ボッティチェッリが見ながら制作した作品
前回に引き続きもう一点、オンニサンティ教会由来の作品を。
ジョット 「荘厳の聖母 / マエスタ」 1310年頃
現在、ウフィツィ美術館の中世絵画の部屋に展示されている元祭壇画です。これは、オンニサンティ教会のために描かれ、トラメッゾと呼ばれる仕切りにかけられていました。そのため「オンニサンティの荘厳の聖母」とも呼ばれます。
中世まで、教会は大まかに2つの空間に分けられていました。信者が座る入口側と聖職者が説教をしたり聖歌を合唱する祭壇のエリアです。聖職者達は神の言葉を信者に伝える立場にあるので、威厳を強調するために、トラメッゾで仕切りを作っていました。
16世紀にルターによる宗教改革が起こり、神は自分達の中にいると説いてから、カトリック教会の威信が揺らぎます。信者離れを避けるため、聖職者との距離を縮める試みとして、伝統の壁を教会から取り払ったのでした。
宗教改革が起こるまで、ジョットの作品はトラメッゾの右側にかけられ、信者は名の通り「荘厳」な聖母子を見ながらミサを受けていました。
実は先日ご紹介したギルランダイオの「聖ヒエロニムス」とボッティチェッリの「聖アウグスティヌス」も壁にかけられていました。2人は大先輩ジョットの170年近く前の作品を見ながら制作したのです。
ジョットの「マエスタ」は中世のビザンツ様式とルネッサンスを繋ぐ上で大切です。
ビザンツ様式は平面的で感情表現が見られない、硬い表現でした。これは聖人達は人間とは違うので、同じく立体的に描いてはいけないとされていたためです。
しかしジョットは、科学に基づいたものでないにせよ、奥行き、人体の厚みをもって描いています。美術史上「空間」に描かれた聖母子像は、ジョットのものが初です。王座、体のボリュームを感じさせる襞、聖母子をうっとりと見つめながら歌う天使など、伝統を覆す1枚です。
神の世界を表す黄金の背景や主要である聖母子が大きく、天使が小さく描かれる伝統は残っていますが、ジョットの空間と肉体表現は100年後のルネッサンスへ繋がる、大切なものです。