海老蔵はやっぱり華やかだった「海老蔵歌舞伎」@明治座
海老蔵ファンはガチだった
海老蔵の歌舞伎を観たのは久しぶりだ。
30代で歌舞伎にハマり、いろいろな舞台を観たが、出産してからは歌舞伎どころではなく、息子の好きそうなアニメやら昆虫やら怪獣の世界にどっぷりだった。
つい昨年、たまたま病院の帰りに歌舞伎座の前を通り、例のウィルスで歌舞伎の公演が短編になっていて時間的にもちょうどよく、さらにその日が自分の誕生日だったため、十数年ぶりに飛び込みで歌舞伎を観たのが復活のきっかけだった。
久しぶりに観た歌舞伎は、若い頃よりもさらに面白く感じられ、絢爛豪華な衣装など世界観、無駄がなく研ぎ澄まされた所作、マイクなし、三味線など限られた楽器や長唄で語られるストーリーなど、アナログでシンプル、引き算の美学に改めて感動した。
とはいえそこまでマニアではないので未見の演目もたくさんあり、知識もあまりない。
また何か良い演目があれば観たいなと思っていたところに、「海老蔵歌舞伎」で新作もやると知り、チケット入手。歌舞伎座の演目ではなかなか海老蔵が出ないので、昔も一度見たきりだ。
当時は先代の中村勘三郎にハマっていて、コメディタッチなものや野田秀樹との現代歌舞伎なんかも観ていたが、いろんな役者さんの舞台にも触れた。その中で、海老蔵は、当時からひときわ華やかだった。
久しぶりの海老蔵。しかも今回は息子の勸玄くんもバッチリ出る「海老蔵ファンクラブ」的な感じだ。
海老蔵なら見ごたえあるだろうと、歌舞伎初体験の友人を誘い、いざ出陣。
ふだんは歌舞伎座しか行かないので、人形町の明治座はいささか勝手がわからないが、なんだか今日の海老蔵歌舞伎は、ふだん訪れる歌舞伎座より気合い入ってる人が多い気がする。着物姿は歌舞伎鑑賞では当たり前に見られるが、紬だったり小紋だったり、カジュアルな着物の人が多い印象。
だが今日は完全にみなさん「おめかし」している。着物でも、紬はあまり見かけず、色無地や訪問着など、要はかなりよそゆきな着物姿が圧倒的に多い。洋服の方もバッチリおめかしな方が多い。
海老蔵が出る舞台はチケットが取れないと聞いていたが、これだけ熱狂的ファンがいるということか。と開演前から思っていた。ガチ勢がかなり多い感じで、普通にきちゃってすいません、なんて思うほどに客席が熱気むんむんだった。
いざ開幕 第一部 実盛物語
いざ開幕。最初は実盛(さねもり)物語。
あらすじは歌舞伎座サイトより引用。
一、実盛物語(さねもりものがたり)
知勇を備えた武将実盛と源氏の白旗を巡る物語
時は平家の威光が絶頂の世。琵琶湖のほとりに暮らす九郎助と小よしの夫婦は、源氏再興の念願かなわず命を落とした木曽義賢の妻で、懐妊中の葵御前をかくまっています。そこへ、平家方の斎藤実盛と瀬尾十郎が生まれてくる子の検分のためにやってきます。追いつめられた九郎助夫婦が苦し紛れに差し出したのは赤子ではなく人の片腕。ひそかに源氏方に心を寄せる実盛は、瀬尾を巧みに言いくるめて葵御前の危機を救います。瀬尾が去った後、実盛は源氏の白旗をつかんだ小まんの腕を切り落とした様子を語り始めます…。
歌舞伎の代表的な捌き役の一つで、知勇を兼ね備えた武将斎藤実盛を市川海老蔵が、小まんの息子太郎吉を堀越勸玄が勤めます。時代物の名作をご堪能ください。
海老蔵といえば成田屋、江戸時代に市川團十郎が作った歌舞伎十八番「鳴神」や「助六」など派手なイメージが強いのだが、今回の実盛物語は、動きも少なくめっちゃ地味。そもそも源平あたりの時代の歌舞伎は、設定もせりふ回しもよくわからず、イヤホンガイド頼みだ。
