(切除)も受けていて、手術の規模も同じだった。
ここでちょっと説明しておくと、乳がんでも「ひよっこ」と「ベテラン」がなんとなく分かれている。
そもそもわたしが入院していたのはがん専門病院の乳腺外科病棟。「乳がん」と聞くと悲壮なイメージを抱く方がいるかもしれないが、そうでもない。
お互い自己紹介しなくとも
「ここにいる全員が乳がん」
というお墨付きがあるのでなんだか安心。
なので病棟は比較的ワイワイしていた。「悪いとこ切ったし♪」というナチュラルハイもあった気がする。
そして、乳がんの程度により、治療方針が異なるので、話の合う合わないが出てくる。
腫瘍が小さく、乳房を温存したまま手術をする人なんていうのは、乳がん病棟ではライトだ。ほとんどの人は抗がん剤治療がないし、入院も3日程度で入院も3日程度。
次に大変なのが乳房全摘手術で、リンパ節転移なし。乳がんの治療方針を考えるときに、大きな分かれ目となるのが、リンパ節に転移しているか否かだ。
リンパ節に転移していると、リンパ液を通じて全身にがん細胞がばらまかれているとみなされ、抗がん剤を薦められる。禿げちゃうコースだ。これがわたしのコース。リハビリで出会った彼女も同じだった。
わたしたちのような乳房全摘手術済、リンパ郭清(切除)あり、のパターンは、腋下のリンパ節までガッツリ取られていて、リンパ液の行き場がなく水がたまりやすいのが難点だ。
そして、リンパ郭清手術を受けていると、ほとんどのパターンで6か月間の抗がん剤治療を薦められるので、「全摘、リンパ郭清」と聞いた時点で「抗がん剤仲間」なのである。
この「抗がん剤治療」の有無は、連帯感が違う。がっつり腕をあげているオトコマエな彼女と病状も似ていることもあり、一気に距離が縮まった。
彼女と話す中で、身の上話をした。
すると、彼女はゴスペルをやっているそうで、なんとなく趣味人同士だな、という共通項を感じた。
わたしはどうしてもフラメンコをやりたいので、腕を上げれるようになりたい。だから、どうやったか教えてほしいと話した。
するとやはり
「痛くても上げちゃえば上がるよ」
と言われた。
痛がり怖がりのわたしは、ここでもまた背中を押され、わたし史上最高に頑張ってリハビリに励んだ。
毎日決まった時間にやるだけでなく、リハビリのやり方が貼られた病棟の廊下に出向き、ひとりでリハビリした。
通りすがりの看護師さんに
「頑張ってるわね」と褒められた。
そこまで自主的にやる人は少ないらしく
偉いねと言ってもらえて嬉しくて、またやる気が出た。
おかげで退院する頃にはバッチリ腕が上がり、退院3日後のフラメンコレッスンにも参加して踊ることができた。
さすがに先生がビックリして
「大丈夫ですか?」と心配していたが、手術をしても、またフラメンコを踊れる嬉しさでいっぱいだった。
彼女と仲良くなり、病院での夕食後に、美しいレインボーブリッジが見える入院者向けの休憩室でおしゃべりしよう、と約束して待ち合わせをした。
お互い酒好きで、本当なら飲みたいけど入院中だしね、とコーヒーを飲みながら、あれこれおしゃべりする。
彼女は1週間前に手術していたので、退院するまであと3日くらいだったが、それまで毎晩待ち合わせて、消灯までおしゃべりした。初めて会った気がしないくらい毎日話が盛り上がった。なんだか女子会みたいでとても楽しかった。
その後、抗がん剤が始まる頃には、彼女と都内で待ち合わせて、一緒にウィックを買いに行った。
抗がん剤を打ちはじめて、お互いの副作用の具合とかLINEをしあった。ときどきお互いの通院に合わせて都内で待ち合わせをして、ランチをした。
彼女は抗がん剤治療中なのに、ランチビールを飲んでいて、ビビりなわたしは飲んで良いものかと迷ったが、彼女が「別に平気」と言ってくれたので、早々にお酒デビューも果たし、彼女とお互いにウィッグをかぶって、都内でランチビールも楽しんだ。ほぼハロウィンパーティな気分。
このゴーカイで明るい彼女と知り合えて、わたしの抗がん剤ライフはとても楽しいものとなった。これも、乳がんとフラメンコが引き合わせてくれたご縁だと思う。
彼女はその後、抗がん剤を打ちながら出たフラメンコの発表会を見に来てくれた。終演後にホールに行くと、彼女は泣いていた。
お互い頑張ったね、とわたしも胸が熱くなった。彼女もゴスペルに参加して歌っていた。さらに彼女は、抗がん剤の副作用が意外と軽いといって、休職していた職場に復帰したそうだ。抗がん剤打ってハゲてたって、普通の生活ができるのだ。彼女には本当に勇気と元気をもらった。
3.ブログ発信を見て、コメントをくれた乳がん仲間
わたしが抗がん剤を打ちながら、フラメンコ発表会に出たことを別のブログに書いていた。するとある日、その記事にコメントがついた。
乳がんになってしまい治療中だけど、フラメンコをやりたいと思っている。だけど、抗がん剤を打ちながらできるのかがわからず調べていたところ、私のブログにたどりついたそうだ。
