映画好きなら絶対見るべし、認知度の低さ以外は完璧!「映画大好きポンポさん」
観ている間、胸がずっといっぱいだった。
こんなに希望に満ちた映画は久しぶりだ。
認知度ゼロのまま観た、まさに映画のダークホース
「映画大好きポンポさん」について、熱く語ってみようと思う。
息子に誘われなければ、観なかった映画
息子とは小さいころからよく映画に行く。
子育てをしていると、子どもにかかりきりになり、自分の時間がなかなか取れない。
私がもともと映画好きなので、映画は小さいころからよく観に行ったが、観る映画はやはり子ども優先、というか子どもの好みオンリーだ。
春休みの「ドラえもん」に始まり、ゴールデンウィークの「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」、夏の「ポケモン」、さらにピクサー作品やらユニバーサルのアニメやら、懐かしい響きだが「妖怪ウォッチ」などので冬映画。さらにゴジラとかスパイダーマンとか息子の好みの作品を入れると、それを網羅するだけでも大忙しだ。
なので自分のための映画を観る余裕がなく、しばらく子どもの好みの映画ばかり見ていた。
息子が中学生になり、最近やっと少しだけ息子に手がかからなくなってきたので、時間を見つけて自分の観たい映画を観るようになった。思い返せば、自分のための映画を観る「時間」は作ればあったが、「心の余裕」が全くなかったのだと思う。
なので最近は渋めの映画なんかを観て、そういう大人の映画を楽しめるようになった自分が嬉しくて、映画のレビューなんかも書いていたのだが、
ポケモンもドラえもんも卒業した息子が、今回久しぶりに観たい映画があるから連れて行ってほしい、と言い出した。
どんな映画か聞いてみると、聞いたこともないアニメの映画だった。
ミニシアター系のものでも、なんとなく映画タイトルを耳にすることくらいはあるが、これは全くの無知状態。認知ゼロ状態である。
これが、私がひっくり返るほどビックリする映画だった。
「映画大好きポンポさん」
タイトル聞いただけで観る気をなくす。
「映画が大好きなポンポさんの話」が何か?という感じだ。
しかも、ビジュアルはこんな感じ。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
予告編を観ても、「ふーん」という感じだ。
息子がこれを見たい理由は、挿入歌の「例えば」が好きで、それを聞いていたらこの映画にたどり着き、面白そうだなと思ったらしい。
いくら息子を連れて行くとはいえ、大人の映画鑑賞料金は1800円だ。あまりに大損する映画には行きたくない。なので「へぇ、考えとくわ」と言って、少しスルーした。できれば忘れてくれ、という気持ちで。
無関心だった映画が、まさかの高評価
しかし毎日のように「行きたい」というので仕方なく、映画.comで映画の情報を調べてみた。すると超意外なことに、高レビューの作品だった。
あの映画好きが集まる「映画.com」で星4.0。
わたしが絶賛した「すばらしき世界」も4.0だ。
レビューを読むと、どれも「想定外に素晴らしい」という内容のものばかりだった。これはもしや、大穴が来るかもしれない。と思った私は、手のひら返しで食い気味に息子「今週末、映画いこう」と言った。
るろうに剣心だの、菅田将暉の「キャラクター」だの、それなりに話題作が公開されているので、上映規模が小さく、劇場を探すところから苦戦した。ようやくみなとみらいの劇場で上映しているのを見つけ、予約した。
入場からエンディングまで、予想を裏切られまくる。
日曜日、夕方の回。予約したときにはさほど埋まっていなかった座席が、本編開始前にはすでにほぼ満席になっていて驚いた。
この前、期待した映画が大ハズレで、口直しに見た映画も大ハズレという失態だったので、今回は逆に楽しみだった。
幕が開くと、そこはバカにしていた「映画好きのアニメキャラがなんかふざけている話」のイメージが覆された。
これは、「情熱」の話だ。
予備知識なしで見たので、
まず驚いたのは
「ポンポさん」は日本人ではなく、ジョエル・ダヴィッドヴィンチ・ポンポネットという外国人で、しかも映画の街「ニャリウッド」の大プロデューサー。祖父には偉大な映画プロデューサー。
次に驚いたのは、
タイトルに出てくる「ポンポさん」は主人公ではないということだ。
ド陰キャでオドオドしている、ジーンという青年が主人公だ。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
ジーンは小さなころから人とのコミュニケーションがうまくいかず、映画の世界にのめりこんで自分を保っていた。そんな彼にとって映画は「映画が好き」なのではなく「映画以外に好きなものがない」「映画を撮るか、死ぬか」ほどの大きな存在。