よりによってなんでこんな地味な話を、と思ったのだが、そういえば海老蔵ファンの中には勸玄くんを観に来ている方もかなり多く、要は勸玄くんが活躍できる子役ものの演目だったようだ。そしてサイトによると、いまの海老蔵と團十郎も34年前に親子共演しており、もう皆既月食なみの歴史的瞬間なわけだ。海老蔵はいつもの派手さを抑えて、静かに勸玄くんを見守っている感じ。
34年ぶりの親子共演については、歌舞伎座のサイトで後から知った。
『実盛物語』では海老蔵が斎藤実盛を、堀越勸玄が太郎吉を勤め、海老蔵と十二世團十郎が昭和62(1987)年に歌舞伎座で共演して以来、34年ぶりに成田屋親子の共演が実現する話題のひと幕です。
さらに演目途中でわかったのだが、海老蔵の家庭を重ね合わせたようなシーンがあり、このあまり動きがない演目は「あえての」だと理解した。
海老蔵の派手なキメ!は多くなかったが、話の筋は裏があり、少し泣ける場面もあって満足。でもやっぱりそこまで海老蔵ファミリーファンではないわたしは、もう少し大胆な海老蔵も観たかったな、という感じ。
しかし周りの観客の方はもう「勸玄くん」がセリフを言っただけで「きゃぁ~かわいい♪」と絶叫である。歌舞伎は世襲制で、宝塚のように華々しい引退などもなく、生きてるうちは演じる、うっかりすれば人間国宝、なんていう、歳を重ねるごとに演じ方も変わっていって、噛めば噛むほど味わい深い「スルメ」みたいな楽しみ方もできるので、小さい子供の頃の役者がだんだん育って立派な役者になるのを見届けるという長いスパンでの応援ができるのだ。
そういう意味では、あまり子役を長時間出す演目が少ない歌舞伎の中では、今日のように勸玄くん出まくり、な舞台は貴重なのかもしれない。レアなものを見られたということで、勸玄くんが20代になったあたりで、また成長ぶり見る、などができるのが楽しみだ。
「clubhouse」の企画が実現!新作歌舞伎「KABUKU」
2作目は新作歌舞伎。これはこれで声のSNS「clubhouse」でだべってる間に企画ができて、それを実現させた作品。
「clubhouse」というアプリが立ち上がったとき、わたしも何度か海老蔵さんがいろんな人と話しているのを聞いていたが、いかんせん聞いてしまうと他のやりたいことが全く進まないので、このアプリからすっかり離れてしまった。でも海老蔵さん、アプリを開くと必ず誰かとおしゃべりしていて、「暇なの?」と聞きたくなるくらいだったので、公開企画会議みたいなのをやって出来上がったものなのだろう。
新作歌舞伎は昔いろいろ見たが、海老蔵がどんなものを作るのか楽しみだった。
まだ京都南座の公演があるので、ネタバレはしないでおこうと思うが、今回は劇作家とのコラボではなく、「企画もの」といったスタイルで短めの作品。
そして、海老蔵は面白いというより、やっぱりカッコよくなる。笑えるところもあるし、マスコットキャラクター的な勸玄くんがまたおいしいところを持っていき、愛嬌もたっぷりだが、「俺様、スター★」みたいな華やかなオーラがあるのは海老蔵独特の雰囲気だなと思った。
あらすじはこちら。(歌舞伎座公式サイトより)
二、KABUKU
「Clubhouse」から誕生した新作歌舞伎舞踊
江戸末期の洛中。不景気に悩む民衆の前に現れた一人の瓦版。酒癖の悪い瓦版は酔った勢いで民衆を巻き込む大騒動を巻き起こす。そしてその騒動は…。
市川海老蔵が演出、藤間勘十郎が演出・振付、人気漫画原作者の樹林伸が原作を担当。樹林伸と市川海老蔵は平成21(2009)年8月新橋演舞場にて初演された『石川五右衛門』に続いてのコラボレーションとなります。本作は海老蔵が中心となり「Clubhouse」でさまざまな意見や視点を取り入れながら構想。江戸時代と現代を重ね合わせた話題作にご期待ください。