いろいろ知りたいと言うのでFacebookでつながり、今まで自分が工夫したことや、発表会ではどんなウィッグを使ったかなど、あれこれ伝えた。
そのおかげかは分からないが、彼女は教室の先生にも快諾をもらい、抗がん剤を打ちながらフラメンコ教室に通った。
もともとフラメンコ経験者だったようで、抗がん剤が終わり、少し毛が生えてきたくらいの時期に、フラメンコライブに出るとFacebookで知った。
わたしのブログにメッセージをくれた人で、かつ「乳がん×フラメンコ」という、めちゃくちゃレアなキーワードで繋がれたので他人事とは思えず、ぜひそのフラメンコライブを見に行きたいと連絡し、見に行くことにした。
それまではブログやインターネットを介したつながりなので、本人にお会いするのは初めてだが、ぜひその姿をこの目で見たかった。
彼女はウィッグではなく、バンダナをを巻いてオシャレに、かつ堂々と、フラメンコのステージに立っていた。とても素敵だった。
彼女はスペイン語圏の大使館勤めでスペイン語がペラペラで、ご主人は南米料理のレストランを経営していらっしゃる方と知った。
そんなバックグラウンドはあまり気に留めないまま、とにかく「乳がん×フラメンコ」というキーワードで繋がった相手が他人と思えずに応援している。今でもFacebookがつながっていて、お互いの生活があり、会う事はないが、それでもやっぱりいつも彼女の投稿を見ると、他人事とは思えない、同士と思えてしまい、密かに応援している。
自分の経験を発信をするということ
「抗がん剤」に関しては、アンチ本もめちゃくちゃ出ているし、実際とても強い薬だ。暴走するがんを力づくでブチ倒すという性質の薬なので、「毒をもって毒を制す」の極みだなと思う。
だから、抗がん剤治療やむなし、となっても、やはり治療はわたしにとってかなり不安で怖いものだった。
抗がん剤による外見をケアする相談窓口「アピアランスセンター」にも足しげく通い相談した。乳がんはがんの中ではひよっこなので、抗がん剤も抗がん剤の中ではそこまで強くないので大丈夫と言われていたけど、そもそも抗がん剤を打つのが初めてなので、ひよっこと言われても困る。
いずれにせよ禿げるし、白血球は爆下がりするし、強い薬には変わりない。
だから抗がん剤を打つことで、どのぐらい体力が落ちるのか、どのぐらい副作用が出るのか、不安で不安で仕方がなかった。
だからヒマを見つけてはネットで、「フラメンコの発表会に、抗がん剤打ちながら出た人」はいないか?と検索しまくっていた。
わたしの自慢の検索能力をもってしても、当然そんな変わり種は出てこなかった。せめてダンスの発表会に出た人がいないかと見つけてみたが、それもやはりいない。
どちらかと言うと、「抗がん剤」で検索して出てくるブログは、副作用が辛いとか、そういう闘病日記みたいなものばかりで、前向きな明るい内容のものがあまり多くなかった。
このnoteにも以前のブログから転送したものを掲載しているが、乳がんの抗がん剤治療中でもそれなりに普通に生活できて元気になれるパターンもあるよと言うメッセージを込めて書いている。
結局わたしは、抗がん剤治療中に、「乳がん×フラメンコ」の組み合わせでキーワードが見つけられなかった。だから、わたしが残そうと思って、記録に残している。
「乳がん×フラメンコ」と言うニッチすぎる掛け合わせがキーワードで出会える人というのは本当に少ないと思う。たまたまブログにコメントをくれた彼女がいたが、もう出てこないかもしれない。
だけど自分から病気のことや、フラメンコをやりたいという想いを伝えることで、こんなに素敵な出会いがあった。
だから、「乳がん×フラメンコ」じゃなくても、自分の世界を発信すること、共有したいと思うことで、新たなつながりや仲間ができて、自分の世界がもっともっと豊かになると思う。
改めてこんな記事を書いたのも、またこの記事から新たなつながりが生まれるかもしれないと思ったからだ。
例えばフラメンコでなくても、乳がん治療をしながら何かしてみたいと思う人のきっかけになるかもしれないし、別の病気でも、何かのきっかけになるかもしれないから、私はまた発信し続ける。
何か聞きたいことがあったらコメントくれたらうれしいし、できる範囲で応援したいと思っている。
乳がんを通じたこれらの出会いも、本当に恵まれていて、ありがたいことだなと思うし、わたしの経験がいま必要な人に届けばいいなと思っている。
みんながみんなので出来ることをして、助け合って補いあえる世界がいいなと思う。
キレイ事だが、本気でそう思っている。
他人の足を引っ張るのではなく、得意な部分を出し合って、協力しあって世の中作り上げていけばいいなと思っている。
わたしはわたしを発信する。
だから、あなたの声も聞かせてほしい。
今日もお読みくださりありがとうございました!