そんな彼を自分の映画制作に携わらせたのが大手映画会社のポンポさん。制作アシスタントにジーンを起用した後、次回作はジーンを監督に指名し、映画を撮らせる。
ジーンの特技は、あらゆる映画のカットをすべて覚えていること。映画を観る際にもらえる冊子で、予備知識のような漫画が読めるのだが、ポンポさんがジーンを採用する面接のとき、ポンポさんの作った映画最新作の、1500カット目は何か?と聞かれて即座に答えていた。
もともと才能があったのだろうが、映画にどっぷり浸かってきたジーンは、「これだ!」という画が脳内にしっかりとあって、映画を撮るときも編集をするときにも、とんでもない才能を発揮する。
オドオドして「生きててすみません」を背負っているようなジーンが、映画監督に任命され、映画を撮って行くにつれて、どんどん自信をつけていく。
それに伴い、女優を夢見てこの映画で初起用された主演女優の女の子、ナタリー・ウッドワードもどんどん自信をつけていく。
また、映画制作という「裏方」にスポットを当てていたのも新鮮だった。わたしたちは普段、完成された2時間程度の作品しか観る機会がないが、その裏側には、資金集め、台本作り、キャスティング、オーディション、ロケハン、ロケ、撮影、編集など数多くの手順がある。
そして撮影の最後に待ち受ける「編集」という作業。
この「編集」によって、映画の出来が大きく左右される。
どれもすべて「良い」と思って撮ったシーンだ。
だがそれを合計すると11時間にもなってしまう。
何を切って、何を活かすか。
そしてテンポよく観客をひきつけ、いかに最後までリードするか。
そのためには、11時間の撮影記録から9時間半を削り、1時間半、つまり「90分」にまとめるという「取捨選択」が必要だ。
ジーンの苦悩と情熱と葛藤が伝わってくる制作シーン。
迷いながら、悩みながらも、「映画しかない」青年、ジーンは大きく成長を遂げる。
その苦悩も含めて見越していたポンポさんの厳しくも温かいまなざし。
本編に出てくるすべてのキャストを、そしてこの映画を作ったすべての人を、いや、映画に携わるすべての人を、いや、この世に生きているすべての人を応援したくなるような、胸が熱くなり、希望に満ち満ちているストーリー。
挫折を味わったことがある人や、辛酸をなめた経験のある人は
必ずや彼に自分の一部を見出し、そして勇気づけられるだろう。
その辛酸こそが、彼の才能を爆発させる。
そして小さいころからリア充路線まっしぐらだった同級生のアランは、大人になってから初めて「自分の何もなさ」に気づいて立ちすくむ。
そしてこのジーンとアランの交流が、また希望を生む。
ずっとずっと胸がいっぱいのまま、途中でたまらず涙を流し、笑い、応援し、心の中で声援を送りながら、エンドロールを迎えた。
この映画、たったの90分しかない。
なのに、もっともっと長くて中身が濃いように感じた。
観終わった後は、感動が言葉にならずに、息子と顔を見合わせて「・・・最高だったね」と言うことしかできなかった。
周りの観客が「久しぶりにこんなに泣いた」と感想を話し合っていた。
あまりにすごい映画だったので、パンフレットを買って帰ろうと売店に寄ったら、長蛇の列だった。そのすべての人が「映画大好きポンポさん」のパンフレットを購入していた。
おそらく観客のほとんどが、わたしと似たような感想を持ったのだと思う。
認知度以外は完璧な作品
こんなに認知度が低く、こんなに完璧な作品はあまり見たことがなくて驚いた。パンフレットでプロダクションノートを読むと、pixivという電子マンガで話題になり、映画化になったというが、そもそも当初は深夜アニメの企画として立ち上がった作品らしいが、そもそもこの企画自体ががボツになり、あきらめきれなかった企画者がコツコツ漫画を描き溜め、ネットに無料公開したことがブレイクのきっかけだったそうだ。
なのでタイトルの甘さや、大々的な宣伝はなされなかったようで、知る人ぞ知る映画、となったようなのだが、これは知る人ぞ知る、のマニアックな映画で終わらせてはいけないくらい面白く、素晴らしい作品だ。
公開規模も小さく、すぐに終わってしまう劇場がほとんどだと思うが、なんとか認知度を上げて、みんなに見てほしい作品だ。
何より、例のウィルスと、わけのわからない政府に振り回されて希望も何もあったもんじゃない、というこの時代に「これしかない」というピンポイントに情熱を惜しみなく注ぐ主人公の姿に勇気と希望をもらえる。
勇気と希望とか、あえてキモチワルイ言葉を使うが、本当にそうとしか言いようがないのだ。
もしこの記事を読んで、少しでも作品に興味を持ったあなたは、今すぐに上映館を探して、すぐにでも観に行っていただきたい。そのうちamazonプライムなど、サブスクにも上がると思うが、やはり映画制作の話なだけに、ぜひ映画館で観てもらいたい作品だ。
今日もお読みいただきありがとうございました!