久しぶりに野田版の勘三郎の舞台などを思い返してみると、やはりわたしはカッコイイ★スター!な海老蔵より、勘三郎の大爆笑コメディのほうが好きかなぁと思った。
歌舞伎でもなんでも、結局好みだ。
歌舞伎初心者でも楽しめる、おすすめ新作歌舞伎
新作歌舞伎ということで、以前わたしが見た舞台で特別面白かったり、異色だったものをあげておこう。
野田版 鼠小僧と研辰の討たれはシネマ歌舞伎だったりDVDも出ているので、気軽に見ることが出来る。ライブで観るのがもちろん最高だが、これはDVDで見ても相当面白いのでおすすめだ。予告編がyoutubeにあったので貼っておく。
野田秀樹の舞台を観たことがなかったが、こんなに面白いと思わなかった。
先代の勘三郎と野田秀樹との交流で生まれた作品だが、大傑作。
野田版 研辰の討たれ
鼠小僧
蜷川幸雄のシェイクスピア歌舞伎、なんてのもあった。(ちょっとけだるかったが、菊之助が美しかった)
宮藤官九郎とコラボだったり(もうハチャメチャ)
最近観てびっくりした超おすすめ歌舞伎演目
ちなみにわたしが誕生日に久々の歌舞伎座で観て、ひっくり返るくらい驚いたのが、市川猿之助の「蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)」
例のウィルス騒ぎで、長時間の演目ができず、40分くらいの短編をするということになり、猿之助が一人五役の超スーパー早替わりを見せてくれたのだが、ドラマの半沢直樹が終了直後だったのもあり、半沢ネタもウィルスネタもいれて笑わせた後に、とんでもない超絶技でビックリさせてくれた。
youtubeに一部上がっていたので見てみてほしい。
舞台ダイジェストと、その裏側。
この演目は再上映のリクエストがあったようで、2021年7月の歌舞伎で再演されるそうだ。一回見たけどめっちゃ見たい。最近は猿之助ラブである。
ここのところ演目チェックしていたのに、あまり見たいものがなく、たまたま海老蔵歌舞伎が目に入ったので観劇したが、七月大歌舞伎を見たら、3部とも全部見たいやつで困っている。歌舞伎座は情報解禁が遅いので、気づいたら予約が始まってたりする。
七月は夜の部で海老蔵まで出るとな!2部の身替座禅も勘三郎で観たが、コメディタッチで面白いのでまた観たい・・
歌舞伎に行くならイヤホンガイドは必ず借りよう
と結局、海老蔵歌舞伎の話が、とりとめなく自分のおすすめ歌舞伎の話になってしまったが、歌舞伎を見たことがない方も多いだろう。
だが、思っているほど敷居は高くないし、知識がなくとも「イヤホンガイド」という、初心者必携のツールがある。
イヤホンガイドは、各劇場で500円~700円程度で借りられる。初心者でも歌舞伎がわかるように、セリフの内容や長唄の歌詞、衣装の意味など歌舞伎のことをすべてライブ形式で演目を邪魔しないように解説してくれる。このイヤホンガイドの解説も、これまた名人芸だ。わたしは毎回必ず借りる。歴史的背景など細かい部分や、わかりにくい仕草があるのでイヤホンガイドがないと内容が分からないことが多い。イヤホンガイドさまさまである。
せっかく日本人に生まれたのだから、ぜひ歌舞伎の世界に足を踏み入れていただきたい。
関係ないけど、玉三郎はとんでもなく美しいので、最後に貼っておく。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました!